過去1 晴樹編
三日前、僕の大事な大事な宝物がこの世界から消えた。
京子は、いなくなってしまった。
そして、僕が京子に贈った指輪も消えた。残っているのは、僕の指輪だけ。
きっといつか、京子に会える日が来る。だから頑張ろう。
そう、思っていたのに、やっぱり京子を失ったのは僕の生活に大きな支障をもたらした。もう、家に帰っても京子はお帰りと言ってくれない。笑ってくれない。
僕が会社をまとめていかなくてはならないのに。
今の僕では、出来そうにもない。支えてくれる、京子がいなくては。
こんなとき、京子なら僕に何て言うかな。「ぐずぐずしないで仕事をしてくださいっ」とかだて眼鏡をくいっとあげながら言いそう。
京子は僕がこんなになるのを望んでいないだろう。なら、頑張らないとな。京子のためにも。
「社長、新しい秘書はどうなさいますか?」
新しい、秘書。僕の専属秘書も、決めないといけないんだよな。どうしようかな。
「女性ではなくて、仕事が出来る人なら誰でもいいよ」
せめて、僕の女性専属秘書は京子だけにしよう。本来、僕の秘書は京子の特等席なんだから。
「はい、分かりました」
「それと」
「まだ何かあるのか?」
「社長は少しの間休暇をとられた方が良いかと」
それはそうかもしれないな。
「少しなら社長がなくてもこの会社はまわります」
まあ、僕と京子と皆で作り上げてきた会社だからね。
「なら、それに甘えて少し休もうかな」
◇◇◇
家に帰って、いろいろ考えた。僕は結婚なんて京子以外考えられない。けど、それでは跡継ぎがいなくなる。
ならいっそ、養子を取ればいいんじゃないかと考えた。
僕は血の繋がりとか気にしないし、これからも会社が続いていけばそれでいいと考えているから養子にとった子どもに、会社の事を教えていけばいい。
子どもは好きだし、寂しい思いはさせない。それに、この大きな家で1人寂しく死んでいくのは嫌だからね。そうと決まれば連絡をしないと。
僕は、早速児童相談所に連絡をした。
あれから児童相談所に連絡した僕は、里親になる要件を満たしていたため、申請することができた。それから研修や家庭の調査、審議に移って、問題がなかった僕は里親への登録が認められた。
それは普通に休暇が終わって、僕がいつものように仕事をする日々に戻ったときだった。
里親になるには、こんなに時間がかかるとは思っていなかったけど、子どもを譲り受けるのだからそれくらいは大したものではない。
いつものように仕事から帰って来たとき、電話がかかってきた。
『一ノ瀬晴樹さんでしょうか?』
「はい、そうです」
『条件に合う子どもを見つけたので、会ってみませんか?』
「いいんですか!ありがとうございます。では、○月○日の午後でよろしいでしょうか」
『分かりました。○月○日の午後ですね。お待ちしております』
そう言って電話が切れた。
やっと見つかったんだな。よかった。見つかったってことはこれから一緒に出掛けたり、僕の家にその子がとまったりして、親交を深めていくんだよな。
どうしよう。貢げばいいのかな…。いや、そんなことをしたらかしこまってしまうか。…うーん。
◇◇◇
悩みに悩んで今日が来た。今は仕事中だ。
「社長、なんだか顔色が悪いですよ」
僕を見て顔色が悪いと言った彼が新しい僕の専属秘書だ。名前は川崎潤之介。仕事がすごく出来る男だが、感情が乏しい。
「…何だか緊張してしまってな」
「養子の件ですか?」
「ああ、今日会うんだ」
「左様ですか」
…ここで会話終了。彼との会話はあまり続かない。
◇◇◇
仕事を早く切り上げて、子どもに会いに行く前に僕の家のすぐ側に建てた京子の墓に向かった。
ほぼ毎日ここに来て、花を替えて、その日あったことなどを伝えている。
いつもは朝仕事に行く前に行くんだけど、今日は行く時間がなかったので今にした。
「京子、僕は今から児童養護施設の子どもに会ってくるんだよ。その子は優しくてしっかりした子なんだって。まるで京子みたいだ。僕は、その子の里親になれるだろうか。今度こそ、守り抜くことは出来るだろうか。不安で仕方がないんだよ。でも、京子に会って少し元気が出た気がするよ。僕を応援してくれるかい?」
返答はない。
「ははっ…まぁ、そうだよね…じゃあ、行ってくるね」
そう言って、京子の墓に踵を返そうとしたら、僕の指輪が一瞬、煌めいた気がした。
過去編に入りました!すぐに終わらせます。お読みいただきありがとうございました。




