Ep.3 幸運
エリゼに誘われ俺は今、街の食料品店や防具屋巡りに付き合っている。正直、俺には物資補給等のスキルがあるため食料品や武具のたぐいは必要ない。
この世界には怪我を瞬時に治すポーションや値段は下げても2日で傷口が塞がる薬草など、戦闘にあれば便利な薬品も数多い。しかし、今は金が無い。
エリゼなら気前よく貸してくれるのだろうが、頼ってばかりも流石に悪いと思う。
「店主、釣り竿とキーホルダーを交換できないか?」
「どれ、見せてみろ。」
「なるほど、しっかりとした作りだ。これはいいな」
店主は物々交換に応じ、交換可能な品と数量を提示してくれた。
「へぇー、オーデン手先が器用なんだな」
エリゼは釣り竿を手に取って見た。
自作した竹釣り竿5本と海自の連中から作り方を習ったロープのキーホルダーセット10個を薬草3枚とポーション(小)×2、かなり好条件で交換することができた。随分と気前がいいではないか。
店主に釣り道具をそれなりの条件で引き取ってくれた理由を尋ねると「最近、堀で釣りする奴らが増えてきて釣り竿の需要がのびてんだよ。釣り竿の素材は草原の遠くにしか自生してないし、助かるんだ。それに、君が作った釣り竿の笹、これはかなり質が良い。また作ったら是非うちに下ろしてくれよな」
とのことだった、
なるほど。釣り竿の需要はあっても供給は足りてないし、竹竿も手に入らないのか。そりゃそうか、狼があんなにウロウロしてる草原に足運んでまで竹竿作るキチガイは中々いないだろうしな。
明日から2ヶ月間傭兵稼業につくため、生きて帰ったら次回も竹竿を下ろすことを商人のおっちゃんと約束し。今後の小遣い稼ぎの場ができたのは嬉しい。
エリゼとの買い物も済ませ、宿へと戻る。
「オーデンはそんな武器だけで戦えるのか?」
「あぁこの杖みたいなのは銃と言ってな、いわゆる弓矢みたいなもんだからな」
この世界には銃火器が存在しないのだろう、武器屋には剣と弓屋、鎧が置かれているだけだったし。唯一飛び道具的なものを扱えるのが魔法使い。
エリゼいわく魔法使いはその数自体が少なく、その存在自体が国に管理されているいわゆる国家公務員職。魔導書も国家が管理しているため魔力を持った一般人が誰でも自由に魔法が使えるというわけではないらしい。
それもそうか皆が皆魔法を扱える状況は街中で銃が出回っているようなもの、物騒極まりないな。
買い物は午前中に終えた。宿に荷物を置くと俺は釣竿を持って午後の釣行に出かける。せっかくなので街から南に1キロほど離れた場所にある川までバイクを走らせてみた。
「これは凄いな」
川幅はそんなに広くはないが水はアマゾン川のように濁っている。俺はサバイバルキットから釣り針を取り出し、餌は今朝釣れたフナの切り身を付けて川にブチ込んだ。
グググググ
餌を投げてすぐ竿がありえないくらいしなる。
(これは大物だ!)
溢れんばかりの期待を押し殺し、慎重に糸が切れないよう獲物を引き寄せる。
「何だこれは!?!?」
アリゲーターガー?!?!色は少し毒毒しい紫色をしているがこれはどっからどう見てもガーだ。
「それ美味しいですよ。皮は高く売れるし幸運を呼ぶと言われるよ」
(?!?!?!)
気配を一切感じなかったどころか、俺が反射でナイフを構えてしまうほど間合いも近かった。近接戦ならおそらく殺されていただろう。
相手の顔をよく見ると猫耳の女??
「あぁすみません、驚かせてしまいました。私は獣人族のエレナです。以後お見知りおきを〜」
丁寧な挨拶をされたので俺も名前を明かして挨拶を交わす。雑談の中でエレナは最近田舎から出てきたばかりでお金がなく、川魚を取って糧にしているらしい。
「よければ、今焼いて食いますか?」
「いいんですか??ヤッタァぁ!!」
猫耳がピョコピョコ動き、尻尾を犬みたいにブンブンと振っている。皮は売れると聞いたので、まずは短刀で腹を開き内蔵を取り出す。次に身と皮の隙間に刃を入れて皮をはぐ。はいだ皮は肉を全てこそぎ落とし、よく洗って日陰に干す。
衛兵のオッサンに貰った香草、露店で買った塩をふりかけゆっくりと薪の上で回転させローストする。
「どうぞ!魚の香草焼き、お上がりよ!」
「うまっ、うまいにゃぁぁッ!!ニャッ!ニャムニャム」
猫舌なのかニャムニャム言いながら口の中で魚を冷ましている。別に取ったりしないのに。普段人間と共生しているせいか猫の部分があまり出ていないようにも見える。しかし、好物を食べるときにはやはり素が出るものなのだろう。
「うまっ、うまいにゃぁぁッ!!ニャッ!ニャムニャム」
エレナは成人男性サイズの巨大魚を数分で平らげた。大食いタレントもビックリな食いっぷりだ。
エレナは水筒の水を飲み干すと「今度あったとき、やっかいごとに巻き込まれてたりピンチのとき助けてやるにゃー。ゴホン、じゃなくてこれで呼んでください助けにいきますから。」そう言い残し、凄まじいスピードで何処かへ行ってしまった。
「何これ、笛か??」
小動物の骨で作ったような笛、独特な形をしておりなんかクセになる匂いがする。
「何だったんだろう。まぁいい帰るか」
木にかけたアリゲーターガーの皮を持ち、街へと戻った。今後の生活費のため換金しようと店に持ち込むとなんとこの魚の皮、商人のオッサンが金貨12枚で買ってくれた。予想より遥かに多い金額を稼いでしまった。
(あれ?俺傭兵なんかやんなくてもいいんじゃね??)
命がけで2ヶ月間働いても金貨6枚、アリゲーターガー1匹釣れば金貨12枚。え??俺もしかして人生の選択肢ミスってしまったのでは??
下手したら傭兵で死ぬという、ピンチな状況なのでは??ここであの猫娘の笛を吹きまくってやりたいところだがこればっかしはどうしょうもない。
契約書には逃亡は殺されても文句は言わないと書かされたもんな。俺は軽率な判断をした過去の俺と勝手にサインしたエリゼを恨んだ。
「ま、しかたねぇ2ヶ月間頑張るか。」
手に入れたい金貨でポーションを追加で5個、マジックアイテムボックス鞄を金貨7枚で購入。鞄は異空間に通じてるらしく、普通のリュック5個分の荷物は入るし重さも変わらない。
これで収納や手荷物問題も解決した。
帰り道はまだ通った事のない裏路地を通った。距離感覚的に間違いなく近道だと感じたからだ。裏路地を中程まで進むと何やら古い看板のかかった店を見つける。
「えーとなになに、鉱物・鉱石専門店街かかなり古い字体だな」
(あれ?そう言えば何でこの世界の文字や言語がわかるんだ??)
今更ながらではあるが、あまりにも普通にこの世界の文字が読め言語も理解できている事におどろく。折角なので店に入ってみた、冷やかしだと追い出されなければ良いが。
店の中にはありとあらゆる鉱石や鉱物が置かれている。はて、これは硫黄か。それに硝石もあるじゃないか。アルミの粉末や銅の粉末も。
色々と使えそうな物があったのでそれぞれ一キロずつ、銀貨6枚で購入。
宿に帰ると俺はシャワーを浴び、今日の出来事をメモ帳に書き留めると早めの就寝についた。




