第10話「敵前降下」
───降下! 降下、降下!!
「とぅ!!」
決意を胸に、高空に身を躍らせるナセル───!!
自由落下により、ヒュルヒュルと体が風を切る音を感じつつ両手を広げる。
「ひょほほ……元気でやれよ~♪」
そこにドラゴンを駆るバンメルが落下に追従しつつ、ニヤリと笑いかけてきた。
「あぁ、そっちもな───」
「言われるまでもないわぃ」
カーッカッカッカ!!
ナセルの挑戦的な笑みを満足げに見送ると、後ろ手を振りながらバンメルはドラゴンを操り、戦場を離脱していった。
「……まったく、変わった爺さんだぜ」
ナセルは、最後まで掴みどころのなかったバンメルの気の抜ける挨拶を聞きながら苦笑い。
だが、いつまでも余韻に浸ってはいられない。地表まではわずかな時間。
ナセルの落下傘は、空中勤務者用のもの。
降下猟兵達のそれとは違い、手動で開傘しなければならない。
「さて、」
ヒュルヒュルと近づく地表を目標として、ガチャンッ!!───と一気に落下傘の開放レバーを引き出すと、背中に担っていた傘にかかる力が一気に開放される。
──ぼんっ!!
「ぐぅ……!」
広がる落下傘はナセルにかなりの開傘衝撃を与え、ミシミシと体を軋ませる。
慣れないGと、肩に食い込むストラップに思わず肺腑から呼気が漏れる。
空挺降下とはこれほどに負荷がかかるのか……!
ナセルの真上で、輸送機から次々に飛び出す降下猟兵を見上げながらナセルは、冷や汗をかく。
高空からの落下による緊張感と、近づく地表に対する不安で、脳内の交感神経が狂いに狂う。だが、今は地上に向けて静かに降りるほかない。
念のため、落下傘等の異常の有無を確認するため、目視で周囲をクルクルと見回すと、
「……傘チェック異常なし!」
───穴無し、捩じれなし、完全開傘確認済み……。
そのことにほっとするも、地上に異変が起こる。
「あそこだ!!」
「集合、集合! 弓持ち集まれ!!」
(……む?!)
降下中のナセルの足元にワラワラと湧き出した王国軍の散兵。弓持ちが少数……。
……来たか!!
駐屯地方向からおっとり刀で押し寄せたらしい散兵が、武装もそこそこに真下からナセル達を見上げていた。
その手に持つのは短弓ばかりだが、無防備に舞い降りるナセル達には脅威というほかない。
チ……! 奇襲とまではいかなかったか。
さすがに輸送機の爆音は喧しすぎる。夜明け前とは言えど、ここは最前線の駐屯地だ。監視点くらいあってもおかしくはない。
ナセルも無抵抗で制圧できるとは思っていなかったが……それに下って早すぎる。
やはり、魔法兵団の翼竜部隊との戦闘が余計だったというほかない──。
まぁいい、そのための降下猟兵だ。
とはいえ、降下点を抑えられると厄介なことに変わりはない。
空挺降下の最も脆弱なのが降下中と降下直後なのだから──。
「主力は上空──。俺の方が早い、か」
ワイヤーによる落下傘の開傘よりも、ナセルの自由降下のほうが降下がわずかに早かったようだ。
それは数十秒の差でしかないが、皇帝効果において、この数十秒が死力を分ける。
「いいだろう! 雑魚数名くらい露払いしてやるッ」
ナセルは続々と集結しつつある王国軍の位置を頭に叩き込みながら、空中で身体をまさぐり固縛している武器を探り当てた。
降下猟兵用のFG42が1丁に、拳銃1丁──手榴弾数発! そして、愛用のブロードソードが一本……!
(十分だ!)
落下中にバラバラにならない様に縛り付けていたそれを取り出すと、20発入り箱型弾倉を叩きこむ!!。
──ジャコ!
「き、来た!! 来たぞ!!」
「人?? 人なのか──?!」
はっ!
天使でも舞い降りたと思ってるのか!!
