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自由って素晴らしい!  作者: ミカンかぜ
第三章【私のために貴女に願う編】
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三話:ツェルン

 リスタは訪れる村や町でお金を稼ぎながらフロンツ王国の王都を目指していた。その途中で、一番初めに訪れた村で聞いた話に出ていた、ツェルンという町に寄ることとなる。


「ここはブドウが有名だと言っていましたが……」


 町に入ると、そこら辺の店でブドウをよく見かける。生で売っている物もあれば、果実酒として売っている物もある。時期としてはちょうど旬らしく、よく見かけるのも納得だ。リスタも干しブドウを買い、それを食べながら町を回る。

 侯爵が治めていることが関係しているのかはわからないが、フロンツ王国に来て見てきた町よりも活気があるように感じる。


「あ、風車…あそこでワインを作っているんでしょうね」


 少し遠くの方には風車小屋が見え、その近くにはブドウ畑が見える。もう収穫は終わっているようなので果実が実ってはいないようだった。


「……しばらくはこの町で過ごしましょうか」


 そんなことをつぶやき、リスタは宿屋のほうに向かっている。その途中のことであった。


「誰か捕まえて~!」


 そんな声がリスタの後ろから聞こえてきた。振り向けばひったくり犯らしき人物がこちらの方へ走ってきている。


「メア」


 そんな状況だが、リスタは冷静にカバンを開け、メアの名前を呼ぶ。それだけでメアに言いたいことは伝わり、すぐにメアはそのひったくり犯らしき人物の顔をひっかいた。それにひるんだその人物を、周りの人物が取り押さえる。その光景を少し見守った後、すぐにリスタはその場を離れた。


* * *


 それから宿をとり、なんとなく町をぶらついていればあっという間に夜となった。


「う~ん!おいしい!」


 リスタは今、酒場のカウンターで料理を食べていた。資金貯蓄のためにここに来るまでに何日か干し肉やそこら辺の野草で飢えをしのいでいたせいで、味付けされた肉料理の()()ですら極上の料理と錯覚するほどになっていた。


「あ、店主さんすみません、ワインもいいですか?」


「ワインだな。すぐ入れてきてやるぜ」


 リスタは店主にワインを追加注文し、目の前のステーキを再び食べ始める。この国や、少し前までいたシルディア帝国では15歳から果実酒を飲んでいいことになっている。リスタは今、自分が何歳かわかっていないが、見た目的に15歳はもう過ぎているはずだと判断し、注文している。


「あいよ」


「ありがとうございます」


 そうしてリスタがワインに口をつけると、店主が話しかけてきた。


「嬢ちゃん、あんた見ない顔だな。旅人か?」


「そうです」


「やっぱりな。それにしても、この町は初めてか?」


「そうですけど……」


「あ~……そうだな、いいことを一つ教えといてやろう。あんま飲みすぎんじゃねぇぞ。夜には酔っ払いどもがうようよいやがるからな。絡まれたくなけりゃ、それ食ってさっさと帰ったほうがいいぜ。特に嬢ちゃんはべっぴんさんなんだ。気をつけな」


「あ、ありがとうございます」


「おう。それで…何日か泊るのか?」


「まぁ、一応そのつもりですね。旅人でもありますが、冒険者ですので、少しこの町でお金を稼いでから王都に向かおうかと思っています」


「冒険者か!立派なもんだな!まぁ、泊る数日間ツェルンを楽しんでくれ!もちろん、俺の店で飲み食いしてくれてもいいぞ。旅人は大歓迎だ!面白い話が聞けるからな。また昼に来たら旅の話聞かせてくれよ」


「わかりました。じゃあ、また明日にでも来ますね」


「おう」


 そうしていると、店主は他の客の注文を取りにそっちの方へ行ってしまった。それを少し横目で見ながら、またリスタは目の前の料理をほおばる。


(やっぱりおいしい……)


 味気ない食事を行っていたせいで味覚が敏感になっていることもあるだろうが、そもそもこの店の料理はおいしい物なのだとリスタは思う。これは何日通っても飽きない味だろう。しかも平民にとってお手頃価格で、財布にも優しいという一石二鳥のお店だ。今、このお店がにぎわっている理由がわかる。

