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EP.13

 双子が城に滞在して早半年。

 アリステア・カラドヴェル・エリンは焦っていた。


 シーヤは勉学、特に歴史の暗記や計算の暗算に長け、見えないはずなのに礼儀作法も卆なく熟していた。驚愕することにテーブルマナーすら習得している。

 本人曰く、人が纏う魔力が影として見ることができ、物の配置は音と気配を頼りに把握しているそうな。意味がわからない。


 サーニャは語学、特に(驚いたことに)意味を理解すればあの忌々しい自己紹介ですら再現できた。

 本人曰く、意味のない暗記は苦手、とのこと。すごくわかる。

 人付き合いも上手く、その特異な見た目とは裏腹に城のマスコットとして皆から可愛がられている、が、頑なにお嬢様と呼ぼうとしないのは何故だろうか?


 そして二人は強かった。

 魔法こそ使えないが、その剣技たるや、城の騎士・兵士皆が魅了され、負けてなるものかと奮起している。


 空気が変わったのだ。

 以前も活気はあったが、どこか滞留していた空気が確実に澎湃ほうはいたる熱を帯びた。


 それが堪らなく悔しかった。


 確かに自分にもあの双子に勝るものはある。

 だが、これは別格だ。

 二人にその自覚はないだろうが、人を動かし、導き、その先へと進んでいる。


 焦っていた。

 それは本来自らが負う宿命なのだ。


「考え事をしながら歩くと危のうございます、お嬢様」


 と声をかけるのは護衛のベロニカだ。


「私は努力が足りないのでしょうか?」


 と声に出せば、ベロニカは今にも溜息を吐くのを堪えたような顔で答える。


「あの双子とご自身をお比べになるのはご無用にございます。そもそもお嬢様はまだ6歳。私めに言わせていただければ、既に十分すぎるほど研鑽を積まれております」


「それじゃ足りないのよ……」


 今度こそ堪えきれず溜息を零された。


 アリステアも頭ではわかっているのだ。

 唯、どうしようもなく心が、魂が放っておかない。


 と、そんな折、廊下の先に件の双子と何故か目の下に濃い隈を拵えているローガンが目に入った。


「だから少し手伝ってほしいんだ。手が足りねぇ」


「……それを僕らに仰られても、その、困るのですが」


「人手が足りないからって俺一人だぜ? まともに寝られねぇし、何より今俺の戦力は絶賛低下中だ! 眠いからな!」


「……では直訴してはいかがでしょうか?」


とシーヤがアリステアの方へ手を向ける。


「直訴?」


と呟き、手の指し示す方、アリステアに目を向け、ハッ!と姿勢を正して敬礼をした。


「本日はお日柄も良く、アリステアお嬢様におかれましてはご機嫌麗しゅうこととお慶び申し上げます」


 ……こんなにポンコツだったかしら? と首を捻りながら話を聞けば、なんてことはない、最近巷で噂を騒がす窃盗団の捜査だと言う。

但し、死人こそ出てはいないが、貧民街の棄民の徒党に依る組織的なもので、捜索範囲も広いことに対し、今のところ被害も大したことないが為に一人捜査を命じられたそうな。


「と言うわけで私は大変眠いであります!」


 アリステアは勿論、話を聞いていたベロニカ、シーヤ、サーニャは非常に呆れた顔をしていた。が、ここでアリステアはハッとした顔をする。


「そうだわ……」

(物取りは貧民街の住民。そもそも私の領内で貧民街がある事自体が問題なのよ。

 お父様もお兄様もよく仰っていたわ。頭の痛い問題だと。解消するには時間がかかる、とも。

 何故か?

それはそこに働かず、税も払わず、唯々人がいるから。

 では、そこから人を一掃するのはどうでしょう?

 住民と呼ぶのも烏滸がましい者ども。加えて犯罪を起こし、治安を悪化させる元凶ともなっている。追い出すのが一番。

 どうする?

 武力はダメ。それでは私ができない。あくまで私が主導でなければいけない。動かす人数は少数。

 私の威光でできる?

 いえ、やるのよ。私は貴族の令嬢。これができれば正しく快挙。私の有用性をこれ以上に証明する方法はあるかしら?)

「……いえ、ないわ……」


 急にブツブツと言い始めたお嬢様に引き気味の三人が顔を見合わせていると、アリステアは顔を上げ四人に向けて言い放つ。


「行くわよ! 貧民街へ! ベロニカ、ローガン、シーヤ、サーニャ、着いてきなさい!」


 四人は不吉な予感を肌で感じ、ベロニカは絶望を、ローガンは疲労を、サーニャはわくわくを、シーヤは困惑をそれぞれ顔に出した。

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