四話:ごめんなさい
「それで後から知ったんだけど、あの旅人は俺の”魔獣の言葉を理解して話せることができる能力”を狙ってたみたいなんだ。旅人に成りすまして俺に近づく形で、機が満ちたら俺をさらおうって作戦だな」
「なるほど。それで、その話は他の村民に話したんですか?」
リスタは話を聞いた後、ヴェンにそう質問する。
「いや、ブレイアに口止めされたよ。『真実が必ず明るみになる必要はない』ってな」
「じゃあ、私たちに話すのはよくないのではないですか?」
「確かに。でも、ブレイアは止めないし……あんたらなら大丈夫なんじゃないか?」
かなりテキトーな感じだが、ヴェンに危害を加えようとした人間たちを、自分の評価が悪くなろうとも止めたブレイアが何も口出ししてこないと言うのなら、そう言うことなのだろうとひとまず2人は納得する。
「まぁとりあえずそんなところだ。この荷台がここにあるのも、ブレイアが商人を襲ったのも、1年前にブレイアが今の村の入り口のほうにある場所で暴れて魔力汚染を引き起こしたのも今理由を全部言った。なんか質問あるか?」
「特にないですね」
「ないですわ」
「そっか、じゃあ村に戻っといてくれ。そろそろ騎士団の人が来るからな。ブレイアも隠れといてくれ。あ、そう言えば言い忘れてたんだけど、騎士団の人にここに来たっていうことは見つからないようにしてくれ」
そう言われ、2人は騎士団に見つからないようにさっさと村へと帰る。そうしてちょうど村に着いた頃、騎士団があの商人たちを拘束しているところだった。奴隷商だという身分も明かされ、村人たちも不安がりながらも捕まったことに安心しているようだった。
そんな時、とある村民が2人に声をかけてくる。その村民は、ルティラが商人たちの傷を治したときに近くにいた村民だった。
「旅人さんたち、聞いてくれよ。あんたが治してくれたあの商人。実は奴隷商だったみたいなんだ。ただ、ヴェンっていうあんたたちくらいの年の子供がいるんだけどよ、その子が騎士団に通報してくれたらしくてすぐに捕まえてくれたんだ。いや~、あの子が気づいてくれなかったら、この村の子ももしかしたら連れ去られてしまっていたかもしれないと思うとゾッとするよ……」
そんな風に村人が2人に話しかけていると、奴隷商の人間が声を荒げる。
「ドラゴンを見たのは本当なんだ!!襲われたのも!戯言なんかじゃない!」
「うるさい、話はあとで聞く」
そう言って奴隷商は連れていかれる。それを見ていたリスタとルティラ、そして2人に話しかけていた村人たちはその様子を見届ける。そして、村人がこんなことを話してくる。
「ドラゴン……ちょうど1年前に村の入り口辺りで暴れてたのもドラゴンだった。その時も、今回のように外から来た人たちを急に襲って、その襲われた人がこの村に逃げ込んできたんだ。治療は……その人たちが自分で魔法を使ってたな。それから、急にドラゴンがこの村に来たんだ。それからはあっという間だった。旅人たちを全員殺して、それからすぐ去って行ってな……」
「な、なぜ?」
「いや、わからん。ヴェンならわかると思うのだが……」
「なぜヴェンさんならわかるのですか?」
「あぁ、そういえば言ってなかったな。ヴェンは魔獣と話すことができるんだ」
「魔獣と?」
リスタもルティラもすでに知っていることだが、一応知らない体を装っておく。
「あぁ、畑に魔獣が出た時にはヴェンが仲を取り持ってくれてな。あの子が話して、畑を荒らさないようにしてくれたんだ。だから、魔獣と話せるヴェンならあのドラゴンと何か話していても不思議ではないんだが……残念ながらヴェンもあのドラゴンのことはあまり教えてくれないんだ。何かあったのか、それとも話してないから知らないのか……ヴェンにしかわからない。おっと、引き留めすぎたか?」
「いえ、そんなことはないですよ」
「そうか、まぁとりあえず奴隷商は捕まったんだ。安心してこの村に泊ってくれ」
そう言って村人はどこかへと去って行く。それを見てリストルティラも一度宿へと帰っていった。
* * *
宿に帰ると、暇そうにしているメアがいた。メアは2人を見るなり、甘い声を出してすり寄ってくる。「早く構え」と言われているようだ。これを拒むとメアの爪が飛んでくることは想像に難くないだろう。
「メア、ごめんなさいね?遊んであげるから。何がしたい?」
リスタはそう言ってメアのご機嫌を取るためにメアと遊びだす。その間、ルティラはリスタをじっと見ていた。
「……」
忘れていたのだ。大事なことを。
「どうしたのですか?」
ルティラの視線に気が付いたリスタは、ルティラに視線を向ける。その瞬間、リスタはメアに頬を思いっきり叩かれた。
「いたっ!ごめんなさい、構いますから」
そうしてリスタはまたメアに構い始める。
「……」
そうして、ルティラはリスタの元へ歩いていき、そして、リスタの後ろから抱き着いた。
「えっ!?な、なん……」
「ごめんなさい」
「え?」
大事な言葉を忘れていた。本当に大切な言葉を。これは、すぐ言うべきだったというのに……
「私がドラゴンの鱗を取りに行こうと言ったせいで、リスタは痛い思いをしました」
「あぁ、いや、別に気にしてません。確かに痛かったですけど、私はまだ自由ですから」
「結果的に生きていたとしても……その過程で生じた痛みがなかったわけではないでしょう?生きているからいい、なんて言わないで。できれば、悪いことなど起こってほしくないのですわ」
そう言ってルティラはリスタの背中で泣き出してしまった。それにリスタが戸惑っていると、メアがリスタとルティラのことを交互にチラチラと見ていた。
「あ、あ~……その、本当に大丈夫ですから。自分のことを責めないでください。私も次から気を付けますので」
「うぅ……”次”じゃありません。本当は”最初から”気を付ける、べきなんです……リスタが結果的に、うぅ…大丈夫、だったとしても、普通はあれで死んでしまうはずですから」
「うっ……た、確かに……」
そんなやり取りを見ていたメアは呆れたような顔を見せ、リスタの肩に乗り、ルティラの頭をポンポンと軽く撫で始める。するとルティラはさらに涙を流し始めた。その姿にリスタはあたふたしていると、メアに猫パンチをお見舞いされる。
「いたっ!」
「ニャ!」
そうしてメアはリスタのほうを見ながらルティラの頭をポンポンと撫でる。まるで、「お前も撫でろ」と言っているかのように。それに促され、リスタはルティラの頭を軽く撫でる。するとルティラの涙の勢いは止まらず、むしろ多くなっていく。それに戸惑い、リスタは手を離すが、再びメアのパンチがリスタの頬に飛んでくる。
「あぶっ!」
その一撃を受け、リスタは再びルティラの頭を撫で続ける。そうしてルティラが泣き疲れて眠るまでルティラの頭を撫で続けていた。




