まさかの課題結果
『ちょっとは加減したらどうですか』
「何のために水の壁を作ったと思ってるんだ」
『被害が及ばないようにするためでは?』
「それもあるが……」
身体を翻して、空からスケープゴートを見下ろした。
「周囲に見られないようにするためだよ」
アリアじゃないと疑われるのも面倒だしな。
光が降り注ぎ、スケープゴートたちを照らす。そして黒く光る身体が多い中、一体だけが煌々と光り輝いていた。あいつだ。
瞬間、周辺にいるスケープゴートをすぐさま燃やしていく。
そして残りの偽物の頭に降り立つようにして踏みつけると、黒く輝いたそいつの身体を思いっきり宙へ浮かした。
風船を引くように運びながら、水の壁を解くと、生徒たちの驚いたような視線が突き刺さった。私はそんな周囲の気まずい視線に気づかないふりをしながら、スケープゴートを赤いラインまで連れていく。
そして地面に下ろしながら、「終わりました、先生」と全てを誤魔化すように淑やかに手を上げた。
「お、お見事です、マグライアさん。こ、これはもう、文句なしのごうか……」
ユーリッヒがそう言いかけた時、横たわっていたスケープゴートを立ち上がった。こいつ、なんで縮んでないんだ。
どんな時も、この赤ラインを超えたら身体を縮ませていた筈なのに。
そう思った瞬間、目の前のそいつは騒然としていた生徒たちへと拳を伸ばしていた。
何、と横目に見ながら振り返ると、拳が木をなぎ倒して、そのまま生徒たちの身体を殴り飛ばす寸前だった。
「おい、お前ら! そこから逃げ……」
「〝青の城〟」
咄嗟にその拳を、氷の壁でそれを塞いだのはノアだ。生徒たちを守りながら、私のことをじっと見据えているノアに、ナイスだ、と心の中で褒めていると『ヘスティア様』とフェンリルが告げた。
『このスケープゴートは暴走しているようです、早めに対処した方がよろしいかと』
「わかっている」
飛び上がって、その巨体に乗り上がると、手のひらをその身体に当てて「悪いな」とその身体の中に火の玉を打ち込んだ。すると、ぷぅっと身体が膨れ上がってぼんっ! と破裂すると、しゅるしゅると萎んでいった。
「これで暴れはしないだろ。全く、往生際が悪い人形だな」
ぺらぺらになったスケープゴートから降り立ち、髪を掻き上げる。
そして、顔を上げると、ポカンとした生徒たちと目が合った。
ん? なんだ、なんでそんな顔で私を見て……。
「ま、マグライアさん!」
「わ、先生!」
「あなた、あんなに凄い芸当が……って、そうではなく! スケープゴートを傷つけるのは禁止だと言ったじゃないですかぁ!」
「えっ? あ、言いましたけど……」
頬を掻きながら「ですが」と言い訳をするように付け足した。
「傷つける前にラインは超えたわけですし、止めないと暴れそうだったではありませんか。緊急事態だったんですよ?」
「それでも傷をつけられてしまうと、課題は失格になってしまうんですよ!」
「え……?」
失格って……。
「嘘だろ、危なかったのに!?」
「スケープゴートと成績表は連動しているんです。傷をつけられてしまった時点で、あなたの課題通知にバツがついてしまったんです。もちろん、不可抗力だったことは否めないのでわたしも上と掛け合ってみますが……」
ユーリッヒが困ったように眼鏡をかけ直した。
「よくて補習になる可能性が……」
「補習!? どうしてそんなものを私が……」
『受けた方がいいのではないですか。アリア・マグライアが目覚めた時に、自分の成績にバツがついていたらどのような気分でしょう』
『ぐっ……』
『怒るどころか、嫌われてしまうのではないですか。ヘスティア様』
いつの間にか足元に来ていたフェンリルが何かを言っている。
こいつの意見に同意をしたくはないが、あり得ない話でもない。
『しかし、伝説の大聖女様が魔法学校で失格補習とは』
フェンリルが軽く手で自分の顔を搔いている。
『なんと酔狂な。誰に言っても信じてもらえなさそうです』
『フェンリル、お前……』
「言いたい放題言いやがって……!」
「マグライアさん?」
「ああ、いえ……」
イライラを抑えつつ、「わかりました。先生」と笑顔で返事をする。
「補習でもなんでも、どーんとこいですわ。いつでも言ってください」
……とは、言いはしたが。
「それでは、魔力学の補習を始めます」
何故、私と同じ補習授業にノア・ヘイムダルがいるのだ。




