21 玉座におわす神
短めなので次話もすぐに更新します!
「愚か者が」
玉座の肘掛けで頬杖をつくようにしていた王は、不機嫌さを隠さない声で吐き捨てた。 その前で頭を垂れながら、いつものことだと思う。
『ヤフェエール王』は父ではなく、神の代行者だ。そう教えられて育った。そして、いつか自身もその役割を担うのだと。
「そも、貴重な"聖女の願い"を女一人のために使ったことが間違いだったのだ」
「ルナ……ルニエラはリュヌモント家のひとり娘です。現当主はもちろんのこと、先代が孫を溺愛しているのは誰もが知ること。あの家との繋がりこそが王家盤石のために必要だとおっしゃったのは王ではありませんか」
ルニエラ──ルナが正式に婚約者となったのは九年前、彼女が十歳の時のことだ。それを決めたのは、他ならぬヤフェエール王だった。
「反王政派牽制の要だからな。とはいえ、手を尽くして助からなかったのならばそれは致し方ないことだったで済む話ではないか」
「聖剣使いと聖女が次代の王と皇后になる筋書きは、お気に召しませんでしたか」
ルナは容姿といい、家柄といい、次代の皇后として申し分がない。生来病弱で世継ぎを産めるかという不安はあったが、聖女の願いにより健康を取り戻した今、それも恐らくは問題ないだろう。
この神の国において、聖剣使いが王として立ち、傍らに聖女が在る。これこそが在るべき姿に他ならない。
「筋書きか……ふむ、それでその聖女は瘴気を祓えるのだろうな?」
答えのわかりきったことを尋ねた王は「いくつかの国から、瘴気が出現したとの報があった」と告げた。
「そんな馬鹿な……魔王さえ封印すれば瘴気はすべて消失するが常。失礼ですがその情報に誤りがあるのでは?」
「我が誤った話に踊らされていると申すのか?」
「申し訳……ございません」
ギリと歯を噛みしめて、謝罪を口にする。
「瘴気を祓うからこそ、他国は我が国に惜しみなく支援をするのだ。今一度それを心得よ」
「はい」
「事の次第に心当たりは?」
「……あの聖女が未熟だったからでしょう。討伐の旅でも、怖いと泣き濡れていくつか瘴気に侵された村を見過ごしておりました」
「なぜ引き摺ってでもその場で瘴気を祓わせなんだ」
危険を冒してまでやる意味がないと判断したからだ。諸悪の根源さえ断てばなくなるものを、ひとつひとつ片付けてまわっていればいつまで経っても魔王にはたどり着かない。
だが、報告だけを聞き、結果だけを目にする王にはそのようなことはわからないのだろう。
言うだけ無駄だと口を噤めば、大業に溜め息を吐いた王は「聖女を連れ戻せ」と低く告げた。
「聞けば隣国で生きているというではないか。いっそ死んでいれば次を召喚する手も打てたが、生きているなら神は応えぬ」
「次、ですか……しかしそれでは七月を待たねばなりません。しかも召喚してすぐには使うことはできません」
ミアも聖女の力を発現するまでに三ヶ月は要した。
新たな聖女を召喚すれば、再びその願いを利用する機会は得られる。しかし王のこの様子を見れば、そこまでの時間をかけるのは難しいに違いない。
「でしたら、仰せの通りに聖女を連れ戻し、再び瘴気を祓わせましょう」
「できるのか?」
「試してみる価値はあるかと」
「試して使えねばいかがする」
「そのときは……少々手間と時間がかかりますが、新たな聖女にお出ましいただきます」
「よかろう。ではこのこと、其方に一任する。ただし、神たる我が国の威信をゆめゆめ傷付けるでないぞ」
畏まりました、と再び頭を垂れれば王は満足げに頷いた。




