五話:吹雪
次の日。リスタとルティラは目を覚ます。いつもより冷たい部屋の中。暖炉が消えているから。保温の魔法をかけていないから。
それだけではない。リスタがカーテンを開けると、外は雪が降っていた。ロマンチックな、しんしんと降るような、そんな雪ではない。ビュウビュウという風の音が2人の耳に入るような吹雪だ。
「まだ冬に入ったばかりだというのに吹雪ですか……」
リスタはそんなことをつぶやく。ちらりと自分が入っていたベットを見てみれば、ロマとメアが入っているであろうふくらみが少しだけ見える。
「今日外に行くのは危なそうですね」
リスタがそう言うと、ルティラは少し残念そうな顔をした。ただ、すぐに何かを思いついたのか、にやりとした笑みを浮かべる。
「防風魔法と保温魔法を同時に使えばこんな吹雪でも安心ですわ!」
「それでもだめです」
「むぅ……」
別に魔力を使わなくていい時にそんなことをしないでほしい。とリスタは思いながら寝間着から普段の服に着替える。
そうして2人が朝のやり取りしていると、リスタの視界の端。窓の外で何か動いているものが映った。吹雪のせいで良く見えないが、人っぽいシルエットをしていたような気がした。
「?」
「今日は私は魔導書でも読んでおきますわ。リスタはどうしますか?……リスタ?」
「ん?ああ、聞いてますよ……ええと、私は少しだけ宿屋の人と話してきてもいいでしょうか?」
「わかりましたわ」
そうしてルティラはバックの中から1冊の本を取り出し、読み始める。その間にリスタは宿屋のロビーに行く。
「……外は寒いですよ、メア」
後ろからこっそりと後をつけていたメアに、リスタはそう言った。
「ニャ~……」
「一緒に行くのは嫌でしょう?」
「ニャ~」
リスタがメアにそう問いかけながら抱き上げると、メアは首を横に振って拒否の姿勢を見せる。
「嫌なら大人しくルティラと一緒に部屋の中でいてください」
「ニャ……」
「大丈夫です。保温の魔法の魔法石も一応持ってますし。この服がそもそも温かいですから」
「ニャー」
少し不服そうにメアはルティラが本を読んでいる部屋へと戻っていく。それを見届けてからリスタは”外に行くため”に扉から外に出た。幸い宿屋の主人はそこにいなかったため、外に行くことを止められることはなかった。
* * *
そうしてリスタは外に出て、窓から見えた人影の正体を探していた。そもそも冷静に考えればなぜ外に出てわざわざ探しているのかわからない。ただ、そうすべきだと思ったのだ。
「……」
その時、何か声が聞こえ気がした。少し収まっていると言えど吹雪だが、風の音以外が聞こえた気がしたのだ。
「こちらでしょうか……」
そうして声のした場所だと思える方にリスタは進んでいく。そうして少し歩くと、人影が見えてきた。
(誰?)
