EP.10
ヘルマン・ホヴズは白い双子、シーヤとサーニャをこれから滞在する部屋へ案内していた。
アリステアがシーヤから敗走の後一刻程して、剣天のみ帰っていった。
双子に「普通」の教育を受けさせたいと言う願いと、こちらの兵の強化をしたいと言う要望の折衷案だと言う。
帰る間際の事。剣天が双子に声をかける。
「二人ともしっかり学び、精進なさい。辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」
「じゃあ、今から帰る」
とは剣天に白い髪を撫でられている赤眼の少女サーニャの言。
その言葉に流石の剣天も固まる。
「……一年経ったら帰ってきなさい」
と言い直すのだった。
聞けば8歳との事。ヘルマンの目から見ても唯の童子にしか見えない。
然もありなん。
その時エドワードはヘルマンにだけ聞こえるよう低い声でこう告げた。
『ーーヘルマン、すまぬが、二人の案内を頼む』
……おいたわしや
ヘルマンはエドワードの意を汲み取る。
アリステアの大失態を受け、これ以上はカラドヴェル辺境伯家の威信に関わる。
城の統括管理者自らが最上のもてなしをしろ、との事だろう。
3階の一室、客間を整えた部屋に到着した。
ヘルマンは音もなく扉を開き、美しい所作で深く頭を下げながら二人を室内へと促した。
「本日よりお二人に滞在していただくお部屋でございます。もしご不便な事、お気に召されない点などがございましたら、テーブルに置かれているベルをお鳴らし下さい。」
一拍置いた後、穏やかに言葉を続ける。
「只今、長旅の疲れを癒してもらうべく、沐浴の支度を調えさせております。またお食事も支度させておりますので、準備が出来次第お迎えに上がります。それまではどうぞ、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
「ご案内いただきありがとうございます」
「ヘルマンさん、ありがとう!」
ヘルマンは二人の素直な言葉に柔らかな微笑みを返し、音もなく扉を閉めた。
あの双子が城へ何を齎すのか。
それを見極めるのも、家宰たる己の務めだろう。
突風は翌日唐突に城を襲った。
定期的に行われるミズガル城常在兵団と騎士団の混合演習、その場で双子が紹介され、稽古と相なった。
二人の白き異容に戸惑いながらも、流石は専業兵士、誰一人動揺を見せず、また非難の声を上げない。
そこまでは良かった。そこからだった。
稽古が始まった。
二人は10人からなる兵士に囲まれている。
次の瞬間には兵たちが地に転がっていた。
20人に増やされても同じ事だった。
何したかなどヘルマンにはわからなかった。
唯、「始め」の言葉と同時に何かを叩く音が聞こえた次の瞬間にこの様であった。
唯々、二人は異様に強かった、それだけはわかった。
今度は聖級騎士と銀眼の少年シーヤの模擬戦が始まった。
騎士の目には侮りこそ無いが、冷徹な『野郎、ぶっ殺してやる』と言う敵意がありありと浮かんでいた。
しかし、これも一瞬だった。
低い姿勢から構えたシーヤに騎士が音を置き去りにして突っ込む。
その騎士がシーヤの前に現れた、と思った時にはシーヤは反りのある木剣の切先を騎士の顎先に突きつけていた。
サーニャも別の騎士と模擬戦を行った。
相手の騎士は年端もいかぬ少女に負けられない!と言う確固たる決意の目をしていた。
そんな目を向けられたサーニャは消えたと錯覚するほどの速さで騎士に迫ったかと思うと、木剣の打ち合う音が怒涛の如く響く。
騎士が上段を上に弾かれて胴体がガラ空きになったところにサーニャが体を滑り込ませ木剣を突きつけて終了となった。
場が静まり返る。
だが、誰かがぽつりと言葉を溢した。
「ははっ、何だ今の?」
それは凪いでいた池に石を投げ入れるかの如く波紋を広げた。
「見えねぇわ」
「ピートの剣をどう弾いたんだ?」
「白髪の坊主! 次は俺とやれ!」
歓声が爆ぜた。
ここにいる騎士は、兵は強さを、研鑽を重んじる。
双子にそれを確かに見たのだ。
触発されたのだ。
何クソ!と言う負けん気が。向上心が場を盛り上げる。
日々の鍛錬の甘さに嘆く者もいる。
才能を羨む者もいる。
だが、誰一人このままではいられない。このまま終わるわけにはいかないと感じていたのだ。
演習場の熱が変わっていた。
怒号が飛ぶ。
木剣がぶつかる。
兵たちの目の色が違う。
誰もが昨日までと同じではいられなかった。




