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とある魔法学校の大聖女  作者: あしなが
魔力学補習編

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本来の姿





 その際に、耳元で揺れるピアスを眺めながら「お前」と言葉を続けた。


「ここから抜け出している間、どこに行っていたのだ」

「……」


 そいつは少し間を空けたあと、誤魔化すように笑みを作り「ああ」と頷いた。


「そこは言わないといけないんですね」

「当然だ。私もお前も、いわば不法に侵入しているわけなんだから。余計なことされたら、首が締まるのはお互い様だろ」

「まあ、別に隠すことでもないのですが」


 袖の裾から、分厚い本を取り出した。


「アリア・マグライアと最後に会ったとき、あなたは本を持っていたと言っていましたよね」

「ああ」

「それって、どんな本だったか覚えていますか」

「いや、勝手にフリューゲルの教科書だと思っていたから詳しくは見ていない」


 あの時のことを脚色せずに伝えると、「表紙のことは覚えていませんか? 例えばこういう感じだったとか」とその分厚い本の表紙を見せた。


 青のベロア調の表紙には金の刺繍が施されている。


「んーなんか質感は似ているかもしれないな。色は確か、赤だったような気がするが」

「そうですか。あなたが覚えていれば、案外、アリア・マグライアのことはすんなり解決したように思うのですが」

「どういうことだ」

「これはフリューゲルの禁書庫の中にあった一冊です」


 さらりと言っているけれど、勝手に禁書庫に入るなど何を考えているんだ。バレたら、首が締まるどころの騒ぎじゃない。


「そんなに容易く入れるなんて……管理が杜撰なんだな」

「いやいや、手厚いものでしたよ。わたしもきちんと手古摺りましたからご安心ください」


 そんな清々しい顔で言われても信用ならないな。


「禁書庫にはタブーとされるものが多くありました。とてもじゃないですが、このフリューゲルで魔法師を目指す生徒たちには見せられるものではありません」

「それはそうだろうな」


 フリューゲルに通う生徒は魔法師として未熟な者が多い。無論、見せられやしないだろう。


「例えばわたしが持っているこの本は、魔法強化の術式が多く載っています。シンプルな内容ですが、使う者が使えば恐ろしい禁書となり得るでしょう」

「魔力の増幅や魔法の強化は本来あってはならない禁忌魔法だ。精霊は性質や遺伝を気にする存在だから、そんなまがい物の力を借りた者に手を貸そうとは思わない」

「だとすれば尚更、アリア・マグライアが魔法を使えない生徒だったとしてこういった本の力を借りたのでは?」

「……アリアがそのような本に手を出すとは考え難いが……」


 うーん、と椅子の背もたれに頭を乗せるようにして、身体を逸らす。すると、コンコン、と寮の扉が鳴った。


「ん? 誰か来たな」

「出ないんですか」

「えーまだアリアのふりをしないといけないのか」


 いい加減、ゆっくりしたいんだが。


「ほらほら、早く出ないと」


 はっとしてそいつを見ると、勝手にベッドの中に入ろうとしている。


「は、お前! 何している!」

「あなたへの変化魔法をこっちは一日中保たせているんですよ? つまり朝からずーっと魔力を垂れ流しているんです。ちょっとは寝かせてくださいよ」

「猫になれるんだから、お前は外でもいいだろ。すぐにそこから出ろ!」


 ぐぐっと引っ張っていれば、「服が伸びます。やめてください」とぺしっと手を叩かれた。


「は……」

「いいじゃないですか、少しくらい。あなたが眠る時は綺麗にしておきますから」

「そういう問題じゃない。というかお前、また私を叩いたな!? 今日と言う今日は……」


「おーい、アリア? いないのかー?」


 コンコン、またノックする音が聞こえる。


「おい、お前! 早く退け!」

「だから伸びるって言ってるじゃないですか」

「だったら大人しく……」


 フェンリルが枕を持ちながら、服を引っ張る私を振り返る。そして笑顔で、指を動かしたかと思ったら、私の足元をつるつるの氷に変えた。


「あ、お前っ……わ!?」


 ずるっと踵がすべって、そのまま後ろに向かって身体が倒れ込む。ローテーブルに肘がぶつかって、ガタン、ドンッ! とそのまま物凄い音が鳴った。


「えっ、アリア!? 悪い、開けるぞ!?」

「あ、ま、待て! 開けるな!」


 という声が届いていなかったのか。


 ドンッ! と激しい音が鳴る。部屋と同様に扉もボロいらしく、ちょっとでも体当たりすれば開けられるという鬼畜仕様だった。


「なんかすごい音がしたけど大丈……ぶ……か」

「……」

「……」


 アステルが部屋に踏み込んできて固まる。そして私達の姿を見て、「えっ?」と信じられないほど素っ頓狂な声を上げながら、一度目を腕でごしごしと拭っていた。


 そして、アステルが再びこちらを見る寸前。


 私はピアスを嵌めこみアリアの姿へ、フェンリルも猫の姿になった。


「い、いま……ん? あ、あれっ?」


 困惑した顔で、もう一度目を擦りながら、


「アステル……お前、勝手に乙女の部屋に踏み込んでくるとは何事だ」

「待って、嘘だろ。なんで、今一瞬……ヘスティア様と、フェンリル様のお姿が見えたような気が……」

「そんなわけないだろ、何を言ってるんだお前は!」


 床に腰をつけたまま叫ぶように言えば、ベッドの上でフェンリルが「にゃあ」と鳴いていた。


「き、気のせいか……」






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