↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/111

Episode.103 作戦会議

帝国騎士団本部――大会議室。

そこには先ほどまでの団長室とはまるで異なる、肌を刺すような緊張が漂っていた。

中央には巨大な長机。

その上には帝国領周辺の地図をはじめ、黒狼の牙に関する資料、構成員の似顔絵、これまでに確認された襲撃地点などが所狭しと並べられている。

そして、その机を取り囲んでいる者たちもまた、帝国騎士団の中核を担う者ばかりだった。

近衛騎士部隊、特攻騎兵部隊、独立遊撃部隊、魔法騎士部隊。

各部隊を率いる隊長格が、一堂に会している。

先ほどミリアの一撃を受けて立ったまま気絶した、近衛騎士部隊装甲隊長――ガレッタの姿もあった。


「…………」


ガレッタは何事もなかったような顔で腕を組んでいる。

その横顔をリリシアがちらちらと見ていた。


「……なんだ」


「い、いえですぅ」


「言いたいことがあるなら言え」


「もう起きて大丈夫なんですかぁ?」


「問題ない……」


「立ったまま気絶してたのにですぅ?」


「……問題ない」


ほんの少しだけ声が低くなった。


「リリシア」


ミリアが小声で止める。


「その話はもうやめてあげよう?」


「はいですぅ……」


ガレッタが静かに咳払いした。

どうやら本人なりに気にしているらしい。

やがて――。


「――全員、揃ったな」


ギルバートが立ち上がった。

その一言だけで、空気が変わる。

先ほどまで僅かに残っていた私語が完全に消え、隊長たちの視線が騎士団長へ集中した。

ギルバートの隣には副団長シャルロット。

そして少し離れた場所に、ミリア、ライガ、リリシア、ゼインが座っている。


「これより――黒狼の牙討伐作戦について軍議を行う」


誰も言葉を発さない。


「既に知っている者も多いだろうが、黒狼の牙が各地へ設置している魔物結晶について、看過できない情報が入った」


ギルバートは前回ミリアたちへ説明した内容を、隊長たちにも簡潔に伝えていく。

魔物結晶、大元となる中枢結晶。

そして、それを破壊することで世界各地の結晶が連鎖的に起動する危険性。

説明が進むにつれ、隊長たちの顔から余裕が消えていった。


「我々の目的は二つ」


ギルバートが地図の一点を指す。


「大元の魔物結晶の確保。そして――」


指先が強く地図を叩いた。


「黒狼の牙の戦力を、可能な限り削る」


「可能な限り?」


特攻騎兵部隊の隊長が尋ねる。


「殲滅ではないのですか」


「理想はな」


ギルバートは即答した。


「だが、ガルフ・ガルシアを筆頭に奴らの戦力は未知数だ。初手から全戦力を投入し、失敗すれば帝国騎士団そのものが再び壊滅しかねん」


その言葉に一瞬だけ、室内の空気が重くなる。

――"再び"。

誰もが、その意味を知っていた。


「だから今回は段階を踏む」


ギルバートは構わず続けた。


「第一段階――幹部の分断」


そして。


「第二段階――各個撃破だ」


ライガの口元が僅かに上がる。


「分かりやすくていいじゃねぇか」


「お前は殴れる話になると嬉しそうだな」


ゼインが呆れる。


「で、どこを襲う?」


ギルバートの指が、地図の西側へ移動した。

山岳地帯――その谷間に記された、一つの古い要塞。


「――落日の砦」


シャルロットの表情が僅かに硬くなる。

周囲の帝国騎士たちも同じだった。

ミリアはその変化に気付いた。


「……何かある場所なの?」


ギルバートが地図を見つめる。


「先ほど話しただろう」


低い声。


「先代帝国騎士団が――黒狼の牙に敗れた場所だ」


「……!」


ミリアの表情が変わった。


「そこが……」


「ああ」


ガルム・クランゼル。

クラリス・リアンダー。

二人が命を落とし、無敗を誇った帝国騎士団が初めて敗北を喫した場所。


「現在、その砦は黒狼の牙によって再利用されている」


ギルバートの声に、微かな怒りが混じる。


「我々にとっては、因縁の地というわけだ」


「ちょっと待って」


ミリアが手を挙げた。


「黒狼の牙の本拠地って、ダグダートの地下じゃないの?」


かつて自分たちが囚われた場所。

忘れるはずがない。


「間違いではない」


シャルロットが答える。


「ダグダート地下は奴らの最大規模の拠点の一つだ。だが、黒狼の牙は世界各地に複数の拠点を持っている」


「つまり……」


「落日の砦もその一つだ」


ギルバートが続ける。


