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とある魔法学校の大聖女  作者: あしなが
魔力学補習編

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12/39

王太子殿下




 しかもやたら。


「…………」

「…………」


 見てくるのはなんなんだ。


 あの魔力学の授業が終わって以来。


 私はさらに注目の的だった。


 そもそもあの時計塔から落ちて無事だったということもあって、あり得ない存在だと騒がれていた真っ最中だというのに。


「どうして今まで魔法が使えることを隠していたんだ?」

「やっぱり聖女候補第一位は嘘じゃなかったってこと?」

「そんな馬鹿な話があるものですか! だったら、なぜ今まで魔法が使えることを隠す必要があったのよ!」

「あの魔獣に何か秘密があるかもしれないわ! そうじゃなかったら……」

「きっと双子の姉か妹よ! 以前のアリア・マグライアはすでにこの世にいないんだわ!」


 これだけ騒がれてしまうと、本格的にアリアが目覚めたらどう言い訳をするべきか考えなくてはいけなくなってきた。


 あまりに周囲がうるさいので、アステルも猫目ボブも必要以上に絡んでこなくなってしまって孤独を極めていたその時、補習に呼び出されてしまったのだ。


 そして、その教室にいたのが、この国の王太子殿下。


 ノア・ヘイムダルだった。


 何故王太子が……? とはもちろん思いはしたが、きっとこの教室に忘れ物でもしたのだろう。


 ……と、思っていたが、真隣に着席されたとき、違うと認識した。


 ユーリッヒが補習室に入って来て、「それでは、補習される方は教科書の59ページを開いていただけますか?」とあせあせと続ける。


 何故だ。あの生徒たちの中で最も優秀だったノアが、何故、補習室にいるんだ。


 ユーリッヒも緊張している様子だ。何故追い出さない。


 ちなみにフェンリルは、鬱陶しいので寮の部屋に置いてきた(魔力封じの檻に閉じ込めた)。


 やっと静かな時を過ごせると思ったのに、そのせいでより隣からの視線がうるさく感じた。


「魔力というのは一般的に、精霊に預けることで放出することができます。自身の保有している魔力の質や量を好む精霊がいれば、それが自身の得意分野へと繋がります。例えば自身の魔力を水の精霊が好めば、魔法師本人は水の魔法が得意となり、火の精霊に好まれれば、火の魔法がおのずと得意になります」


 本当にいつまで見ているのだ。どうしてこの男が一緒に補習を受けているのか、こちらが見つめ返して、問い質してやりたいくらいなのに。


「全ての精霊に愛されることは滅多にありませんが、もしもそのようなことがあれば聖女様や一流魔法師になる素質があるということです。この国でいえば、ヘスティア・アプロディーテ様やフェンリル・ダンタリオン様のような方々でしょう」

「ぶっ!」

「マグライアさん? ど、どうかされましたか?」

「……す、すみません。お気になさらず……」


 うふふ、と教科書で口元を隠す。


 自分の名前が出るなどとは思わなかった。それにどうしてあのインチキ魔法師の名前まで……。


「魔力量の調整には精霊たちからの愛情が必要不可欠になります。彼らから信頼されるような日常を過ごしていきましょう」


 当たり障りのない授業だな。確かに、精霊からの愛情は必要だが、そんな綺麗ごとばかりだけじゃない。


 精霊は基本的に気まぐれだし、それこそ人間世界の常識など伝わりはしない。精霊たちにとって好みの魔力であれば相手が善人だろうが悪人だろうが手を貸し、そこに情などはなく、ただの取引が存在するだけだ。


 しかし教育の場では、一応このような教え方をするのだな。回りくどいが、道徳心を守るにはちょうどいいのだろう。


 それにしたって、祈りの時間くらい退屈だぞ。これは。


 欠伸がでる。ふああ、っと大きな口を開けて、ふと隣を見ると、やはりノアがじいっとこちらを見ていた。思わず、ぴっ、と口を閉じる。


 本当に。一体、いつまで私を見ているんだ。


「それにしても、マグライアさん。質問があるのですが……」

「へっ? あ、はい! 何でしょう?」


 びくっとしながらユーリッヒを見れば「今まであなたは魔法の使用を避けていましたが」と控えめに続けた。


「それは使えなかったわけではなく、使わなかったということでしょうか?」

「……それは」


 アリアに聞いてみないとわからないな。


「……先生は、気分屋の精霊がいることはご存知でしょうか」

「え……?」

「こちらが魔法を使いたくても、精霊の気まぐれのせいで上手く魔力が放出できないこともあります。わたくしはたまたま、そういった精霊に好かれやすい体質のようです」

「そ、そうだったのですか」

「ええ。だから、魔法の授業は些か不安で……。だって、いざ必要な場面で急に魔法が使えなくなっては困るではありませんか。それに今回は魔獣も手伝ってくれましたし……」


 全く役に立たなかったがな。


「ああ、あの黒猫ですか……」


 ユーリッヒは呟くように告げたので、にこっと笑顔を見せる。


 もうこれ以上何を聞いても無駄だぞ、という圧を込めれば、「確かに、そうですね……」と彼は気圧されるように納得していた。


「ええ。なので、その質問に関して、持ち合わせた答えがないというのが返事です」


 立ち上がりながら、「というわけで、先生」と私は告げる。


「補習はそろそろよろしいでしょうか」


「えっ、あ、そうですね……」というユーリッヒの声と共にタイミングよく予鈴が鳴る。


「あ、それでは今回の補習を受けて、感じたこと学んだことをレポートにまとめて、今週中に提出してくださいね」

「かしこまりました~」


 そそくさと、補習室を出る。


 そして早足に歩いていると、その後ろにぴったりと。


 スタスタスタ。スタスタスタ。


 スタスタスタ。スタスタスタ。


 なんで。どうして。


 立ち止まって、くるっと振り返ると、相手もぴたりと立ち止まる。


「王太子殿下、何かご用ですか?」

「……」


 何故、ノアがついてきてるんだ!


 笑顔を作る私を見下ろしながら、暫く間を空けた後「……いや」と彼は言う。


 なんだこいつ、話せたのか、と思う。


 あまりに無言だから、てっきり誰かに声を奪われたのかと思ったぞ。




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