これから容疑者を特定するための作戦が始まる。
放課後。春上と江角は通学路を歩いていた。彼女は歩きながら春上に差出人を絞り込む作戦を伝える。
「明日から午前7時30分に登校してください。それでラブレターの差出人を特定することができるかもしれません」
春上にはこの指示の意図が分からなかった。
「なぜ早く登校したら差出人が分かるんだ」
「今までのラブレターは午前8時以降に下駄箱の中に投函されているでしょう。それは春上が午前8時より後に登校するという事実をラブレターの差出人が知っているということを意味します。逆を言えば、午前8時以前に月守学園高等部の校舎にいる女子生徒の中にラブレターの差出人はいるということです。毎朝月守学園は校門の前に生徒指導部長が立っています。校門を一度通らなければ校舎からの脱出は不可能。つまり下駄箱にラブレターを投函した後校外に脱出して、時間を置いてまた校門を通り、あたかも遅刻ぎりぎりで登校しましたとアピールするアリバイトリックは成立しません」
「つまり朝が苦手な俺に早起きをしろということか」
「はい。そうですよ。大丈夫です。モーニングコールをしますから」
江角は笑顔で春上の顔を見つめる。彼女の顔を見て春上は顔を赤くした。
そんな二人の後ろ姿をラブレターの差出人は人ごみに紛れて見ていた。彼女と春上と江角の距離は遠すぎたため、2人の会話は聞こえなかった。だがラブレターの差出人は春上と仲良く話している江角千穂を許せない。
(江角千穂。必ず春上君の隣は奪うから覚悟するがいい)
殺意に似ているオーラをラブレターの差出人は出して2人の後ろ姿を見つめている。そのことに春上と江角は気が付いていない。
その夜春上はため息を吐いてベッドに入った。
「これでラブレターの差出人が分からなかったら、早起きした意味がないかもな」
布団の中で春上はこのように呟き眠った。
9月6日金曜日。午前5時。春上は江角からの電話で跳ね起きた。
寝ぼけながら春上は携帯電話を手に取る。携帯電話には江角千穂という名前が表示されている。
『起きていますか』
「今起きた所だ。まさかそれだけで電話した訳ではないだろうな」
『そうですよ。この電話はあなたを起こすための物。というのは冗談で段取りを確認しましょうか。まず春上は午前7時30分に校門通過して校舎へ直行してください。後は午前8時になるまで校舎をパトロールするだけです。それで容疑者と遭遇したらその人物がラブレターの差出人です。私は図書館にテレサがいないかを確認しますから』
「校舎内に須藤涼風か漆谷梅子がいないかを探せということか。分かった。学校で会おうな」
春上は電話を切った。これから容疑者を特定するための作戦が始まる。