その人影に気づかれないようにリスタはそろそろと近づいていく。その時のことだった。その人影はこちらを振り向き、走って近づいてくる。逃げようかとも思ったがリスタはそれをやめた。なぜなら、その人の顔を知っていたからだ。
「リスタ!こんなところで何してるんだ?」
「私は外に人影が見えて……今の状況を見る限り多分、ヴェンのことだったんでしょうけど。なんで外に?」
「あぁ、そっか。いや、セツケの群れがやってきてな」
ヴェンがそう言って自分の足元に視線を落とすと、白いふわふわしたものがいくつか動いていた。それはセツケという魔獣だ。珍しく人間に無害な魔獣で、雪が降る地域で吹雪とともにやってくる。見た目は白い毛玉で雪の上にいると景色と同化して本当に見づらい。そのふわふわの体には口だけあるものの、それ以外のものは見当たらない。
「普段なら無視してるんだが……」
するとヴェンは少し言いづらそうにしながらリスタに言ってくる。
「最近、変なセツケの群れがあるらしい」
「変……ですか」
「あぁ、見た目から中身まで何もかも変なんだと」
「……」
リスタはそう言われ、今まで見てきたチューラやフロートシープのことを思い出す。100匹以上にも分身を作り出すチューラ。それから岩まで浮かせてしまうフロートシープ。どれも普通はありえないはずなのだ。
「詳しく聞かせてもらえませんか?」
「まぁいいけど……寒いからどっか中入るぞ」
そう言ってヴェンはセツケに何かを話しかけた後、リスタを連れて建物内に入っていく。
「ここは俺が住んでるところだ。テキトーにかけてくれよ」
案内されたのはベットと机があるだけの小さな家。いや、倉庫といったほうが正しい。
「1人で暮らしているのですか?」
「いや、おふくろと親父はこの村にいるぜ。ここは家の使わなくなった倉庫だ。ほら、あっち見てみろ。家があるだろ?あれにおふくろと親父が住んでる」
「なぜヴェンさんはこっちに?」
「簡単な話だ。自分の部屋が欲しかった。それだけだよ」
そう言ってヴェンはベットに座り、リスタに椅子を差し出す。
「まぁ座ってくれ。セツケについて話そう」
そう言われリスタが椅子に座ると、早速ヴェンは”変なセツケの群れ”について話してくれる。
「さっきのセツケたちに聞いたんだけどよ、そのセツケたちはなんか体が大きかったんだと。魔力もセツケじゃないだろってくらい多かったらしい」
「ふむ……」
「まぁそれで色々ほかにも聞いてたんだけどさ、一番気になったのが食べ物だ。リスタは魔獣の中に、食べなくても生きていけるやつらがいるって知ってるか?」
「ええ、セツケはその代表と言えるくらいのものですけど……」
「ああ。空気中の魔力を吸収して生きていけるんだよな。まぁ、たまに果実を食べることがあるけど」
「食べるんですか?」
「ああ。魔力を多く含んだ果実は食べたくなるらしい。まぁ、セツケが食事をするのはそれくらいなんだが……」
「食べていたんですね?魔力を多く含んだ果実以外を」
「そのとおりだ」
「何を食べてたんですか?」
「ガロードンだよ。あのイノシシの魔獣」
「……」
そう言われ、リスタは少し考えた後、自分が見てきた異常なチューラやフロートシープのことを話し、ヴェンはそれらの異常な魔獣を見たことあるかどうかを聞いた。
「いや、見たことないな。聞いたこともない」
「ですよね……」
そうして2人して黙り込む。いくつか考察が脳裏をよぎるが、どれも確証がなさすぎる。正直ここで考えても何にもならない。そうリスタが思っていると、ヴェンが話し出す。
「とりあえず、ガロードンを食べてたってことを覚えておいてくれ。死体を食ってたならまだマシかもしれねぇけど、自分たちで襲って殺して食べたってなると話が一気に変わってくる」
「それほどの凶暴性というわけですか……」
「ああ。……さて、話は済んだし、あんたが泊ってる場所まで送ってやるよ」
「いえ、1人で帰れますから」
「いや、吹雪がさっきより強くなってるから送ってやるよ」
そう言ってヴェンは壁に立てかけてあった大きな戦斧を持ち、外に出る。
「ついてきてくれ。飛ばされそうになったら俺をつかんでいいぞ。この戦斧は重りでもあるからな」
「それじゃあ飛ばされそうになったら頼みますね」
そう言ってリスタはヴェンに着いていく。道中は何事もなく、リスタは止まっている宿屋に無事に帰ることができたのだった。
そうしてリスタが部屋の扉を開けると、むすっとしているルティラが待っていた。
「私に黙って冒険してたみたいですわね」
そう言ったルティラの表情と声色から怒っていることは明白だった。
「……何のことですか?」
「ごまかしても無駄ですわ。というかそれだけ雪で濡れていてごまかせると思っていますの?」
「……す、すみません」
「私に外に出るのはダメだと言っておきながら自分は出たのね?」
「返す言葉もございません……」
「もう……許してあげますから、次は誘ってくださいね?」
「ぜ、善処します」
そう言うとルティラは疑いの目を向けながらも許してくれたようで、また魔導書を読み始めたのだった。




