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最強コーチは戦わない ~人工魔法競技~  作者: たなお
2章 タッグバトル編
97/102

97話 5分休憩

「う、動けない…」


 HPが0になった愛那は『ホールド』状態のせいで手足が動かせず、身体をクネらせる。


「見てないで拘束解除しなさいよ!」

「あっはっは!滑稽だな、いつも偉そうなお前がまるで芋虫だ!」


「相変わらず性格わるいわねッ!」


 噛みつかんと言わんばかりの勢いで、愛那はシンを怒鳴る。

 いつも通り元気でやかましい愛那を見て、シンは「やれやれ」と首を横に振って、頭を掻いた。


「まったく…暴れるなよ」

「ちょ、ちょっと…!」


 シンは両手を愛那の下に潜り込ませると、そのまま抱きかかえた。

 いわゆるお姫様だっこである。


 突然、抱きかかえられて愛那の顔はゆであがった。


 キャ――――――ッ!!!

 

 観客の女子生徒達の黄色い声援があがる。

 恋愛に飢えた学生達には、刺激が強い光景だったらしい。 

 

「タッグバトルが終わるまで『ホールド』は解けねーんだよ。しばらく大人しくしてろ」

「そ、それは…そうだけどさ…恥ずかしい…」


 愛那は頬を赤らめて、もじもじとするが――そんな2人のやりとりをすぐそばで見せられていたカレンは、不機嫌になっていた。


「…あのさ…目の前でイチャつかないでくれる…?

「俺は未成年のガキなんか興味ねーよ」


「…あっそ。あたし、水飲んでくるから…また後で」


 カレンはため息を吐くと、《バスターソード》を霧散させる。

 この場をあとにしようと踵を返すと、ハヤトは「待ってくれよ~」と後ろをついていった。


 2人が離れたのを確認すると、シンは祐乃に声をかける。


「祐乃。少し休め」

「う、うん…」


 シンは愛那をお姫様だっこで抱きかかえると、グラウンドの端のパイプ椅子まで移動する。

 祐乃は少し心細そうに、シンの背中をとぼとぼとついてきた。


 背中の祐乃に、シンは優しく声をかけた。


「…祐乃。魔法は楽しいか?」

「…わかんない」


「…そうか」

「ごめんなさい…」


 背中でしょんぼりと落ち込む祐乃――

 シンはその姿を見て、どこか懐かしい感情を覚えた。


―――楽しさがわからない。

 その感情はシンが、ついこの前まで感じていたものだからだ。


「何も謝ることねーよ。俺だってそうだったしな」


―――マジックギアが起こした事故。

 その事故が原因で、シンは想い人に大怪我をさせた。

 

 未だに目を覚まさない…

 その苦しみは、今でもシンの心を縛りつける。

 

 自分が嫌いになり…マジッカ―が嫌いになり…魔法が嫌いになった。


 けれど、愛那や祐乃に出会い――『俺を越えてもらう』ヤツを育てるという目標を見つけた。 


「愛那、祐乃…お前らには感謝してるんだぜ。おかげで今は魔法が楽しいからな」

「コーチ…突然変なこと言わないでください…」


 抱きかかえている愛那の頬がさらに赤く染まる。

――しかし、祐乃の表情は曇ったままだった。


「…ごめんなさい。ボク…弱くって…」


 先ほどの試合を気に病んでいるようだった。

 あまり活躍できなかったうえ、愛那のHPを0にした責任を感じているようだ。


「ふ…弱いとかどうでもいいんだよ」

「で、でも…」


 俯き、自信を喪失している。

 そんな彼女にどんな言葉をかけていいか、シンにはわからない。

 

 けれどシンは自分ができること、自分の役割はわかっている。


「――俺が強くしてやるよ」

「え…」


 祐乃は少しだけ顔をあげる。

 自信の喪失とともに閉じていた半開きの瞳が少しだけ開く。


「俺はコーチだぜ。今弱くったって、俺が強くしてやるよ――俺を越えるくらい強くな」


 シンはふっと笑うと腕の中にいる愛那に優しく微笑んだ。


「こいつはな――俺に啖呵切ったんだ。俺を越えるってな」


 シンの脳裏に浮かぶ過去の記憶。

 圧倒的な実力差で叩きのめし、心をへし折った。


 その結果、愛那は自身の過ちに気付き――その代償に右腕は大火傷を負った。

 未だに腕に包帯を巻き、火傷跡は残っている。


 この事件はシンの過去のトラウマを抉ることになった。

 

 けれど――この出来事がキッカケで愛那は成長した。


「ええ…絶対超えてやるわ…あなたは…あたしが知ってる誰よりも強いもの」


 愛那の眼に宿る闘志――シンはこれに賭けた。

――俺を越えて欲しい。


 俺を越える人材を育てたい。

 それが今のシンの目標だ。 


「おまえはまあまあ強くなったけど、まだまだだな!《アイアン・マイン》にあっさり引っ掛かるなんてなっ!あっはっはっは!」

「く、くぅぅぅぅ…!そうだけど…!そうだけど…!」


 下品に笑うシンの腕の中で、愛那は悔しそうに顔をゆがめる。

 そんな愛那を見て――シンはふっと笑った。 


「…なあ、愛那」

「なによ?」


「さっきの試合――楽しかったか?」

「ええ、楽しかったわ。あんな強い人と戦えて楽しくないわけないでしょ!」


 澱みない回答。

 満点だった。


――俺は弟子に恵まれているな。


「そうか…それなら良かった」


 だからこそ――この満点の回答を祐乃にも…して欲しい。


「なあ、祐乃?おまえが強くなりたい理由はなんだ?」

「ボクが強くなりたい理由…」


「多分、今のおまえは――”恥を掻きたくない”から強くなりたいだけじゃないか?」

「――――ッ!」


 図星を突かれたのか、祐乃の身体がビクッと揺れる。

 目を見開き、つーっと冷や汗が頬を伝う。


「ごめん…なさい…」


 何度目の謝罪だろうか。

 祐乃の自信の喪失は重度なものだった。


 過去のトラウマが、祐乃を縛りつけているのは知っている。

 これまでどんな行為も否定され、どんな努力も無駄と否定され続けたのだ。


――シンは思う。


 苦しみから解放されて欲しい。

 科学で作られた魔法――そんな夢のあるもので苦しんでほしくない。 


「俺は勝敗に、とやかく言うつもりはない。この試合だってそうだ。例え負けても、『頑張ったな』と言ってお前たちを労ってやる。俺は可愛い弟子にあまいからな」


「負けても…いいの…?勝たなくて…いいの…?」


 祐乃の疑問への回答は決まっている。

 肯定だ。


「当たり前だろ? 俺はお前たちに魔法を楽しんで欲しいんだぜ。勝つことは大事だけど――何より楽しめよ」


「・・・・・」


「この試合が終わったら、姉貴から焼き肉奢ってもらえるんだよ。一緒にいこーぜ! もちろん全額姉貴の奢りだ、にひひ」


 シンは口角をあげて、子どものように笑う。

 そして、祐乃の肩に軽く肘をあてた。


「だから祐乃――この試合でおまえの”答え”を見つけてみな」


「ボクの"答え"…」

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