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EP.7

 ハンク・ホルトはカラドヴェル辺境伯領都ミズガル、その中央に立つミズガル城の門番である。

 階級は辺境伯領軍衛兵隊副隊長を拝命し、日夜入退城する人物を検め、その往来を管理する業務に勤しむ。


 とは言うものの、早朝の文吏達の登城の波が引けば、事前に達せられた来訪を待つのみの、静謐に身を置く時間が大半であった。


 世はなべて事もなし。

 平和と言い換えてもいい。

 近頃は隣国より不穏な噂が流れてはいるものの、自分にどうこうできる話でもなし。

 今日も今日とて検分の傍ら、反対側に立つ門番歴の浅いコリンの教育を全うするのみ。


 等と思考していた時、それは来た。


 フードを被った三人だった。

 一人は背が高く、マントの上からでもわかる華奢な体つきの女性。

 二人は同い年の子供だろう。


 見るからに怪しい。その歩みには一点の揺らぎもなく、確かな武骨を思わせた。

 女性だけでなく、その後に並んで続く子供らもそうである。

 できれば堀に架かる跳ね橋を渡ってきてほしくないものだが、願い空しく三人は橋に足をかけた。

 どうやら城に用事があるようだ。

 はて?今日は来訪予定あったか?等と考えるうちに三人が近づいてきたので、コリンと共に前に出て、手に持つ長柄の槍斧を交叉させ、問う。


「ここより先はミズガル城です。恐れながら、御身分とご来意を承りたく」


 女性がフードを取り払う。

 美しい黒髪の女だった。瞳は黒、日に染まぬ白皙の肌に瞠目していると女性が応えた。


「名は明かせぬが、エドワード・カラドヴェル・エリン辺境伯爵の招集に応じ参じた。騎士ガレス・オルナ殿、若しくは騎士ローガン・オルナ殿に取り次ぎ願いたい」


 古風な言葉遣いにもだが、ガレス様、ローガン様への取り次ぎとは恐れ入った。

 どちらも辺境伯様のお傍近い騎士様方である。

 と、そこでハンクは思い出す。


 一月ほど前のこと、オルナ両騎士へお客様が参る。大変重要な客人故、丁重に持成し、すぐに両騎士へ報告を上げること、との通達があった。

 その通達の人物がこのお客人か。


「失礼いたしました。すぐに両名を呼んで参ります」


 槍斧を引き、敬礼をする私にコリンが驚いた顔で固まっていた。

 一睨みすると何かを察したのか、遅れて槍斧を引き直立する。


「少しお待ちいただくことになりますので、待機室へ案内いたします。どうぞこちらへ」


 と促した時、


「いや、それには及ばん」


 と後ろから声がかかる。

 空気が張った。振り返らずとも誰かわかる。


 騎士ガレス・オルナである。

 カラドヴェル辺境伯領騎士団及び領軍を束ねる五人の騎士の内の一人。

 長い金髪を後ろへ流した美丈夫。

 辺境随一と噂される王級剣士、その人である。


「忠勤ご苦労。ここからは私が引き受けよう。」


「ハっ! 感謝いたします、騎士オルナ」


 コリンと並んで敬礼を行い、道を開ける。

 騎士ガレスも敬礼を返した後、お客人へと歩み寄り声をかけた。


「お久しゅうございます。先日は愚息が大変失礼をいたしました。お詫び申し上げます。」


「久方ぶりだ。ローガンの件は構わんよ。私、いやこの子らにとっても良い機会に恵まれたと思っている」


「そうおっしゃっていただけますと心労も幾分和らぎます。さぁどうぞこちらへ」


 等と会話をし、城内へと入っていった。


 ……何も言うまい。何も考えまい。

 騎士ガレスが、この城の重鎮たるお方が最敬礼を以って対する相手だ。

 首を突っ込んでも碌なことにならない。

 だからコリン、そのような餌をお預けされた子犬のような目で見ても、私は何も語らんぞ。


 忘れよう、とハンクは思う。


 子供の一人は童女であった。

 その童女は門の先、石造りの城の威容を見上げていた。

 フードの隙間から覗く顔は白だった。

 あの黒髪の美女の白皙とは違う、まさしく純白。

 髪も眉も同じく純白だった。

 その瞳は赤かった。

ごきげんよう。ゆずゆです。

ご高覧いただき誠にありがとうございます。


二章開始です。

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