五話:差異
なんだかんだあり、リスタはシュメルツェンへと一時的に加入し、マリーの協力者になったことで、いくつか情報を手に入れた。
「リスタさんは、不審者として紙に書かれた人に気を付けるように言われましたよね?」
「あぁ、昨日、騎士さんたちに渡された紙ですよね?」
「そう。それは、あたしたちの……というより、あたしの家族です」
「え?か、家族?」
リスタがそう疑問を口にすると、マリーは自分の左手を触り、名前を呼ぶ。
「獣殻」
すると、マリーの真横に、背の高い猫背の、フードと仮面をかぶり、ぼろぼろのローブを羽織った”ソレ”が現れる。リスタがそれを見た瞬間、無意識的に体が警戒を始めた。
「警戒しなくて大丈夫ですよ」
「でも…」
「じゃあ、これでも信じられませんか?」
そう言ってマリーはリスタの目の前で”ソレ”と握手する。特に触れている部分がボロボロと灰になっていっている様子はない。
「その……獣殻と言いましたか?それはいつからあなたとともにいるのですか?」
「私が生まれた時からずっとだと思います。この子、フーちゃんってあたしが勝手に呼んでるんですけど、フーちゃんの姿をこうやって直接ここに呼び寄せたのは5年くらい前ですけど。それまでは声だけでお話してたんです」
「なるほど……」
そうしてリスタとマリーが話している最中、獣殻、もといフーちゃんからの視線がリスタにずっと刺さっているような感じがした。それがむずがゆく、リスタが口を開こうとすると、先にフーちゃんが口を開く。
「ァォゥ……ォォォ」
「え?」
何を言っているのかわからず、リスタが困惑していると、フーちゃんはリスタにゆっくりと近づき、片手を取って口づけのような仕草をした。
「「へ?」」
その仕草にリスタ、更にはマリーまでも困惑で固まる。
「フーちゃんどうしたの?!」
「さ、さっき何か言ってましたが……マリーさんは聞き取れたりしないんですか?」
「いや、あたしもなんとなくしか……今までは文脈で判断していましたし……フーちゃんが自分から話すことなんかなかったですし……」
困惑しながら、2人がその場で呆然としていると、外が騒がしくなっていたことに気が付く。
「フーちゃん、呼び出して早々ごめん。一旦戻って」
マリーがそう言うと、フーちゃんは即座に光の粒子となり、マリーの左腕にまとわりついた。少しするとそのまとわりついていた光の粒子もすぐに消え去る。
「リスタさん、1回外を見に行きましょう」
マリーがそう言って先に部屋を出る。それに続き、リスタも部屋を出た。
「いったい何が……」
宿屋の外に出ると、町の人々が何かを囲うように集まっていた。マリーが何があったのかと、近くにいた町の住民に声をかける。その時のことだ。1人に声をかけたはずなのに、その場にいた全員が無表情のままマリーの方を向く。その不気味な光景に、マリーは思わず1歩後ずさってしまう。
「い、一体何があったんですか?」
不気味に思いながらも、あとを追いかけてきたリスタが町の人に声をかけると、こっちを見ていた人たちはまるで何事もなかったかのように隣の人と話したり、住民たちが囲っている中央を見たりしている。そしてリスタに話しかけられた人はというと、他の人たちと同じように、さっきまでの無表情は消え去り、慌てながらリスタにさっき怒った出来事について話した。
「実はさっき……その、あれが……」
そう言って住民が指さすのは、彼らが囲んでいる中心。リスタが人々を押しのけて、その真ん中を見て見るとそこには……
「なにも、ない?」
「そう、何もないのだよ」
* * *
警備の弱そうな場所を探しに、ヴェンは町中を走っていた。だが、よさそうな場所は全くと言っていいほどない。一見脱出できそうな場所でも、チューラたちに協力してもらったところ、この町の周りには結界が張ってあるらしく、どのような効果なのかわからない以上、警備が手薄な場所だと決めつけてそこを脱出経路として使うのは危うい。せめてルティラに協力を仰ぐべきだ。
「ルティラを探すか……」
そうしてヴェンはルティラを探し始める。しばらく探していると、案外簡単に彼女は見つかった。
「ルティラ、ギルドの依頼はあったか?」
「ええ、今は犬探しの依頼が終わりそうですわ」
そう言ってルティラは腕に抱いた子犬を撫でる。子犬はというと、知らない人に触られてとても嫌がっているようだ。
「今は疲れて大人しい方で、さっきまでよく噛んできたのですわ」
「そう言う割には傷なんてないが……」
「もちろん防御結界を使ったのです。さて、そろそろ連れていきます。ヴェンも一緒にどうでしょう?」
「まぁそうだな。一応ついてくぜ」
そうして2人は冒険者ギルドへ向かい、報酬を受け取る。少ないが、多少の足しにはなるはずだ。
「依頼は何件受けたんだ?」
「3件です。それ以上はなく、誰かにとられる前にまとめて受けましたわ」
ふふんと鼻を鳴らしながら、ルティラはお金の入った袋を揺らした。チャリチャリと金属のこすれる音がする。
「ん?」
「どうかしたか?」
「いえ……気のせいでしょうか?」
ルティラがそう呟くと、またお金の入った袋を鳴らす。
「いえ、気のせいではありませんね。ヴェン、早くリスタの元に帰りましょう」
「な、なんでだ?」
「硬貨のこすれる音が反響しているのですわ。これは空間魔法の特徴です。詳しいことは省きますが、空間魔法と呼ばれる魔法は、作り出した空間を維持するために魔法を発動した者が現実世界との差異を作り出さなければならないのですわ。本来その差異は大多数がすぐに気が付くような物なのですが……この差異は言われないと気が付かないほど。相当な実力の持ち主たちですわ。それに、範囲もかなり広いかと。まぁ、もともと大人数でやることが想定されている魔法ですから、範囲は大きくなりがちなのですけれど……それを加味してもかなりの範囲と推測できますわ。とにかく、早くリスタとっ……!?」
「大丈夫か!」
ヴェンとともに、ルティラが走りながらヴェンに説明をしていると、突然ルティラの足に激痛が走った。ルティラが自分の足元を見ると、茨がルティラの足元を貫いていた。
「ヴェン、2秒だけもらいますわ」
「おう!」
2秒。その間にルティラは足に巻き付いた茨を燃やし、即座に回復魔法を自分の足にかける。すると、どこからか2つの声が聞こえてきた。
「素早い。あのお方と比べれば足元にも及ばんが……」
「人間とあのお方を比べないであげなよ~。可哀そうだよ?アリと巨人族を比べて巨人族のほうがおっきいねって言ってるようなもんじゃん」
そんな言葉とともに、ルティラとヴェンの行く先をふさぐように、2人の人物が現れる。金の糸で装飾されたローブを着た男と、刀を持った女。その2人はどちらとも頭に角がついている。
「……ヴェン」
「あぁ」
その2人が敵であることは雰囲気から想像でき、そしてとてつもない強敵であることも明白だ。だが、ルティラ、そしてヴェンはもうここから逃れることはできない。それを理解し、2人は臨戦態勢に移る。その姿を見て刀を持った女は嬉しそうに笑う。
「いいじゃん!ねぇ、クロム。ボクあの子たち気に入った!」
「お前のペットにはできん」
「うっ…やっぱり?」
「あぁ、こいつらは”計画”に必要だからな」
「だよね~……ま、ひとまず任務をこなすしかないか」
そう言って女は刀を鞘から抜く。
「簡単にやられないでね?」
女はそう言ってペロリと舌なめずりをした。




