第9話「第二騎兵連隊(中編)」
「……は?」
はぁぁぁぁぁぁ?????
ド、ドラゴンんんん?!
それに、ナセル・バーーーーーーーージニアだぁぁ???
「……な、何を馬鹿なことを言っておる! だいたい、どうして奴だと───」
そこまで行ってからハタと気付く。
野戦師団は臨戦態勢を常とする部隊。夜間警戒は当番制ではなく、専門の警戒部隊を配備している。
もちろん、この若い将校とて同じこと。
人一倍死力がよく、夜間適応視の高い兵士たちを集め、夜間の警戒に当たらせていただけに、その言葉に説得力はあった。なにより、本人だと断言できるほどに確信をもって言っているのだろう。
つまり───……。
グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
否定しようとしたギーラン卿の耳をつんざくドラゴンの咆哮。
ビリビリと窓が振動し、ただならぬ数が上空にいることがわかった。
「……ッ! バ、バカな?!」
思わず窓に駆け寄り空を見上げると「ッ!!」……なるほど───確かにドラゴンだ!
巨大な黒い影が無数に空を埋め尽くし、咆哮をあげているではないか。
「ど、どういうことだ? なぜだ?! いつ侵入された?! いや、それよりも奴の呪印は確か───……」
ナセル・バージニアは前線においてある意味伝説的な兵士だった。
何度も受勲されているし、人柄もよいため、同じドラゴン召喚士であるバンメル元帥よりもある意味人望の厚い男だったため、前線指揮官の中でも知っているものは多かった。
それだけに、ギーラン卿もナセルの顔も、その後の顛末も聞き及んでいた。
当然、ナセル・バージニアに課された残虐な刑すらも───。
「げ、現在、上空で魔法兵団とおぼしき所属不明のドラゴンが交戦中とも情報がきております! 最新の伝令によると、ドラゴンの上に人影を視認したとのこと───。し、しかし、ドラゴンは勇者親衛隊のものではありません!」
将校が言わんとするのは、飛竜を駆る勇者親衛隊と誤認したのではないかということだが……。
「当たり前だ!! ブレイズはとっくに壊滅しておるわ!!」
王都壊滅の報と共に、ブレイズの壊滅も知れ渡っている。
……ただ、この時点で騎兵連隊と王都には情報のタイムラグが存在していた。通信手段の未熟なこの世界においては、ブレイズの誇る空中機動戦力を除いて長距離連絡が可能な部隊は存在しない。それは短距離非行しかできないの翼竜とておなじことだ。つまり、いまだ騎兵連隊が掌握している情報は、難民から細々と入ってくる噂程度であったのだ。
つまり、王都が正体不明の軍勢に滅ぼされたのは間違いない。その程度と───。
「一体、どういうことだ?! なぜ、ナセル・バージニアがここに?!」
そもそも、ナセル・バージニアと騎兵連隊攻撃の関連性が思いつかない。
たしかに、同機は十分にあるだろう。
……しかし、あり得ない。あり得ないのだ。
ナセル・バージニアが異端者として召喚呪印を焼きつぶされたのは現然たる事実なのだから。
いや、そもそも……!
「なぜだ?! なぜ、我らを攻撃する? 異端者が、我ら王国を逆恨みするのはわからんでもないが……。なぜ我が連隊なのだ??……もしや、そいつは異端者ナセルではなくドラゴンを擁した魔王の軍なのではないのか?……かの軍勢との誤認した可能性は?!」
魔王軍ならば、王国軍を見て強襲することがあるだろう。
野生のドラゴンを飼いならし、魔物を駆って侵攻してくる可能性も充分にある───。
「ち、違います!! い、いいい、異端者です……! 異端者ナセルです!! ど、ドラゴン上に教会十字の焼き印をしたナセル・バージニアを間違いなく視認したとのこと!!」
「ば、馬鹿なッ!!」
バカな、バカな、バカなぁぁぁぁあああ!!
「いえ!! 事実です!! あ、あれを!!」
若い将校が指し示す先を見れば、なるほど!! いましがた、ボロボロの翼竜が駐屯地の広場に着地したところだ。そいつは魔法兵団所属の帯を付けており、先の戦闘の被害者だと分かる。そして、彼奴が息も絶え絶えに報告しているではないか。
「───……ええい、わかった! まずは情報の収集と、部隊の招集だ! 真実はともあれ上空にドラゴンがいるのは事実だからな! 調査もなにも、全ては撃退してからだ!!……それよりも、攻撃を受けているというのは、間違いではないのかッ?! 異端者は、我が方の上空を通過するのではないのでは?!」
戦略的にも価値の薄い騎兵連隊駐屯地だ。しかも、復讐相手というにはいささか方向性がずれているようにも───……。
「っ?! まさか……」
ギーラン卿がフト気付いた可能性。
異端者が発生した場合、連座的にその家族をも連行されることがあるというが───……確か、ナセル・バージニアには家族がいたはず。
残された最後の───……。
ギーラン卿が、何かに気付いたその時、若い将校がわなわなと震え出した。
「ま、まままま、」
ま……??
「───間違いではありませんッ!! あれを!! あれをぉぉぉおお!! き、ききき、来ます!!」
「な、何ぃッ?!」
バッ! と、窓の外を指さす先にあるも───「あれ」とはつまり……。
「………………なん、だ。あれは??」