寝ぼけてるなら────……。
「そのまま、寝てろやボケぇぇぇええ!!」
──ジャッッっキン!
初弾装填!
「死ねや、雑魚どもがぁっぁああああ!!」
──ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
情け容赦のないフルオート射撃!!
しょっぱなからの全力だ!!
「「「ぐわぁっぁあああああ?!」」」
ナセルに対応しきれていなかった王国兵があっという間に打倒される。
まさか、空から敵が降ってくるとも思わずに、そして、まさか空から撃たれるなんて夢にも思わずに、一瞬にして屍の山を築くことになる王国軍。
「邪魔をするなら、マウザーをくれてやるぁぁぁ!!」
ジャキンッ!! ぶん……と、弾切れの弾倉を投げ捨て、素早く再装填。
ナセルの装備する降下猟兵用の超高級装備───空挺用自動小銃FG42は、降下中も射撃できる優れモノなのだ!
「ぐぅ……! く、くそ! 反撃しろ──」
だが、敵も精鋭だ。
寝ぼけ眼で駆けつけてきたとはいえ、長年魔王軍と対峙している騎兵連隊の兵士たち。
全員が射殺できたわけではなかったらしく、生き残りの兵士が弱々しくもナセルを見上げて指差し、反撃を指示する。
「ちぃ……!」
寝てればいいものを──。
ジャキンッ──ガシャコ!!
──追加のマウザーだぁぁあ!!
「く、くそ!! 上からくるぞ、気を付けろッ!」
「いいから、さっさと弓持ちは狙え!!」
「「「構えぇぇぇぇええええええ!!」」」
今度こそ、狙いをつけられるナセル。
キリリリリ───……と、降下中にも聞こえるほど引き絞られる弓の先に、自分の脳天を幻視するも───。
はっ!!
「だから……遅いっつーーーの!」
素早く弾倉交換したナセルは、矢が放たれるのも黙って見過ごす趣味はなく、端っからのフルオートでFG42を鼻先にぶちかましてやる。
「───どけぇぇぇええええええええええええええ!!」
狙ったら、さっさと撃つんだよぉぉおお!
こーーーーゆーーーーーーふううになぁっぁああああ!!
「うぉらぁぁぁあああああああああああ!!」───ズダダダダダダダダッダダダダッ!!
第二射を地上に浴びせかけるナセル。
その容赦ないフルオートに今度こそ全滅する王国兵たち。
「「「ぐわぁぁぁああああAAAA!」」」
だが、この大騒ぎであっという間に敵の警戒レベルが跳ね上がったようだ。
なにせ、ここは敵の本拠地だ。初動の部隊を殲滅しても次々に新手がやってくる──!
「くそ!! 降下完了まではまだまだかかる……!」
やはり、翼竜部隊で手間取ったことが、ここにきて裏目に出ている。
……本来なら、とっくに降下完了していたはずが、翼竜の妨害のせいで余計な時間を使い、降下地点もそれてしまった。
「ちぃぃぃ……!」
初撃のような、探りはもうない。敵も馬鹿ではないのだから当然の事!!
一撃したら、敵も一撃で答えるのだ───。
「ファストフォースの連中がやられたぞ?!」
「小隊長どの戦死!──畜生ぉぉおお!!」
畜生はこっちのセリフだ!!
ナセルの真上ではようやく降下猟兵が全員輸送機から飛び鳥たところだ。地上までは約1分ほど──。
現状、反撃できる戦力はナセルしかいないという状況だ!!
だが、その一分が鬼のように長い──……!
敵もそんな時間を舞ってくれるほどお人好しなはずもない!!
続々と集結しつつある王国兵は、軽装ぞろいの、初動部隊らしいがそれでも降下地点にワラワラと集まってくる。
「ま、魔法だ! 野郎、魔法武器を持ってるぞ!」
「盾持ちは集まれッ!」
「弓持ちは準備出来次第、どんどん射ぇぇええ!」
──ビュンビュンッ! と指向された弓がナセルを狙い、何本もの矢が耳元をかすめていく。
ナセルも負けじと、ズダダンッ! ズダダダンッ!! と、素早い短連射の繰り返し、弓兵を何人も打ち倒し、上と下から互いに応射!