 さらに店の人の人柄もいいということもあるだろう。このお店は店主と、その奥さんと、その息子で回しているようだが、全員の仕事ぶりがとても丁寧だ。客に対する気遣いが確認できる。


(それに、さっき店主さんと話した感じも優しい人でしたし、奥さんも息子さんも優しいのでしょうね)


 そんなことを思っていると、いつの間にか料理もワインもなくなっていた。


「店主さんもああ言ってましたし……すみません!お会計お願いします!」


 そうしてリスタは会計を済ませ、外に出る。カバンを開けると、ロマは少しうとうとし始めていた。


「昨日見張りをしてもらっていましたしね……もう眠ってくれていいですよ。メアは……少し散歩に付き合ってください」


 リスタがそう言うとメアはカバンの中から飛び出し、リスタの肩に乗ってくる。


「それじゃあ少し歩きますか」


 そうしてリスタは歩く。明日はのんびりしようと思っているので、少し宿に向かうのが遅くてもいいだろうか。そう思っていたのだが……


「お姉さんかわいいねぇ~、俺と遊んでくかい?」


「お姉さん、きれ~。どうやったらそんなきれ~になるの~?わたしに教えて~!」


 歩くたびに男でも女でも関係なく町中の酔っ払いに絡まれる。店主が言っていたのはこういう事だったのだと身に染みて理解する。散歩をしばらくしようと思っていたが、10分ほど歩いてどっと疲れが溜まるのですぐに宿に帰ることにしたリスタだった。


 宿に帰るとロマを毛布にくるんでやり、リスタは宿屋についている浴室へと入る。……メアも一緒に。


「ニ゛ャ―!」


「こら!大人しくしてください!」


 家で飼う猫と違って、メアは野宿することが多いのでノミなどの虫がよくつく。なので今のうちに落としておきたいのだが、猫という生き物な以上、メアは水を嫌う。そのせいで体を洗うというのが非常に困難なのだ。ジェーンの家で暮らしているときはテューネに代わりに洗ってもらっていたのだが、テューネがいない今、メアはリスタの腕をひっかいたり体をねじってリスタの手の中から逃げ出そうとするのだ。竜人のテューネならばメアの力では逃げ出せないし、腕をひっかこうとしても強靭な鱗で皮膚が守られているので無理やり洗えるのだが……。それでも何とか洗い終え、メアの体を先に拭いてやってからリスタはゆっくりと自分の体を洗う。ひっかれたときにできた傷が少し痛むが、それもフェレンダリオスの白槍で治療する。


(小さい傷にいちいち使っていてはキリがなさそうですけどね……)


 小さいけがを負うたびに激痛に苦しむのはいかがなものかと、リスタは思う。正直、この回復方法は致命傷を負ったときだけにしたいものだ。


(そのためには……治療できる仲間が欲しいかもしれませんね……それか、メアが大人しくお風呂に入ってくれるようになればいいのですが……)


 そうしてリスタがお風呂から出た後は、ロマとメアを抱きしめてからベットに体を預ける。


「おやすみなさい」


 リスタがそう言って目を閉じると、そのまますぐに眠りにいざなわれるのであった。


* * *


「……」


 窓際に、寝間着のまま手を胸元で合わせて祈る少女がいた。少女がなぜ祈るのか。それは少女だけが知りえること。まだ少女しか知りえないこと。彼女はいつも自らの意思を殺し生きてきた。それが彼女のすべきことであり、そのすべては家族のためだ。


 少女はフロンツ王国の第一王子の婚約者である。王族の婚約者ともなれば、これ以上ない親孝行であり、これ以上ない幸せだろう。少女もいつもそう思っている。ただ、何と言えばいいのだろうか……いつもそのことに関して違和感がある。親孝行者であり、最も幸せな者だと思っているが、何かが引っ掛かる。その引っ掛かりを、少女はいまだ理解することができないのであった。

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