四話:奇妙な魔物と奇妙な魔力
次の日、リスタはロマとメアをいったん宿に置いて外に出る。ロマを置いて行く理由は、ロマをうっかり外に出してしまわないか心配だから。メアを置いて行く理由は、そんなロマに何かあったときに守れるように、だ。ロマ1匹でもなんとかなりだろうが、身軽さはメアのほうが上なので、逃げるにはメアがいたほうがいいだろう。
そうして2匹を置いてリスタが向かう場所は冒険者ギルドだ。ここでは依頼を受けることができるほか、仲間を募集することもできる。今回ほしいのは光属性の回復魔法を扱うことのできる仲間だ。ただ、回復手段を持っている人材を欲しがる者は多いだろう。命は何物にも代えられないモノなのだから。
「光属性の回復魔法を使える方は………やはりいないですか……」
あまり期待はしていなかったが、それでも実際にこの目で見るとさらにがっかりする。
(しばらくはフェレンダリオスの白槍の回復で我慢するしかないですね……)
そう考え、リスタは冒険者ギルドを出る。フェレンダリオスの白槍はどれくらいまで怪我を直してくれるのかはわからないが、魔力の使用率と回復力だけを見れば回復魔法よりも有用ではある。記憶を失ってから1度、回復魔法を使っている場面に出くわしたことがあるが、その時の回復速度よりもフェレンダリオスの白槍の回復速度のほうが速かった。魔法の使い手にもよると思うが、ジェーン曰く、フェレンダリオスの白槍の回復速度は魔法の回復魔法よりも早いらしい。
ただ、回復するときに伴う痛みのせいで、体は治っても、精神的に疲れてしまう。戦いおいて身体的にもそうだが、精神的にも披露するのはまずい。だから普段リスタは戦いの最中にこの回復手段を用いないのだが、このやり方をしていていつ命を落とすかわからない。だから回復魔法を使える仲間を探しているのだ。
(……私は旅をしていますし、回復してくれて、さらに旅についてきてくれる方を探していますから、回復魔法だけ使えてもしょうがないですよね……)
そう思いながらリスタが町をうろうろと歩いていると、町の人たちのとある話し声が聞こえてきた。
「東の方のブドウ畑で変なチューラが出たって知ってる?」
「変なチューラ?なんだそれ?」
「チューラって幻覚魔法で分身を作るでしょ?あれってせいぜい1、2匹くらいなんだけど、その変なチューラっていうのが……」
「言うのが?」
「めちゃくちゃ分身を作って逃げたって!」
「めちゃくちゃ分身を作ったって……何匹くらいなんだよ」
「う~ん。僕が聞いたのは100匹くらいって聞いたけど、実際は知らない」
その内容にリスタは覚えがあった。レピファとともに駆除したチューラ。その任務の途中に2人が出会ったチューラも大量の分身を作って逃げた。その時と同じだ。そうリスタが思っていた時にはもう、足がその住人の元へと向かっていた。
「すみません。その話、詳しく聞かせてもらっていいですか?」
リスタがそう話しかけると、住人の2人は驚く。そんな2人に少し事情を説明したあと、リスタも2人から話を聞いた。
* * *
そうしてリスタは1度宿屋に戻り、ロマとメアを連れて、奇妙なチューラが目撃されたブドウ畑へとやってきていた。ブドウ畑自体に入ることはできないのでリスタは外から見るだけになるが、動物ならば大丈夫だろう。と、いうことで、リスタはメアをブドウ畑に侵入させる。ロマは人間に見つからないようにリスタのカバンの中で待機だ。
「メア、お願いします」
そう言ってリスタはメアをブドウ畑の中に放つ。そうして10分ほど待っていると、メアがチューラを1匹咥えて戻ってきた。見た目は普通のチューラだが、明らかに普通のチューラよりも小さい。一瞬子供かとも思ったが、チューラは体が小さいからと言って子供というわけではない。なぜかというと、ある一定の濃度の魔力がその場に一定時間とどまることによって生まれる、”魔力生殖”と呼ばれる方法で生まれるからであり、その方法で生まれた生物は生涯見た目や大きさが変わることはない。だから見た目だけでは子供とは判断できないのだ。
「メア、そのチューラ渡してください」
リスタがそう言って手を差し出すと、メアはその上にチューラを置く。今は気絶しているようなので、目覚める前に直前に買っておいた小さめのかごに入れておく。
(チューラ……それから、前に見たフロートシープもおかしい個体がいましたね……いったいどうなってるんでしょうか……)
リスタはあまり魔獣の生態に詳しいわけではないので、もしかしたらこういう個体もいるかもしれないと思いながら、そのチューラが目を覚ますまで一旦ブドウ畑の近くでメアを撫でながら座っていると、そばに置いているかごがガシャンと揺れた。
