第8話「空挺降下」
「総員、降下用意───!」
総員降下用意!
総員降下よーーーい!
リズを救い出すという強い決意を胸に、キッと地上を睨み付けるナセルは、
無線機に向かって、敢然といい放つ。
彼の眼下に広がるのは、広大な敷地を持つ騎兵連隊の駐屯地だ。
そこには───。
巨大な厩舎。
人員用の宿発施設。
騎兵訓練場───そして、奴隷置き場などの各種施設……。
その、どこかにリズはいる。
……いるはずだ!
無実の罪で囚われ、すべてを搾取されるために……!
(リズ───! リズ───!)
そんなこと絶対に許せるかよ……!
あの子が……。リズが、何をしたって言うんだ……。
ただ……。
ただ、ただ平和に日々を生きていただけだろうがッ!
「そんなあの子が───! 勇者とアリシアと、王国上層部のアホどもの都合で、男達の供物になっていい理由などないッ!」
…………何一つないッ!
ギリギリリリリ……。
ナセルの手が真っ白になるほど握りしめられる。
「あまり気負うなよ、ナセル。……それより、本当にここでいいんじゃな? 下まで降りれんこともないぞ?」
ここ
上空300mの空の底。
「いや───いい。ここで十分だ」
バンメルは下まで送ろうか、という。
……だが、それは危険すぎるし、必要ない。
いくらバンメルのドラゴンが強かろうとも、相手は腐っても対魔王前線にいる騎兵連隊だ。
降下して、一撃の元に叩かねば反撃を食らうだろう。
……対魔物戦闘に慣れた前線の部隊には、ドラゴンに対抗する術もあるのだ、その危険は冒せないッ!
「──世話になったな、バンメル。ありがとう」
「ふふん、礼を言われるまでもない。───ま……。また、すぐ会うことになるじゃろうて。ひょほほほほ」
口角をあげるバンメルは飄々と宣い、軽く手を振っていく。
「……ちっ」
調子が狂うぜ。
だいたいナセルに協力するなど、本当に何が目的なんだか───。
(……まぁ、いい。どの道、俺の成すことは変わらない……!)
ならば気にするだけ無駄というもの──すー……と無線機の送話器を構えるナセルは、展開するドイツ軍に命令を下す。
「降下開始2分前!───部隊は空挺堡を確保ののち、騎兵連隊を強襲する。…………目標は強制労働所を確保!」
そして、リズの救出だ!!
「それ以外の抵抗は全て排除!……すべて排除ッ! 情けも容赦も必要ない!!」
『『『了解ッ!!』』』
頼もしい返答と共にドイツ軍が動き出す。
「行くぞ諸君!!──────降下用意ッッッ」
『『『降下用意───!』』』
……ガシャン!!
──ガラガラ、ガシャン、ガシャガシャ!!
襲撃により閉鎖されていた側扉が再び解放される。
その内部から顔を出すのは、生還顔つきの降下猟兵達───その先頭降下員だった。
そして、ナセルはというと、ドラゴンの背に位置したまま一度目を閉じ、両手を広げて低空の空気を感じ入ると、うっすらと目を開けて輸送機と共にしばらく飛行する。
ここは目標上空300m───人が単独では到達できぬ空の底だ。
(ようやくここまで来た……)
長く、遠い道のり───。
あの日リズを奪われてから幾星霜。
……復讐を優先しての道のりだった
(すまん、リズ。……俺は、お前を巻き込んだことを後悔しなかった日は一日たりとてない!!)
……だから、許してくれとは言わない!
いくらでも罵倒して構わない……!
───殺してくれてもいい……!
でも、
それでも、ここにきた!!
「───彼らと共に来たッ!!」
王都を滅ぼし、勇者を封印し、敵勢力を排除して───ここまで来た。
だから!!!
だから。だから───!!
──生きていてくれれば、必ず助けに行く!