「そして我々の情報では、現在ガルフを含む複数の幹部がこの砦へ集まっている」


「……なるほど」


ゼインが腕を組む。


「叩くなら今ってわけか」


「そういうことだ」


ギルバートは全員を見渡した。


「問題は――どう分断するかだ……」


「魔法部隊による先制攻撃はいかがでしょう」


最初に提案したのは、魔法騎士部隊の隊長だった。


「砦の周囲へ部隊を展開し、合図と同時に大規模攻撃魔法を叩き込みます。混乱に乗じて各部隊が侵入すれば――」


「やめといた方がいい」


声を挟んだのはゼインだった。

帝国騎士たちの視線が一斉に集まる。

だが、ゼインは気にする様子もなく椅子へ深く腰掛けている。


「理由を聞こう」


ギルバートが促した。


「簡単な話だ」


ゼインは机の上に置かれた魔物結晶の資料を指で叩いた。


「俺たちが一番壊しちゃいけない物は何だ?」


「……大元の魔物結晶」


ミリアが答える。


「正解」


ゼインは魔法騎士部隊長を見る。


「その大規模魔法とやらで砦ごと吹き飛ばして、中にある大元まで割っちまったら?」


「……!」


「その瞬間に世界中で魔物がご登場だ」


会議室が静まり返る。


「結晶がどこにあるのか分かってねぇ以上、いきなり派手にぶっ放すのは避けた方がいい」


「……確かにな」


ギルバートが頷く。

そして、少し感心したようにゼインを見る。


「冷静だな」


「怖がりなだけだよ」


「そういうことにしておこう」


ギルバートは机へ両手をついた。


「ゼインだけではない。意見がある者は遠慮なく言え。階級も所属も関係ない」


その言葉を受け、ゼインは少し考える。


「だったら――」


地図を見る。


「まず少人数で入る」


「潜入か」


「ああ」


指で砦を示す。


「欲しい情報は四つ」


一つ。


「大元の魔物結晶の位置」


二つ。


「ガルフと幹部たちがいる場所」


三つ。


「砦内部の構造」


そして四つ。


「見張りの配置と巡回経路」


ゼインが顔を上げる。


「戦争するなら、まず敵の目と耳と心臓がどこにあるのか知らねぇと話にならない」


ギルバートが笑う。


「ますます帝国騎士団に欲しくなったな」


「だから入らねぇって」


「残念だ」


「兄上」


シャルロットが睨む。


「今は勧誘している場合じゃないでしょう」


「分かっている」


「絶対分かってないですぅ……」


リリシアが小声で呟いた。


「では、潜入する者を決める」


シャルロットが隊長たちを見る。


「人数は多すぎれば発見される危険が増す。四、五名程度が妥当だろう」


「俺は行く」


ゼインが言った。


「言い出した俺が外れるわけにもいかねぇだろ」


「私も行く」


ミリアも即答した。


「黒狼の牙とは何度も戦ってる。何か見つけた時に判断できると思う」


「なら私も行こう」


シャルロットが続く。

その時、部屋の奥から軽い声が上がった。


「じゃ、自分も行くっス」


ミリアが振り返る。

そこにいたのは、細身の青年騎士だった。

他の帝国騎士たちと比べて軽装で、腰には細身の剣。

どこか飄々とした笑みを浮かべている。


「近衛騎士部隊剣閃隊長――レイヴァンっス」


軽く手を挙げる。


「潜入とか偵察なら、重たい連中より自分向きっスよ」


「軽いなぁ……」


ミリアが呟く。


「よく言われるっス」


そして。


「この辺が妥当だな……」


ゼインが呟き、潜入班が決まった。

ゼイン、ミリア、シャルロット、レイヴァン。


「俺は?」


ライガが尋ねる。


「留守番だ」


「はぁ!?」


「私もですかぁ?」


「お前もだ」


「なんでですぅ!?」


ゼインが二人を見る。


「うるせぇから」


「ふざけんな!」


「ひどいですぅ!」


二人の声が同時に響く。

ゼインは無表情でギルバートを見る。


「な?」


「……納得した」


「納得すんな!」


「ですぅ!」


会議室に僅かな笑いが起こる。


「潜入班の目的は戦闘ではない」


ギルバートが空気を戻した。


「情報収集のみだ。内部を確認した後、一度本隊に戻り、得た情報を全隊へ共有する」


そして四人を見る。


「最優先事項は――絶対に発見されないこと」


ミリアは頷いた。


「分かった」


「では次だ」


ギルバートが地図へ視線を戻す。


「潜入が成功したとして――問題は幹部をどう引き離すか」


会議は次の議題へと移っていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。