「あっ!よ、よし、危なかった……」
そうしてかごを持ち上げると、その中でチューラが元気に暴れまわっていた。そうして少しリスタが観察していると、そのチューラが魔法を使った。
「わっ!」
チューラの使った魔法はもちろん幻覚魔法だ。しかし。いや、やはりというべきだろうか。住人が話していた通り、そのチューラが幻覚魔法で生み出した自分の分身は2匹や3匹ではなく、3桁はいくであろう大量の分身。それらがかごの外にぼとぼとと落ちていく。もし大きめのかごにいれていたなら、この分身がかごの中でパンパンになっていただろう。下手をすればその大量の分身によってかごが壊されていたかもしれない。
「あとは冒険者ギルドか……それか騎士団にでも持っていきましょうか……」
少し迷った末、リスタは冒険者ギルドへと持っていく。理由はお金がもらえる可能性があるからだ。今の手持ちはまだ少し余裕があるとはいえ、物価が高い地域に行くこともあるかもしれない。そのことを考慮して今のうちに少しでも稼いでおくべきだ。
そうしてリスタはチューラの入れたかごを持ち、冒険者ギルドへと向かう。チューラは先ほど分身を出して魔力を消費してしまったのか、連れていく途中に分身を大量に出すことはしなかった。そうして無事にリスタは冒険者ギルドへとそのチューラを持って行ったのだが、リスタが冒険者ギルドの受付に説明をしている最中にチューラが再び大量の分身を作り出したときはそこにいた誰もが驚いていた。
そんな1日を過ごしたリスタは夕方にまた昨日寄った酒場に再び足を運ぶ。店主はリスタを見るなり、「昨日忠告したのにまたこの時間に来るのか」とは言ったが、注文は律義にとってくれる。一応今回はワインではなく、ぶどうジュースを頼むことにした。
「あいよ、鶏肉のクリームパスタだ」
「ありがとうございます」
そうしてリスタの前に料理が置かれる。鶏肉という言葉に反応したのか、カバンの中が少し動いたが、今は無視だ。宿屋に帰った後のために2匹用のご飯はもう用意しているのだから。
「なぁ、旅の話聞かせてくれよ」
そうしてリスタが料理を食べ始めると、店主が話しかけてくる。
「いいですけど……お店は大丈夫ですか?」
「あぁ、女房と息子に任せとけばいい。どうせ俺がいなくても回るからな。それにこの時間はまだ暇だ」
「なら少しだけ……」
そうしてリスタは旅であったことを少しだけ話す。まだまだ旅は初めたてだが、それでも店主は面白そうに話を聞いていた。
「まぁ、こんな感じですね。次は王都に行くつもりです」
「なるほどな……強くなるために旅に……立派じゃねぇか」
「そ、そうですかね?」
「あぁ、うちのバカ息子なんかテキトーに生きてるんだ。志があるお前さんはよっぽど立派だよ。はっはっは!」
「ちょっと!お客さんと話してないで早く厨房手伝って!」
「おっとすまねぇ、女房に呼ばれちまった。じゃあ、またな」
そう言って店主は厨房のほうに姿を消す。それを見届け、リスタはこらえきれずに笑ってしまった。
「ふ、ふふっ…」
そうして日は暮れていく。宿屋に帰り、2匹にご飯を食べさせ、入浴し、寝床につく。次の日は、一体どうなるだろうか。リスタはそう考えながら眠りについた。
* * *
夜。ロマは目を覚ました。理由はリスタの窓の鍵の閉め忘れだ。部屋が2階にあり、閉め忘れた窓が小さいとはいえ、あまりにも不用心。そう思ったロマはリスタの腕の中から抜け出し、窓の鍵を閉めようとした。そんな時、ロマはとあることを思い出した。
『そろそろ冬眠の時期なのに、ご飯を全く食べてないワ』
そう。普段リスタがご飯をくれるせいであまり気にしていなかったが、冬眠のための準備をしていなかったのである。
『毎日ご飯をくれると言っても…寒い時期に起こされるのはネェ?』
最近気温も下がりだし、寝ることが多くなったロマ。正直、寝ているときに起こされるのはめんどくさい。できれば春までエネルギーを蓄えておくのがいいだろうと判断したロマは、そのまま空いている窓から飛び降りた。夜だが、今日はまだそこまで寒くはない。絶好のご飯探し日和だと考え、ロマはまず町のほうへと向かう。昼に活動する種族のほとんどが寝静まる時間。その時間にロマはいくらか食べ物をあさる。
『アタシ、この国じゃ神様って呼ばれてるみたいだシ?ちょっとくらいいいわよネ?』
そうしていくらか食べ物を見つけ、食べていくロマ。そんなときだった。
『?』
奇妙な魔力をロマは一瞬感じた。と思ったのもつかの間、ロマの足元に大きな穴が現れ、そのままロマはそこに落ちていったのであった。