どんなことをしてでも、何があっても生きていてくれさえすれば、
この、最低で最悪の、家族を巻き込んだ、この男──ナセル・バージニアが必ず救出にいく!
だから────────────!!
カッ!! と目を見開いたナセルは、ドラゴンの上で両の足で仁王立つと、
防寒具の裾をバサァと開きつつ、ジャキン! と、ドイツ軍降下猟兵制式装備のFG42自動小銃を空に翳して高らかに叫んだッ───!
ジャキンッ!!
「………………だから、生きていてくれッッ!!」
いま、
行く!!
──ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!
けたたましくベルが鳴り響く。
それに押されるようにして、
『総員、降下体勢ッ!───風速よし、高度よし……敵、航空戦力なし。進路クリアー!!───コースよし』
……降下の条件はオールグリーン!
『──コースよし、コースよし、コースよし……用意、用意、よーい……』
教導機の無線から流れる、降下開始を秒読む号令。
それと同時に、低速域のヒュルヒュルとした風がドラゴンの背に流れ込んでくる。
それは、降下猟兵装備ごしに感じる懐かしき戦場の空気だ。……そう、懐かしき戦いの匂い───。
『よーーーーい……』
───……降下!!
『『『───降下、降下!!』』』
「……降下ぁぁああ!!」
ベルが鳴りやむと同時に、輸送機内部のランプが一斉に赤から緑へと切り替わる!!
それを合図に、輸送機の両扉から一斉に身を躍らせるドイツ軍降下猟兵たち!
降下! 降下ッ!!
飛び出すとと同時に、彼等の落下傘に連結していた自動策環が伸び切り、落下傘を引きずり出していく!
ぼんっ……!
ぼんっぼんっ!
次々に開傘するのは、ドイツ軍降下猟兵の白く輝く落下傘。
……あぁ、夜明けの空に次々と花が咲いていく。
次々に降下コースに入った輸送機が降下猟兵を上空にばら撒いていく。
輸送機の両扉の淵に手をかけた降下猟兵がためらいもなく身を躍らせると無数の白い花が咲く。
藍よりも青く、
──大空に、大空に。
『『『───降下ぁぁああ!!』』』
次々と、
次々と!
降下猟兵たちが降下していく。
降下して、降下して、降下して───……!
……その様子をうっすらと眺めるナセルも、無線機をかなぐり捨てると、大きく息を吸い込んだ。
「行ってくるぜ、バンメル」
「おうおう、行け行け!! 行けよ、若人───」
はッ。
「もう、若くはないさ───!!」「ワシよりは若いわい」
はっ、ほざいてろバンメル。
言われずとも、行く。
征くさ──────!!
…数多の理不尽を吹き飛ばし、
……王国の傲慢を拝し、
………全ての不条理を正すためにッ!
なにより。
なにより、家族を……!
リズを、あの子を救うためにッ!!
……征く!!
「────行くぞ」
ナセル・バージニア!
──再びの最前線。
だが、今度は魔王軍と戦うためではなく……。
──ダンダンダンッ!!
ナセルは駆ける。
ドラゴンの背の上を駆ける! 駆ける───!!
駆けて…………!
駆けて──────!!
……ダァン!!
思い切りよく、ドラゴンの背を蹴ると、ナセルは高空に身を躍らせた───!!
「……そうだ。……そうだ!! 俺は、俺はもはや軍人にあらず! 俺は……俺は!! 俺は一人の男として、」
ナセル・バージニアとして……!
「───リズの最期の身内として……戦う!!」
魔王軍とではなく。
……家族を奪った、このクソ王国と戦うために……!!
戦場よ!!
最前線よ!!
俺の因縁の土地よ!!
「俺はぁぁああ──────」
ぶわぁぁっぁぁぁぁ──……と、そらの空気を全身で浴びつつ叫ぶ!!
万感の思いと共に叫ぶッッ!!
すぅぅ、
「───俺は、帰って来たぞぉぉおおお!」




