癒し、ゲットそして恥ずかしい
「玲花さん、お疲れ様です」
私がテントに行くと、美月さんが優しく出迎えてくれた。
「本当、お疲れよ」
「私も、いつかはこの学園に来れますかね」
美月さんは寂しげな顔で言った。
「美月なら絶対来れるって」
(おえっ)
初恋を拗らせた私の幼馴染みから、砂糖が口から出てしまいそうなほどの笑顔で言っていた。本当、お前誰だよ。ヘタレな碧は何処に行ってしまったの!美月さんも頬を赤らめているし、もう、こいつら付き合っちゃえよ。…だめね。こんな口の悪い言葉遣いは。
「そうですよ。2年なんてすぐですって」
「そう…ね」
(くっ…)
はい、美月さんのはにかみ笑顔、頂きましたー。私の心は浄化されたわ。
「あぁ、私の愛しの玲花。お弁当を作ってきたのよ!沢山食べてちょうだい!」
「僕の玲花、僕も作るのを手伝ったんだよ。早く食べてほしい」
私の事をキラキラの瞳で見つめてくる二人。よし、チャラ男が来る前に急いで食べてしまおう。
「頂きます」
最初に卵焼きを食べると、じゅわっとだしの味が染み込んでいて絶品だった。
「幸人兄様、玲奈姉様、とても美味しいです」
「くっ…、激レア、玲花の笑顔」
そう言って無言で一眼レフを取り出した。…そして、お決まりの写真撮影会が始まった。このときくらい落ち着いていればいいのに…。
「遅れてしまって、すみません」
第二の癒し、賀奈子さんの登場だ。
「早くご飯を食べましょう」
私がそう言うと、賀奈子さんが何かを言いたそうな顔をした。…何となく察した。賀奈子さんは遠慮がちに口を開くと、私に小声で
「あの…一眼レフで玲花さんを写真撮影されているのはご家族の方ですか?」
そうよね、兄様姉様達よね。先程から美月さんもなんとも言えないような顔をしていたから。碧は普通にスルーだったけど。慣れって怖いわ。
「そうよ、いつものことだから気にしないで」
「そ、そうなんですか」
賀奈子さんは曖昧に笑って、お弁当を開いた。
何だか、嫌な予感がする。あぁ、特別能力なんて要らないのに。…もうそろそろ、来ちゃうわよね。悠仁が。
「玲花チャン!置いてくなんてひどいよ!…おっと、玲花サン、置いていくなんてひどいですよ」
(気持ち悪っ)
しゃべり方は、直したところでチャラさが滲み出てるし、前に悠仁が家に来たとき、もう幸人兄様にも玲奈姉様にも本性はばれていると思うから無駄だと思うんだけど。
いつものチャラチャラしている悠仁ばかり見ている私には、きちんとしている悠仁が気持ち悪くてたまらない。
「こんにちは、玲花サンのお兄サンとお姉サン」
今、幸人兄様も玲奈姉様も私を撮ることに熱中していて、聞いていない。
「幸人兄様、玲奈姉様?」
「どうしたの玲花!」
「どうしたんだい玲花」
(うわぁ)
『妹パワー』って最強だと思う。
「悠仁が来たんですよ」
私がにこやか(少しひきつったかもしれない)にそう言うと、二人は優しい笑顔で舌打ちをしていた。そんな高度なことが出来るなんて凄いと思う。
生きていく上で必要ではないと思うけど。笑顔で舌打ちコンテストとかあったら優勝できるんじゃないかってくらいの上手さだ。
「そう言えば、玲花さん次はパン食い競争に出るんですよね。頑張ってください」
(ごふっ)
美月さんの言葉に、私は喉をつまらせた。誰かが私の背中をさすってくれている。…誰だか分からないけどありがとう。
「玲花ちっさいもんな」
碧が私の心にとどめをさした。私が小さいのは、もうさっきの出来事で分かってるんだ。もう言わないで。
「ま、まぁ、玲花さん、成長期ですし、大きくなりますわよ」
もう全然伸びることはないって分かっているから私はこんなに嘆いているんだ。ついに最近『身長が伸びる!魔法のドリンク』と言う怪しげなドリンクにまで手を出して、「こんなんで身長伸びたら苦労しないわよ」と言っておきながら、毎日飲んでいるのだ。藁にもすがる思いで。未だ結果は出ていない。
「いやぁ、無理でしょう」
と悠仁が後ろから言った。背中をさすってたのは悠仁だったのか。ありがとう。でも今すぐ離れてほしい。
「玲花チャンは、小さくても可愛いから、俺は今の玲花チャンが好きだし、そのままでいいんだよ。気にしないで」
悠仁が蕩けるような甘い笑顔で言ってきたので、耐性がついていない私はつい頬を赤くしてしまった。その顔を見られたくなくて、サッと悠仁から顔をそらした。
「ラブラブだな」
「仲がいいですね」
(そ、そんなこと言わないでよ)
私が好きなのは晴樹なのに。こんなやつにときめいてしまった。精神的に疲れてしまっていたとは言え、晴樹を裏切っているような気がして、なんだか後ろめたい気持ちになった。
と言うか、悠仁の猫被りがいつの間にか元に戻っている。…やっぱりそっちの方がいい。
「もう、そんな顔されると、こっちまで恥ずかしくなるんだけど」
(え?)
思わず悠仁の方を見ると、いつもヘラヘラと笑っている悠仁の顔が、赤らんでいた。…調子が狂ってしまう。どうしたんだ、私。
「そ、そそ、そんなの知らないわ!」
テンパッた私は、凄まじい早さでお弁当を食べきって、
「美月さん、賀奈子さん、私、行ってくるわ!」
「え?ちょっと待ってよ玲花チャン」
逃げた。取り敢えず遠くへ逃げた。悠仁の声が聞こえたけど。…悠仁にそのまま捕まってしまう予感がしたけど。人混みに埋もれてもみくちゃになったけど、何とか人気の少ないところに出た。
「はぁぁ、私は、何をしているんだか」
自分で自分にため息をついた。その直後、腕をガシッとつかまれた。
「…ふぅ…つかまえた」
悠仁だ。やっぱりつかまってしまった。今の状態で悠仁に会いたくなかったのに。そのまま踵を返そうとしたら、腕を強く引っ張られて抱き寄せられた。
「玲花チャンどうしたの?さっきからおかしいよ」
「ひゃっ」
本気で心配されてる。
でも、耳元で話さないでほしい。変な声出たじゃないか。
「何でもないわよ」
「嘘だぁ」
「本当!」
「嘘だ嘘だぁ」
(しつこいわね)
「悠仁が私に小さくても俺は今の私が好きなんて変なこと言うからっ!」
「小学生かよ!」
悠仁にそう言われてから、冷静になって、本日三回目である腹パンをくらわせた。
「ぐほへっ…いった!玲花チャン痛いよ!」
私のときめきを返せ。小学生はないわ。
やっぱり私には晴樹しかいないわ。
いつもと同じように痛がっている悠仁を放置して、パン食い競争に出る人が集まる所へ向かった。どうして借り物とパン食いはこんなにも近いんだろうか。埋もれるのにも慣れた私は集合場所に早くはなかったけど普通に着いた。
周りには高身長の人々。
1人小さい私。
はぁ……憂鬱でしかない。
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