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奇妙なラブレター  作者: 山本正純
前編 Who is the sender of a love letter?
11/34

作戦は失敗に終わった。

 そして午前7時30分。春上は月守学園高等部の校舎内にいた。春上はこれから江角の指示通り校舎内を隅から隅まで捜索する。


 とは言っても月守学園高等部の校舎は県立高校の校舎の二倍の広さを誇る。30分で隅から隅まで捜索するとなると、一周が限界だろう。

 

 そこで春上は今朝江角から受け取ったメモを読む。そこには容疑者たちが立ち寄りそうな場所が書かれた地図が書いてあった。

「とりあえずこのメモに書いてある場所を重点的に捜索しよう」

 そのメモに書かれているスポットは全部で3カ所。どれも春上たちのクラスがある2階に集中している。それだけで捜索ペースは速くなる。

 月守学園の朝は早い。校門が開く午前7時から多くの運動部は朝練をする。文化部は朝練をあまりしない。

 春上が歩いていると、二年四組の教室の前の廊下で漆谷梅子に出会った。


 漆谷は不思議そうに春上の顔を見つめる。

「春上君。今日は早いね」

「ああ。今日は早く学校に行きたい気分だったからな。いつも8時15分に登校しているから生徒指導部長も驚いていた。それで漆谷さんは何で早く登校したんだ」

「朝練だよ。手芸部の朝練は任意だから全員参加じゃないけど、部長として参加しないといけないと思ってね。一応毎日朝練をしているけど、なかなか後輩たちが来ないから孤独なの。手芸の練習をしながら文字の練習もできるからいいけどね」

 そして漆谷梅子と春上は別れた。春上は彼女の後ろ姿を見ながら考え事をする。

「漆谷梅子。あいつがラブレターの差出人なのか」


 その頃図書室で江角は小説を読んでいた。第一章を読み終わった時テレサ・テリーは図書室に現れた。

 本の整頓をしている図書委員はテレサに声を掛ける。

「テレサ。今日も来たのか」

「だってここは天国でしょう。こんなに推理小説に囲まれた場所なんてここしかないから」

 テレサは両手を広げ一回転した。江角は小説を本棚に戻し、図書室から出ていく。

 図書室の玄関で江角は春上にメールを打った。

『テレサ・テリーさんを確認しました。追伸。彼女は不思議ちゃんかもしれません』


 校舎内を捜索中春上の携帯が震えた気がしたが、校舎内で携帯電話の使用は禁止されている。校舎内の捜索中何度も風紀委員とすれ違った。そんな状況で携帯電話を使用すれば、風紀委員に見つかり、携帯電話を没収されてしまう。それを避けるためには、昇降口に行き一度外に出るか、トイレに駆け込むしかない。

 だがそれをすると捜索の時間が減少する。

(捜索終了時間まで後15分。ここはメールをスルーしよう)

 春上は心に決めた時背後から一人の少女が声を掛けた。

「なにをやっていますか」

 

 春上の体は一瞬震えた。振り返った先には須藤涼風が立っていた。

「須藤さんか。風紀委員かと思った」

「風紀委員かと思ったということは、何か疾しいことでもやっているのですか。学級委員としてそれは見過ごせません」

「違う。朝早く来て疾しいことなんてするはずがないだろう。それより学級委員さんはなんでこんなに早く登校しているんだ」

「生徒会の仕事や先生から頼まれたプリントの整理。風紀委員の仕事の手伝いなどを行っています。頼まれると断れなくて」

「まさかそれを毎日行っているのか」

「はい。暇だったら手伝ってね。それと化学の実験のレポート。ちゃんと書いてる」

「実験の考察を記入する欄以外は書けてるけど」

「分かった。じゃあ後で一緒に考えましょう」

 

 こうしてラブレターの差出人を特定する作戦は失敗に終わった。


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