79話
放課後。
洛咲中学校のグラウンドから少し離れた中庭にマジッカ―部のメンバーは集合していた。
「来週、明丘学院と試合がある。というわけで――祐乃!」
「は、はい!」
「練習するぞ。お前が立派に戦えるように鍛えてやる!」
そう言うとシンは、胸元で拳を手で包み、にやりと笑う。
しかし、祐乃の表情は少し曇っていた。
――次の試合の重要性を理解しているなら、当然の表情である。
「もし負けちゃったら…コーチ…いなくなっちゃうかも、しれないんだよね…?」
「まあな。もしかしたら、だけどな」
次の試合は広告として使われる。
無様な結果に終われば、教育委員会に『部活指導員は不要』と判断されかねない。
そうなれば、シンは終わりだ。
「コーチ、ちょっといいですか?」
愛那は会話に割り込み、申し訳なさそうな顔をしながら片手を上げた。
「どうした?」
「先日カレンと戦いました。そのうえで言わせてください」
一呼吸。
愛那は真剣なまなざしで口を開く。
「――かなり強いです。前回のマジッカ―フロンティア県代表戦で見かけなかったのが、不思議なレベルです」
「安心しろ。お前の方が強い」
「そ、そうですか…えへへ…」
サラッと褒められ、愛那は照れ臭そうに笑う。
愛那は強い。
しかし、愛那の実力だけでは拭えない懸念点が存在していた。
「ただ今回はタッグバトルだ。2対2である以上、祐乃の力が必須になる」
愛那が1人で戦うわけではない。
もし2人がかりで攻撃されると、分が悪い。
「愛那ちゃんの足を引っ張らないように頑張るね…」
祐乃は俯き、唇をかみしめる。
自分の弱さは、自分が一番理解しているからだ。
祐乃は素人以前だった。
練習を避け続けたせいで、経験が0なのだ。
「そんな不安そうな顔すんなって!俺がついてんだぜ!ちょっと前、クソザコだった愛那を短時間で鍛え上げた俺を信用しろって」
「コーチ!言い方、酷くないですかっ!?」
ぷんぷん怒る愛那を他所に、シンは腕を組むと話を続ける。
「ただな、足を引っ張りたくないから練習って動機は止めようぜ。ネガティブ過ぎる」
シンは確信していた。
そんなツラそうな表情で練習しても、身につかない。
――それに祐乃にこれ以上、ツラい顔はしてほしくなかった。
シンは後ろでわーわー怒っている愛那にチラリと視線を動かした。
『あなたに勝てるくらい、強くなってみせるわッ! 必ず、あなたを越えてみせるッ!』
これは以前、愛那に言われた言葉だ。
右腕に大怪我を負い、圧倒的な実力差で叩きのめされたというのに、愛那は立ち上がりシンに啖呵を切ったのだ。
あの日の出来事が間違いなく愛那を変えた。
「祐乃。お前の明確な目標を教えてくれないか?」
愛那は目標を持ったから実力を身に着けた。
だから祐乃も目標を持つことができれば――
祐乃は再び俯く。
数秒悩むが、答えはでなかった。
「ごめんなさい…わかんない…」
「そうか…うーん。それなら、どうすっかな~」
シンは腕を組んで空を見上げる。
愛那と違い、祐乃はマジッカ―が好きなわけではないのだ。
友達の愛那と一緒にいるための場所でしかない。
祐乃が何も目標を持っていないのは当然だった。
(大きな目標じゃなくていい。少し、何か少しでいいんだ!)
シンは頭を掻きながら、悩んでいると祐乃のマジックギアに疑問を持った。
マジックギアは決して安くない。
特に中学生が変えるような物ではない。
「なあ祐乃。そのマジックギアは親に買ってもらったのか?」
「うん、そうだよ。どうしても欲しかったから、お願いしたの」
先日、親に苦手意識を持っているはずだった。
祐乃は逃げ癖がある。
そんな祐乃が逃げずに親に『お願い』した。
シンは、そこに答えがある気がした。
「なんで爆属性のマジックギアを使ってんだ?」
「そ、それは…派手で楽しいから…かな?」
――派手で楽しい。
シンがマジッカ―を始めた理由とまったく同じである。
むしろ親近感が沸くほどだ。
「――それでいい」
「…え?」
「中学生なんて、そのくらいの目標でいいんだよ。もっと派手で楽しい魔法を極めていこうぜ!」
学生時代を思い出す。
派手だから色々な魔法を試し、強そうだから様々な魔法を試した。
シンも聖華も目をキラキラさせて、化学で作られた魔法の楽しんだ。
(その楽しみを祐乃にも知ってもらうか)
シンの課題は決まった。
祐乃にマジッカ―の楽しさを知ってもらう。
「よし!すごい技を練習するか!」
「すごい技?」
祐乃は首を傾げると、シンはにやりと笑う。
「合体技『シャドウ・エクスプロージョン』だ」




