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EP.8

 エドワード・カラドヴェル・エリンは応接室へと急ぐ。


 家宰のヘルマン・ホヴズからオリアナの入都は聞き及んでいた故、簡易の応接準備はできているが、門番への通達が遅れたためすまないことをしたな、とエドワードは思う。


 ヘルマンへは妻と子らにも準備して応接室へ来るよう託をしているが、先ずは私自ら足労に感謝を伝えねばなるまいて。


 応接室の前には騎士ガレス・オルナと騎士ローガン・オルナが扉を守護していた。


 「ご苦労」と一声掛けると、目礼を返し、扉を開ける。


 扉の先には20年前と姿変わらぬ剣天と、白い童子二人がいた。

 なるほど、ローガンの報告にあった双子か。

 自分より剣が立ちます、とはローガンの言であるが、私の目からは幼子に見える。


「お久しぶりです、ミストレイン卿。此度はご足労いただき感謝いたします」


「うむ、其方も息災で何よりだ。あの小僧っこが良くぞ立派になられた」


 三人は上座の長ソファにオリアナを挟んで座っている。

 エドワードはテーブルを挟んで向かいのソファへと腰を下ろした。

 改めて正面から尊顔を眺めるも、本当に変わりない、とエドワードは内心苦笑した。

 自分だけが老いていくような錯覚さえ覚える。


「相変わらずお美しいご様子に羨ましい限りです。私は最近では白髪が出始めましてな。悩みが一つ増えましたよ。ところで、お二人のご紹介をいただいても?」


 と、オリアナの傍らに座る子らに水を向ける。


「銀眼の男子がシーヤ、赤眼の女子がサーニャと言う。ほら二人とも、ご挨拶なさい」


 エドワードは驚いた。

双子へ声をかけるオリアナは普段の声音、硬い言い回しとはほど遠い母の声であった。

 等と考えていると双子がソファから立ち上がり、


「シーヤ・ミストレインと申します。以後お見知りおきを」

「サーニャ・ミストレインです。よろしくお願いいたします」


 と挨拶し、礼をする。


「丁寧な挨拶、痛み入る。私はエドワード・カラドヴェル・エリンだ。何歳になられた?」


「はい、8歳になりました」


 エドワード問いに、銀眼の少年が応えた。

その視線はエドワードに向けているが、どこか虚ろでエドワードを映していない様に思えた。


「シーヤ少年、君は目が……」


「お察しの通り盲いておりますが、閣下が気に病まれることはございません。完全に盲目と言うわけではございませんので、思召されるほど不便はございません」


「そうか。しかし、その、8歳だったか? 達者な言葉遣いだ。正直驚いた」


「それもこれも母の薫陶のおかげと存じます」


 その母、オリアナを伺えば、「どうだ!」と言わんばかりにニンマリと胸を張って誇っていた。赤眼の少女、サーニャも誇らしげだ。

 姿勢よく柔和な微笑みを湛える息子殿との差、己が抱いていた剣天の虚像との差に眩暈すら覚える。


 エドワードが抱いていた虚像が儚くも打ち砕かれている最中、扉よりノックが響いた。


「ご歓談中失礼いたします。セレスティア様、ルーカス様、アリステア様が到着されました。お通ししてもよろしいでしょうか」


 とガレスの入室を乞う声が扉越しに掛かる。


「入れ」


 と短く返答し、扉が開かれエドワードの家族が入室する。


「私の家族を紹介しよう」


 その言葉にいち早く反応したのはエドワードの妻と息子だ。


「セレスティア・カラドヴェル・エリンと申します。」

「ルーカス・カラドヴェル・エリンと申します。お見知りおきを」


「……」


 娘のアリステアだけが自己紹介しようとしないのでそれとなく促す。


「アリス?」


 だが、憮然としたアリステアから返ってきた言葉は予想もしないものだった。


「お父様、お言葉ですが、この様などこのものとも知れぬ相手。ましてや白き忌子の、それも双子。そのような方々へ名乗る必要があるのでしょうか?」


 エドワードは両手で顔を覆い、天を仰いだのだった。


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