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桜舞う五相会議

王宮の庭の桜を見ていたリュカは、ふとさきほどのリゼ殿下の言葉を思い出す。

「リュカ様は、宰相就任のお披露目のパーティは、なさらないのかしら。」

顎に手を当て、考え込む。

と、ふとマリーさんと目線が合う。「リュカ君、リゼ様がさっきおっしゃった話、考え直してもいいんじゃない?」とマリーがリュカに告げる。

「さっきのパーティーの話?」

「そうよ。国王主催のパーティーとなると、遠方の貴族たちも出席を無下に断ることはできないでしょうから。」

「つまり、国内の貴族たちが一堂に会する場を作り出すというわけですか。」とのリルの問いかけに、マリーが頷く。


「なるほど。各地の貴族に対し領地の支配権の保証をする安堵状は、これまで四国を通して与えられてきました。それを、皇帝の直接認可に変える。」とのヘレナの発言にも、マリーは首肯する。

「このような方法では、いかがでしょうか。」とマリーが僕に尋ねてくる。


なるほど。もちろん、これまで帝国が与えた領地や許認可権といった各種権益を、一度精査する意味合いもある。けれどそれよりもまずは、4ヶ国が個別に与えていた許認可も、帝国が一括して認める。そうすれば、4国の力を落とせるかもしれない。


「でも、それでは四国の首脳陣が反発しないかな?」

「もちろん反発はするでしょうね。」とマリー。

「だけど、認可を皇帝に一本化すれば、諸侯は喜びます。」とヘレナ。


「じゃあ、それでいこう。ただ、このことを陛下に奏上する必要があるね。明日、閣僚名簿を提出する時に陛下と面談するから、早速この件も一緒に奏上するよ。」と、リュカは快諾して早速行動に移した。


***************************


陛下に拝謁できたのは、次の日のお昼のこと。桜の花が盛りの中、陛下は庭でお茶会を開いていた。謁見の冒頭では、恐る恐る就任披露パーティーを再度開催の方向で検討することを打診した。就任披露パーティーを辞退していたので、準備を再開してくださいと言上した時は心苦しかったが、陛下はもとより僕からの辞退の話をなかったことにして、開催する方向で進めていたらしい。強引だが、ありがたい。僕が奏上した書類ひとつひとつに目を通す陛下は、途中途中で質問を挟んでくる。僕はその質問に答えながら、腹案である帝国内の諸侯・諸都市などに対する権益の一斉認可について説明する。


「しかし、4か国が素直にこのことを受け入れるとは思えんのお。失敗すれば帝国は割れるぞ。」すべての書類に目を通し、一通り説明が終わると、陛下は一番核心の質問をぶつけてくる。

「そのことに関しましては、新たな統治方式 を考えてございます。まだ腹案なので、おみせできませんが、4国の王家にもご納得いただけるかと思います。」

ふぅっと息を吐いて、女帝テレサは「わかった。」と短く告げた。


***************************


3日後、4国の代表を招いて、領地宛行に関するブリーフィングを行う。就任披露パーティーの場で、領地宛行をスムーズに行うために、4国に対して事前の根回しを行うのが目的である。

扉を開けた中央奥に皇帝臨席のための玉座が設けられ、その脇にリュカが座る宰相席が玉座よりも一回り小さい大きさで設置されている。リル、マリー、ヘレナは宰相・リュカのアドバイザーやサポーターとして、リュカの後ろに控えの席を設けられている。

 陛下の玉座から数メートル離れた位置に、4ヶ国出身の大臣が横一列に並ぶ。陛下から向かって右側から、東・西・南・北の各国が座るように並ぶのが慣例である。


宰相席にいるリュカは緊張した面持ちで、陛下に目配せをする。陛下が頷くのを確認すると、開会宣言に入る。

「これより、217年ぶりとなります、五相会議を開催いたします。」


五相会議は、本来はカトゥル帝国の前身の1つにあたるユニマル 公国の伝統的な会議である。


東国代表のパンチ陸相、南国代表のコーラル海相、西国代表のダンドロ商相、北国代表のチンキム外相といった、四国の閣僚たちが席についていた。


開会宣言後、東国と南国から不満が噴出した。ともに、帝国の軍事を担う国だ。

「主従関係を四カ国ではなく、帝国の直属とすると、軍事動員が容易ではなくなりますが…」とパンチ陸相。

「たとえば、船舶の操舵にあたって、一々国家の許可を得なければならないのは、効率が悪い。」とコーラル海相。

「陸軍も同様です。これまで、軍事行動は機密性が高いため、カトゥルに秘密で行うことができました。主従関係を四か国の管轄から、中央の直轄にすると、『兵は神速を貴ぶ』『君命ところありて受けざる』に反します。戦時は一刻を争う判断が求められますから。」

「さよう。デメリットを押し付けるからには、それなりの対価が欲しい。」とコーラル海相。


「わかりました。地方行政権、徴税権、軍の運用、インフラの管理、地方裁判権などの、地方自治権を改めて再確認させましょう。」


また、4ヶ国の諸侯に対しこの国で2番目の地位に当たる公爵のポストを保証し、首都に住むことを条件に毎年ごとに年金を与えるという条件を提示したのだ。これは4ヶ国の諸侯にとってはプラス以外何物でもないため、会議で話がすんなりとまとまった。ちなみに、帝国の貴族の序列は、上から尊爵、公爵、侯爵、辺境伯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵の8つからなっている。



***************************


日没には会議が終わり、リュカは首相のために国が用意する執務室に戻った。リル、マリー、ヘレナも一緒だ。


執務室の机に座り、リュカは肩の力が抜けた。「あとは、お披露目会で安堵状を配るだけだ~」コトンと、音がする。「はい、リュカ君。お疲れ様。」と温かいお茶を出してくれたのはヘレナだ。「ありがとう。ヘレナさん。」リュカは、一口すする。「これは、何をブレンドしたの?」「ふふん、余っていた紅茶に、シナモンとオレンジとミントと、あとジンジャーを入れてみたの!お味は、どうかしら?」「うん…おいしい…けど、生姜がすべてを持って行ってるね…」どうやら、配合を間違えたらしい。おいしい生姜湯の出来上がりだ。


さて、次は就任披露宴だ。それを乗り切るには…とリュカは思案を巡らせる。

「リュカ君!」とマリーの声がする。読んでいた本から目線を上げて、マリーの方に振り向く。「マリー、どうしたの?」。という。すると、「あーんっ」という声がして、口に何か入ってくる。結構大きかったので、行儀悪いが齧ってしまった。

僕はモグモグと口を動かしながら、「ほへははひ?(これはなに?)」と尋ねた。

「マリーお手製の人参ケーキ!ほら、リルって、人参が苦手でしょう?克服できるようにって、本で読んだレシピで作ってみたの!でも、リルが全然食べないの!リュカ君、美味しいって言ってあげてよ!」マリーは誇らしげに語る。

 なるほど、口の中には人参の甘みが砂糖で際立っていて、生クリームが程よい感じにまとめ上げている。「とてもおいしいよ。ありがとう。」と僕が言うと、お墨付きをとったとばかりに、マリーが誇らしげな様子だ。

「ほら!リル、リュカ様がおいしいって言ってるんだから、安心して食べなさいよ!」

「人参はいや~!」「た・べ・て~!」と執務室の中を二人は、ウサギのように駆け回る。

こんな日常が、続けばいいのにーー。その願いは叶わなかった。

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