EP.12
ベロニカ・ホルンヴェインは王級魔導士である。
属性は炎。
辺境伯家に仕える王級騎士の一人、兼アリステアの護衛、兼魔法の講師として日夜辺境伯家を支えている。
そんなベロニカは今困惑していた。
目の前には二つの透明な液体の入ったガラス管。
光に翳しても、ガラス管ごと揺らしても、些かも反応を示さない。
アリステアの血を混ぜた液体は一瞬で漆黒に染まったので不良品というわけでもない。
珍しいこともあるものだ。二人揃って無属性? 双子の性質上どちらかに属性が偏っているものとばかり思っていたのだが。
と、思案を巡らせる。
「ふん、忌子は忌子ね。多少能力があろうと、属性すら授けられていないなんて」
「アリステア様、そのような物言いは感心しません。それに無属性は珍しくはありますが、いないわけではございませんので。かく言う剣天様も元々は無属性だったことを考えると、寧ろ可能性の塊、と言うのが私めの私見にございます」
アリステアのあんまりな物言いを窘め、私見を述べる。
ついさっきまで意気揚々と胸を張っていたアリステアは不満げに頬を膨らませている。
「僕たちは魔法が使えないのでしょうか?」
銀眼の少年シーヤが問いかけてきた。
二人の講師も任命を受けた身として、ベロニカは真摯に答える。
「可能性はゼロではない、とだけ。現状だと使えませんね。人には一つだけ固有適正がありますが、まぁ稀にどの属性にも適性がない方は存在します。とは言え、自身の魔力を火や水の現象として世界に発露できないだけで、身体の強化には使えます」
と言うと、チラリと白い双子を見る。
先日演習場で拝見したあの動きは間違いなく身体強化のそれであった。
聖級でも相手にならないだろう程に洗練された動きを見るに、その強度と精度はすでに極限近いのではないかと感じていた。
「お二人はもうすでに高いレベルで習得しているみたいなので、さてはて、私めは何を教えれば良いのでしょう……?」
とベロニカは喋りながら困ったと言う顔をする。
順当に魔法への対処を教えるか? いや、この二人なら既に魔法を切り捨てる事も能うだろう。お嬢様は嫌がるかもしれないが、組ませて訓練させるのも面白いかもしれない。
「いーなーアリステアちゃん、私にも教えてー」
と赤眼の少女サーニャがアリステアとの距離を詰め、アリステアはサッと身を引く。
「お嬢様! はぁ、教えたところで使えないでしょ。それには意味がないですわ」
「大丈夫! 愛の力で何とでもなる、ってママがよく言ってた!」
「……愛って……」
お嬢様の頭を抱えて困っている姿は初めて見たな、実に佳きものを拝めた、と思うベロニカであった。
■■■
授業も終わり、三人をモルガンに預けた後、ベロニカは遅めの昼食を摂る為に食堂へと向かっていた。
流石に14時を過ぎれば食堂には閑古鳥が鳴いていた。
食事を貰いに当番へ声をかけようとした時、片隅にローガンを見つけた。
鉄くずを2つ、ぼーっと眺めている様は何となく不気味だったので声をかける。
「やぁローガン、またサボりかい?」
「……私ってそんな暇そうに見えますかね? まぁサボりではありますが」
どうやら先日、アリステアに暇人認定されたことを引きずっている様だ。
無理もない。見るからに暇そうなのだから。
「その鉄屑は何だい? ぼー……真剣に検分していたようだが」
「嗚呼、これですか?」
と言って鋼鉄製のロングソード、だった物、その断面をベロニカへ向けた。
「おお、これは見事な断面だな。卿が斬ったのかね?」
「まさか! 私が斬ったらガタガタで見るに堪えませんよ」
「では、どなたが?」
と問えば、ローガンは哀憐とも自嘲ともつかない笑みを浮かべて答えた。
「あの双子、シーヤとサーニャですよ。ちょっとした遊びのつもりだったのですが。全く、剣に身を捧げて20年。こうも才能の差を目の当たりにすると来るものがありますな。」
「だからって負けてばかりはいられないのですがね……」
と、その断面を睥睨し、何かを決意するように低く呟いた。
その断面は磨き抜かれた鏡の如く、凄絶なる光を返していた。




