第4話「空を圧する」
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン……!
ナセルも降下猟兵と共に飛び降りるべく降下装備の最終チェックに取り掛かっていた。
落下傘よし、装備よし、準備よし、全部よし!
──さぁ、いざ行かんッ!!
巡航速度で飛行する戦術輸送機と並走するバンメルのドラゴン。
戦術輸送機の立てる重低音と「降下猟兵歌」が空を震わせる中──ドラゴンと輸送機が綺麗に編隊を組んで飛んでいるという異様な光景をまるで見せつける様に前線都市の上空を航過していくナセル達、降下猟兵の部隊。
眼下の都市は大騒ぎだ。
なにせ、大量の輸送機が装備する640馬力の計30発ものエンジン音が大地を叩くのだから、その様は圧巻ですらあるに違いない。
空路を行くものからすれば、騎兵連隊の駐屯地も前線都市もさしたる距離の差はないが、下から見上げる彼等からすれば、前線都市をドラゴンが襲いに来たようにも見えるのだろう──。
だが、そのつもりはない──今のところは、な。
あくまでもナセルの目標はリズが囚われているであろう騎兵連隊で、彼女の身柄ただ一つ。
「ほっほー。言葉通りド派手にやりよる」
「……まだまだ序の口さ」
──そうとも、まだ戦端を開いてすらいない。
シュルリッ、と空挺マフラーを口元まで押し上げるナセルはひとりごちる。
その装備はほぼ降下猟兵と同様で、彼等よりも少しだけ重武装だった。
「ほっ? 言いよるわ。これだけ大々的にお披露目しておいてからに──」
繁々と左右を併進する輸送機を眺めるバンメル。
……たしか、バンメルと戦闘したのはBf109G-6戦闘機だったか? だから、輸送機のが物珍しいのかもしれない。
「……あまり近づくなよ。ドラゴンと違って、繊細なんだ」
「カッ!──言われるまでもないわ!……それにしても、こりゃあ凄いのー。鉄の怪鳥の中に兵が乗っておるのか? どうやって飛んでいるのか皆目見当もつかんわい」
──そんなの俺だって知るかよ、とナセル。
バンメルは興味津々な顔で、輸送機に登場するドイツ軍を見ている。
一方のドイツ軍はバンメルには全く関心がない様で、乗員も兵も微動だにしない。
「……バンメル。感謝はしているが、アンタは手を出すなよ」
もうじき目標上空に到達するが、これはナセルの戦いだ。……もう、バンメルも十分に王国に弓を引いている気もするが、別に彼が仲間になったわけではない。
あくまで手を貸してもらっているだけで──バンメルはバンメルで何かの思惑があり、ナセルを利用しているのだろう。
「カッカッカ! 皆まで言わんでも、手など出すものかよ」
「……ならいいが」
この爺さんが何を企んでいるか知ったことではない。邪魔をしなければ上等──手を貸すなら、恩に着るまでだ。
「その代わり、存分に見せてもらおうとするかのー『どいつぐん』の戦いとやらを!!」
ふっ。
望むところ──。
「あぁ……見せてやるともさッ。存分になッ!」
バンメルの期待に応えてやるつもりではないが、存分に見せてやろう!
この世界初の空挺作戦をッ!
すぅ……。
「──降下開始、1分前!!」
『『『了解ッ!』』』
輸送機からの返答は明朗快活。無線機の故障も全くないらしい──さすがはドイツ製。
そして、徐々に近づく騎兵連隊駐屯地──……その郊外。
つまりはDPだ。
(よーし……! もう少しだ!、待ってろよ、リズ……!)
朝焼けに輝く騎兵連隊の広大な敷地──そのどこかにあの子が……。
「リズ……」
…今行く。
……すぐに行く!
だから、だから……待ってろ────。
「リ────」
「ぬぅッッ?!……ま、魔力反応多数が現出?! まずい、……ナセルよ!! どうやら、お客のようじゃ!!」
は……?
「きゃ、客……だと??」
「ど、どこから?!」
ま、まえ──ッ!
刹那、真正面──地平線の向こうに輝く弱々しい陽光を遮る陰!
その陰から無数の黒い塊が飛び出し散開する!!
「あ、あれは────?!」
……しまった!!
ナセルをはじめ、降下猟兵達が降下使用と空挺扉の縁に手をかけ、降下開始までのカウントダウンを開始しようとしたまさにその時のこと。
降下に集中していたがため、対空監視が疎かになり、それを見越したかのように最悪のタイミングでの接触されたらしいッ!!
「ちぃぃぃいい!!」
今更ながら、ビリビリと肌を刺すような強力な魔力の照射を受けて、顔を歪めたナセルの視界に飛び込む黒い影!
それは、どこか見覚えのあるシルエットに、耳を叩く被膜の飛翔音──……ド、ドラゴンだとぉぉおお?! そんな馬鹿な?!
いつの間に、野戦師団はドラゴンの運用態勢を整えていたというのか?!
ギィッェェェェエエエ……!!
ナセルの疑問をよそに、
鈍い獣声とともに、まるで太陽から生まれ出でるかのように湧き出したドラゴンのような飛翔体の群れが、パッ! と上空に散り……一斉に襲い掛かった!!
──う、上かぁぁぁあああああああああああああ!!!




