七話:前を向かせてくれたのは
空間魔法から無事抜け出せることができたリスタたちは、気絶したマリーを連れて宿屋へと帰ってきていた。マリーは彼女の父親に預け、リスタ、ルティラ、ヴェンの3人で別れてからあったことを共有する。
「えっと……リスタが言いたいことは……あの化け物はマリーさんの家族だということ。領主は獣人の方たちを嫌っていて、いやがらせ……もう差別というべきですわね。そんな差別に対抗するべく、シュメルツェンという組織があり、マリーさんはそれに所属している。で、それにリスタさんが誘われ、協力することになったと……」
「……聞いてて思ったんだけどよ、これって言っていいのか?」
ヴェンがそう言うとルティラも同じように思っていたのか、首を縦に振る。
「まぁ、「2人には言わないで」ともいわれていませんし……」
「リスタは変なところでずる賢いんですわね」
ルティラはそう言って1つため息をつく。
「まぁいいですわ。とりあえずもう1つ質問を。なぜマリーさんを気絶させたのですか?協力するのならともに戦うことが最善では?」
「……そうするのが最善と思ったまでです」
「なんでだ?」
ヴェンにそう言われ、リスタは少し困惑する。自分でもどうしてなのかわからない。正直に言ってしまうならば直感だった。そんな中でさらに考えを巡らせる。あの時どうして自分があんな行動をしでかしたのか。
「……マリーさんの憎しみを更に、あの領主……オーブルがあおったんです。火に油を注ぐ。それが狙いかのように」
「冷静さがなけりゃ、まともな判断ができなくなる。それを狙ったんじゃねぇか?」
「本当にそれだけでしょうか?」
3人の会話が途切れる。時刻は夕方。カーテンを閉めていない窓から西日が3人を照らす。まるで、あの時の刀を持った悪魔族の目の色のようだった。
「そういえば、オーブルと、他2人の悪魔族の人たち……マリーさん、そしてルティラとヴェンを狙っていたんですよね?」
「そうですわ」
「そうだな」
「……ならば、ほぼ確定で戴冠の檻と見ていいでしょう」
戴冠の檻はリスタがルティラやヴェンと出会ったとき、必ず彼らを狙っていた。それを踏まえるとあの3人も戴冠の檻だということが推測できる。
「戴冠の檻に、あなたたちが狙われることについても調べる必要がありそうですね」
そう言ってリスタは自分のバッグの中から紙とペンを1つずつ取り出し、3人が座っているテーブルの真ん中に置く。
「少しだけ整理してみましょう。マリーさん、それからあなたたち2人。どれも戴冠の檻の言う”計画”に必要だと言われていました。彼らの言う計画。それは”魔王の復活”だと思われます」
そう言いながらリスタは紙の上に”魔王の復活”という文字と、その近くにマリー、ルティラ、ヴェンの名前を書き足す。
「それから……ヴェンの村で出会ったあのべリアという女性。あの人も計画に必要なのだと……」
そこまで言ってリスタは思い出す。
「そう言えば、あの時、あの女性が呼び出した黒い怪物。あれの名前って……」
「確か……あっ!重空だな!」
「読みが一緒ですわね」
「なにかしら関係があるとみてよいかもしれません」
そう言ってリスタは紙に”獣殻”と”重空”と書く。
ただ、それ以外に何か共通点になることは無く、代わりにルティラやヴェン自身のことを聞いていく。
「俺は魔獣の言葉が聞けるし、魔獣と話せるぜ」
「そうですね、それは書いておきましょう。ルティラは?」
「私の特徴は……自分で言うのもあれですが、魔法のセンスでしょうか?実はさっき、あの2人の悪魔族と戦っていた時、ヴェンに身体強化魔法をかけていたのですが、ヴェンの身体強化魔法と重複していたようなのです」
「そう言えばそんなこと言ってたな。いつもより身体も軽かったし、ほんとに2重でかかってたと思うぜ」
リスタの知識の中にはないが、身体強化魔法というのは重複して付与することはできないらしい。
「なるほど」
「あぁ、あと魔力量と、得意属性以外も基本的には使えますし……魔力量は……人間の量をはるかに超えていますわ。フロンツ王国にいた時は魔力測定器の故障だとクローツ殿下にずっと言われておりましたけれど……」
「数値は?」
「2000です」
「それってどうなんだ?俺、そもそも人間の数値を知らねぇんだけど」
ヴェンがそう疑問を口にすると、ルティラが答える。
「人間は大体800~1000ですわ。過去の文献を見ても、人間の最大は1500ほどだったと思われます」
「え?」
「この数値も私が10歳に測ったもの。おそらく今はそれ以上かと」
「2000となると、獣人族と同じくらいですね」
「嘘だろ、ルティラってそんなに魔力あったのか」
「ええ。これだけ魔力があって、更に魔法を発動する際に魔力消費を軽減する術を知っていますから、それを活用するとまず魔力切れになることはありませんわ。それこそ、私たちが入った、あの空間魔法のような大規模なものでなければ」
ルティラがそんなことを言っている間に、リスタはルティラやヴェン自身のことを紙にまとめていく。
(魔王復活のためにここにいる2人やマリーさん、それからヴェンの村に現れたあの女性。獣殻と重空……そう言えばオーブルは獣殻のことを知っているような口ぶりでしたね……以前見たことがあるのでしょうか?)