落下傘の大きさい幻惑されてか、弓兵の狙いは大きくそれていたが、ナセルの空中からの射撃も当たっているとはいいがたい。ましてや下から狙われていて正確な射撃などできるはずもない。
くそ……!
「ひ、怯むな!! 放てッ!! 放てぇぇぇええ!」
撃ち上げと撃ち下ろしの関係でほんの数刻はナセルが有利に射撃戦を進めていたが、あっという間に弾倉の弾を打ち尽くしてしまった。
FG42は降下中射撃が可能なように、グリップは湾曲し、構えやすい仕様となっているが、強力無比な7.92mmマウザー弾を打ち出すかわりに、反動は大きく……。
「弾切れ?!」
───なにより箱型弾倉には20発しか装填できないのだ。
慌てて予備の弾倉を取り出すナセルだが、落下中の不安定な態勢では再装填の動作もおぼつかない
ともすれば、弾倉を数個取り落としてしまう。
「な……!?」
数十メートル下に落ちていく弾倉───。
薄暗い地上に落ちていく弾倉を未練がましくつかもうとするが到底届かない────えええぃ、ままよ!!
バチンッ!!
まるで弾倉を追うかのように、ナセルも落下傘の離脱器を開放し飛び降りる。
まだ数メートルはあろうかという高所だ!! 一種無謀にも思えるかけだが、下から撃たれまくるよりははるかにいい!!
「──馬鹿めぇ、天使にでもなったつもりか!」
「ひゃははは! 見掛け倒しだ! いいぞぉ、そのまま天に返してやれッ!」
きりりりり───……!
無防備なナセルを狙う地上の弓兵たち。
その動きがスローモーションに見えるほど濃密な瞬間! 刹那、一斉に構えられた弓矢がナセルを狙っている様子がまざまざと───。
「そこだぁぁぁあああああああああああああああ!!」
気味の悪い浮遊感に内臓が持ち上がる感触────だが、うぉぉらぁぁぁあああ!!
「ひ! こっちに────めぎゃ!!」
メリリ……! と足先から感じる感触に、そのままゴロゴロと地面に転がるナセル。
「がはぁ!!」
突き抜けるような衝撃に息が詰まるも、回転を繰り返し落下の衝撃を逃がす。
そのまま、頭がくらくらするのを強引に追いやり、ブロードソードを引き抜き、呆気に取られている王国兵のただなかに突っ込む!
「ひ?! と、飛びおりやがった?!」
「く!! 剣兵──やつを……ぐぁぁぁああああ!!」
弓持ちが接近されたなら、さっさと逃げろボケぇぇぇえ!
ジンジンとしびれる腕と全身のそれを半ば無視するようにしてブロードソードを降りぬき、弓兵数名をあっという間に切り伏せる。
だが、そこに王国軍の兵も短弓をかなぐり捨て、ショートソードを引き抜き、殺到する!
「舐めやがって!! どこの兵から知らんが──近づいて仕留めてやるぁぁあ!」
「斬れぇっぇええええ!!」
──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
数名とはいえ、最精鋭の王国兵たち。
対するは、高所から飛び降りたばかりで満身創痍の元ドラゴン召喚士──!!
剣の腕は比べるまでもない!!………………が!!
「……魔法の見せてやるぁ!」
ドイツの薬学医学は世界一ぃぃいいいいい!!
降下猟兵の上着に縫い付けてある戦場覚せい剤を被服ごと破り取ると、包装紙のままかみ砕く。
途端に異物感と共に、口に広がる甘苦い味────……。
「ペっ!」
カラフルな紙容器を吐き捨てると、負傷を思わせぬ動きで、地面に転がっていた弾倉を足でけり上げ、腕の反動だけで装填すると、流れる様に、ズダダダダダダダダダダダダダダンッ! と、超々、至近距離でFG42のフルオート射撃をぶちかます!
「は!! コイツはご機嫌だぜ!」




