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最強コーチは戦わない ~人工魔法競技~  作者: たなお
2章 タッグバトル編
78/102

78話 

「ヤングケアラー?なんじゃそりゃ」

「教員という立場上、あまりそういう言葉が使いたくないのだがな…夏目は状態は、まさしくヤングケアラーなのだ」


 瑠偉の言葉の意味がわからず、シンはスマホを取り出し『ヤングケアラー』で検索をかける。


「出てきた。なになに…?えーと」


 ヤングケアラー―――家庭内で家族の介護や身の回りの世話を行い、『自分がやらないと家庭が回らない』という責任感と思い負担を持った子どものこと。


 シンは末っ子であり、姉と二人暮らしだ。 

 親の介護も家族の世話なんて一切経験がない。

 

 祐乃の苦労はわかってあげることはできない。

 シンは頭を掻くと、冷えた唐揚げを頬張った。

 

「んぐんぐ…ガキなのに、ガキの面倒見るってことかよ。んなこと大人がやるべきだろ。あぶねーよ」

「夏目は母子家庭の長女だ。10才年下の妹がいる」

「ほう?」


 瑠偉が重い口を開き、祐乃の事情を話し始める。

 シンは弁当を食べながら、真剣な表情に切り替わった。

 1文字でも聞き逃さない――そんな気迫がシンの顔には宿っていた。


「先月、家庭訪問をしたのだが、母親が少し()()()()でな…『この子は何もできない』『成績がわるい』『勉強しない』と責め立てるんだ…」

「うわっ…きっつ」


 おもわずシンはドン引きの言葉を口にする。

 ネットやテレビでは見るが、今まで関係を持ったことがないタイプの人間だからだ。 

 シンの箸が止まるが、瑠偉は話を続ける。


「夏目はまだ子どもなのに家事を任され過ぎだ。妹の面倒も見ている。母親が働いているから、家事も夏目がやっているようだ」


 ――どれも初耳の情報だった。

 瑠偉が言った『ヤングケアラー』という言葉。

 シンは、その意味を本当の意味で理解し始めた。

 

「あんな明るく振舞ってんのに、俺の知らないところで苦労してたんだな…」

「夏目は疲弊している。そのうえ、母親の言葉が強く自分に自信も失くしている。成績がわるいのは当然なんだ。あんな疲弊している子が、まともに勉学に励めるわけがない」


「鬱とかそういうヤツなのか?」

「さあな? 私は医者ではないから勝手な言えない。ただ夏目は一般的な14才と比べて、精神的に疲弊しているのは、誰の目から見ても明らかだ」


 そういうと瑠偉はペットボトルのふたを開け、水を飲む。

 ふーっと、ため息を吐くと、頭を抑えた。

 

「社会福祉などを扱う機関に相談し、夏目の家庭環境の改善の手助けをする手回しをしている最中だったが…シンの話を聞いて夏目の精神状態が深刻であると再認識したよ…手遅れなのかもしれないな…」


 ――無力感。

 自分には何もできない、そんな表情が瑠偉の顔に浮かび上がる。

 

 意外な表情でシンは驚いた。

 シンにとって、姉は常に頼もしい存在だったからだ。

 今ですら姉のおかげで生活できている。


 学生時代、何度姉に頭をさげて無理を言ったか…

 両親が死んだ時、瑠偉自身も辛いはずなのに、心神喪失状態のシンを支えてくれた。

 

 そんな常に頼もしかった姉が、もう少しで泣きそうな顔をしている。

 たった1人の生徒に、そこまで本気で向き合う瑠偉の情熱にシンは誇らしく感じた。


 けれど――そんな顔はして欲しくなかった。


「祐乃の担任になって、まだ2か月だろ? むしろ、たった2か月でよくそこまでやってんだな。俺の中学の担任は、そこまで1人1人の生徒に時間は割いてなかったと思うぜ」

「…元ニートの弟にフォローされるとは情けないものだな」


「その言い方酷くねえか!? もう少しさ~あるだろ?『優しい言葉をかけてくれてありがとう!お小遣いあげよう!』くらいさ!」

「ないな」

「ひでー姉貴だぜ」


 いつもの容赦ない否定。

 むしろ安心した。姉はこうであって欲しかったからだ。


「祐乃は俺も協力するぜ。アイツの家庭のことは、わかんねーけどさ」


 シンがやりたいことは決まっている。

 ――目標がブレることはない。

 コーチとして、やることを全力でやるだけだ。


「祐乃が前を向いて歩けるようにしてやるよ」

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