そうして気になることを紙に書き留めていると、紙面が文字でいっぱいになる。それを見てリスタは新しい紙を取り出し、今度は自分のことについて書き出し始める。
(魔王……魔王と言えば、ジェーンさんが言っていた。私の魔力は2つあって、そのうちの1つが魔王の魔力と同じだって……)
それを紙面に書き出す。それに続き、リスタがオーブルと対面したときのオーブルの反応を紙面に書き出していく。あの時のオーブルの反応は妙だった。余裕綽々としていたというのに、シェリルオーラの黒鎌で切りかかろうとすると、何かに気が付いたように鎌を避け、怒りと少しの焦りをあらわにしたのだ。
「リスタ、何を書いているんですか?」
「はぃ?!」
考えに耽っていたリスタの耳に、ルティラの声が届く。いきなりのことで驚き、素っ頓狂な声が出てしまったため、リスタの頬は恥ずかしさのあまり赤く染まる。ただ、そんなことを気にせず、ルティラやヴェンはリスタが書いた内容を見た。
「これ、リスタ自身のことですか?」
「え?ええ、まぁ、そうですけど……」
「これ!これなんだよ!知らなかったぞ!」
「え?い、言っていませんでしたか?」
「ええ、初耳ですわ!」
それを聞いてリスタは頭を抱える。確かにそう言われればずっと言っていなかった気がする。おそらくその情報のおかげで何かが確定することもなかったので、2人に言う必要もないと思っていたのだろう。
「あ、えっと……その……」
そして、その事実が判明したことで、リスタは一気に怖くなった。このことで2人に拒絶されるのが怖かったからだ。魔王の魔力と同じものを持っている人間など気味が悪いだろう。だが、リスタの心配をよそに、2人は紙を見ながら疑問を口にしていた。
「リスタの魔力の半分が魔王のものなら、なぜリスタは戴冠の檻に狙われないのでしょう?魔力こそ生命が存在する中で最も重要だというのに……リスタは何かわかりますか?」
「あ、あれ?」
「「?」」
「2人とも、怖くないんですか?一応、私の魔力の半分が魔王のものらしいですし……」
「う~ん……驚きはしましたが、怖いというほどではありませんわ」
「ああ。今まで俺たちに前を向かせてくれたのはリスタ。だろ?」
そう言って2人はリスタに向かって柔らかな笑みを見せる。それを見て、リスタも笑う。一瞬、つっかえた何かがすぐに流されていく。
「そう…そうですね」
そんな時、リスタの膝の上にメアが乗ってくる。さっきまでぐっすり眠っていたのだが、起こしてしまったようだ。
「メア、起こしてしまいましたか」
リスタがそう言ってメアを撫でようとすると、メアはそれをすり抜け、リスタの肩まで登り、前足でリスタの頭をポンポンと触る。どうやら逆に撫でられているようだ。
「……ごめんなさい、あなたを不安にさせてしまって」
心獣は主人の心が揺れるとき、それを守ろうとするのだとジェーンから聞いた。おそらくそれだろう。そうでなくてもそう言うことにしておく。ひとまず、気持ちを切り替えることが大事だ。
「そう言えば、空間魔法が解ける瞬間、声が聞こえませんでした?」
リスタが2人にそう問いかける。が、2人は聞こえていなかったらしい。
「何か聞こえたのか?」
「ええ、領主……オーブルに「狂人が!」と言われて……」
リスタがそう口にすると、メアがグルグルとうなり声を出し始める。怒っている。しかも、今までにないくらいに。
「メア?」
そんな時、3人が話している部屋の扉がノックされたのだった。




