保健室で観戦
目が覚めると、私はベッドの上にいた。なんだか体がダルいし、お腹の辺りがなんだか重い。乗っていたのは悠仁だった。なんで悠仁がここにいるんだろう。
(いや、そんなことはどうでもいいわ)
私は、病院や保健室のような場所は嫌いだ。昔、沢山お世話になってきたから。少しふらつく体をおこして、運動場に戻ることにした。
足を下ろしたときに、右足が思いっきり包帯をぐるぐると巻かれていて、驚いた。だから右足がじんじんと痛かったのか。側には松葉杖がおいてあった。
(なによ、これ…)
そして、枕元に置いてあったパンを見て思い出した。パンを咥えて着地したときに、足を変な方向に曲げたことを。そのまま意識を失ったことも。
私を運んでくれたのは誰だろう。
(…もしかして)
私は悠仁の方に視線を向けた。…と言うか、体育祭がまだ終わっていないのに、悠仁はこんなところにいていいのだろうか。
多分まだ出る種目があったはずだ。
(起こそうかしら)
悠仁の肩を叩いた。…起きない。めんどくさいから頭にチョップでいいか。
(えいっ)
「痛!」
(起きた)
取り敢えず悠仁も起こせたし、私は会場に戻るとしよう。私はよろよろしながら松葉杖をもって行こうとした…が、それを悠仁に止められた。
「行ったらダメだよ。お願いだから安静にしてて」
その後に悠仁は小さな声で、「もう、後悔はしたくないんだ」と不安そうな顔で言っていた。
彼は前世で、どんな後悔をしたんだろうか。私はただの仮婚約者でしかないのに。…悠仁は、私をどうでもいい人間だと思っていないのだろうか。
「私は、ただの仮婚約者よ?」
私がそう言うと、悠仁は少し驚いた顔をして
「玲花チャンの存在も、俺にとっては大切な存在なんだよ」
と言って笑った。
(うぅ…)
てっきり、はぐらかされるものかと思っていたから驚いてしまった。
(なんで、そんなこと言うのよ…)
悠仁は、ズルい。最近の私は、悠仁に振り回されてばっかりだ。前まで、晴樹のことしか考えていなかったのに。心の中に悠仁が無断で侵入してくる。
…これじゃあ晴樹に顔向け出来ない。
「じゃあ、俺は行ってくるね。玲花チャンは安静にしてるんだよ、絶対に。窓から俺を応援してて」
悠仁は、私に安静にしてろと念をおしてから、運動場へと走り去っていった。
保健室の窓側は、見事に運動場が見渡しやすい場所だった。安静にしていないと後からブーブー言われそうだし、昔安静にしてろって言われたのに守らなかったら最悪な結果になったから、おとなしく観戦することにする。
「次は、選抜リレーです。選抜リレーに出る選手で、まだ集まっていない人は早く集まってください。繰り返します。次は、選抜リレーです。選抜リレーに出る選手で、まだ集まっていない人は早く集まってください」
次は選抜リレーらしい。選抜リレーってプログラムの中で大分後ろの方だった気がするから後少しで体育祭が終わるみたいだ。今やっている競技も終わって選抜リレーが始まろうとしている。
「位置について、よーい、ドン!」
(早っ!)
どの選手も足が早くて、さすが選抜だなぁと思った。
放送委員も実況スピードが早くなっている。なんか、放送委員って楽しそう。…やらないけど。
あ、あの黄色のはちまきをして走っているのは碧だ。遠くから美月さんが応援していることだろう。わざわざ病院から外出届けを出して来てくれたくらいだから。碧が先頭にいたけど次の人で赤色のはちまきをしている人に追い抜かれた。
それからも緑色のはちまきをしている人にも追い抜かれて、青にも抜かれた。…一位を取るのは無理そうな感じになってきた。私はこの中の誰にも勝てないけど。
黄組最後の人、アンカーが走り出した。
(悠仁?!)
アンカーが悠仁だなんて知らなかった。だから最近美月さんの病室に来なかったのか。
悠仁早っ!青、緑と次々に抜かしていく後少しで赤も抜かせそう。
「悠仁、頑張って!」
私はなんだか言いたくなって、聞こえることはないだろうけど悠仁を応援した。むしろ悠仁に聞こえていたら恥ずかしいし、聞こえない距離で丁度いい。
気のせいだと思うけど、それを言ってから赤を猛スピードで追い抜かして、黄組が一位になった。
(聞こえて…ないわよね?)
不安になってきた。…聞こえるはずないのに。
「次は全員リレーです。生徒の皆さんは、集まってください。繰り返します。次は全員…あっ…次は最後の種目、全員リレーです。生徒の皆さんは集まってください……はぁ…間違えたー…」
(バッチリ聞こえる)
言い間違えたらしい放送委員は、最後にマイクのボタンをおとし忘れたのか、間違えたーと言っているところが運動場に響きわたった。…これは恥ずかしいな。
全員リレーなら私も出る種目だけど、行ったらダメよね。またおとなしく観戦だ。
そう思っていたら、急にドアが開いた。
「玲花チャン、ただいまー!」
(なんで戻ってきたのよ)
さっきまで選抜リレーに出ていたのに。いや、突っ込むところが違うな。全員リレーはどうしたの。
「保健室にいる婚約者が心配で仕方ないって言ったら俺の出番の時に俺の代わりををやってくれるって人がいたからありがたく戻ってきたんだよ。さっきのリレー見てた?」
悠仁がどや顔で言ってきた。
「見てたわよ…まぁ、悪くはなかったわ」
「そういえばさ、玲花チャン俺に頑張ってって言わなかった?」
(なんで?)
「そんなこと言うわけないじゃない」
「え~、その声が聞こえたから頑張ったのに」
私は何かがおかしいと違和感をおぼえた。
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