24.送別会
『勝者、アルマ・シュナイダー! 彗星の如く現れたアイス・ガール、破竹の勢いが止まりません!』
実況の声と同時に観客から大歓声が巻き起こると、アルマは無表情のまま軽く手を挙げてその声援に応えた。
初戦こそ大きなブーイングを浴びたアルマだったが、常に新たな娯楽を求めている観客たちは現金なもので、誰が相手でも一切表情を変えることなく淡々と敵を屠るその姿から、今では「処刑人」を意味する「アイスマン」が転じて「アイスガール」という二つ名が付く人気選手の一人に数えられている。
その一方で、アルマに敗北を喫したベンはその一戦をきっかけに大きく戦績を落とし、前々から囁かれていた不正疑惑も影響して瞬く間に人気選手の座から陥落していった。少なくとも今後しばらくの間は、ベンの不正に巻き込まれる不幸な選手が生まれることはないだろう。
最後に四肢を破壊され行動不能になった機械獣を一瞥し、アルマは試合会場を後にした。人間と戦うよりはまだましではあるが、無意味にMIロボットを破壊する行為は決して気分の良いものではない。荒野を彷徨っていたところを捕まえてきたのか、塔の中で製造されたものなのか定かではないが、こちらを見つめる無機質なランプの奥でいったい何を思うのか、他MIとのネットワーク通信が禁じられているアルマには知る由もない。
リリアとの約束で自身の目的が改めて明確なものとなったアルマは、その日を境にまるで人が変わったように凄まじい勢いで戦闘技術を学習し、闘技場での勝利を積み重ねていった。そして、結果的にアルマは初参加から一度も敗北を喫することなく、史上最速で中層へ上がる権利を得ることとなったのだった。
管理局にて諸々の手続きと中層へ行くために必要な通貨の支払いを済ませた後の下層地帯で過ごす最後の夜、『Bar Salgado』にてアルマとミコの送別会が盛大に催された。
「前からただ者じゃねえとは思っていたが、まさかこんなに早く上に行っちまうとはなぁ……」
「中層でも頑張れよ、アルマ!」
「帰ってきたら、向こうがどんな場所だったか俺たちにも教えてくれよ」
祝いの言葉もそこそこに早速酒盛りに興じる常連客たち。送別会というのはただの建前で、彼らにとっては体のいい酒飲みの口実でしかない。
アルマはいつも通りバーカウンターの席で、いつの間にかお気に入りになったジンジャーエールを飲みながら食事を楽しんでいる。隣にはミコ、その反対側の席にはもちろんリリアの姿。
「そうだ、中層へ行くのに必要な分と引越しの代金を払って残った通貨をサルガドの口座に入れておいたから、あとで確認しておいて」
「はぁ!?」
何気なく告げられたアルマの言葉に、驚愕の声を上げるサルガド。
「ちょっと待て……こんな大金とても貰えないぞ!」
慌ててネットワーク端末で預金を確認したサルガドが、再び大きな声を上げる。
「構わない。サルガドには本当に感謝している。お店とリリアのために使って欲しい」
「腕を治してもらったうえに通貨まで……こんなにしてもらうほど恩を売った覚えはないんだが……」
リリアと約束を交わした夜、アルマはサルガドにも自身がMIで動いていることを告げた。そして前から気になっていたサルガドのMI化した義手を検査してみたところ、やはりベンの不正によってプログラムに異常をきたしていたことが判明した。完全な機械の修理であればミコの領分だが、神経と繋がっている義手に関しては人間の身体を持つアルマの方が知見が深い。治療を行うと、サルガドの腕はほぼ怪我をする前の状態に戻り、大変に感謝された。心なしか料理もさらに美味しくなったような気がする。
「ミコも何とか言ってくれよ。お前、アルマのサポートロボットだろう……」
『アルマが決めたことに口を出すつもりはありません。それに、私個人としてもアルマの選択を好ましく感じています』
アルマがリリアとサルガドに自身の秘密を打ち明けたことを、ミコは咎めなかった。アルマが塔の上を目指しているように、アルマを守り支えることを己の使命としているミコにとっても、弱みとなり得る部分を見せても問題ないと判断できるくらい、二人のことを信頼しているようだ。
「アルマ」
席を立ったリリアが、アルマの前に来て後ろに手を組み、もじもじと照れくさそうな表情でこちらを見ている。
「どうしたの、リリア」
アルマも席を立って訊ねると、リリアは意を決したようにアルマの首に手を回した。何が起きたのかと思っていると、胸元で何かが擦れるような音がするのに気付く。見ると、アルマの首にネックレスがかけられていた。同じものが、リリアの首にも下がっている。
「お揃いで作ったの。こんなものしかあげられないけど、お守りになったらいいなって……付けてくれる?」
「もちろん付ける。嬉しい、ありがとう」
綺麗な石があしらわれたネックレスを見つめるアルマ。ジェニィの銃、キスケのブレード、そしてリリアのネックレス。また大切なものがひとつ増えた。天井の明かりに反射して石が煌めくのを何度も確かめながら、目的を果たして必ず戻ってくると、アルマは誓いを新たにしたのだった。
翌日、アルマとミコは管理局から迎えに来てくれた自動運転車両に乗って移動し、初めて塔へ来たときと同じエレベーターに乗って中層へと昇った。
未知の素材でできた壁に四方を囲まれた通路をまっすぐ進み、その先の扉の前に立つと、音もなく左右に開いた扉の先から、下層とはまったく異なる中層地帯の空気が、アルマたちを招き入れた。
第二章完!




