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勇者、監査官を取り戻しに来る

第9話です。王都側の不正と魔王領再建がつながり始めます。

勇者アレスが城門前に立っていた。


 鎧は光り、聖剣はよく研がれている。研磨費が高いのも納得……したくない。


「ルカ! 無事だったか!」


 彼は親友のような顔で手を広げた。


 僕は門の上から、冷静に言う。


「無事です。追放されましたが」


「誤解だ。あれは……現場判断だった」


 現場判断で、監査官を銅貨数枚で放り出す。英雄の判断は軽い。


 リゼリアが隣で低く唸る。


「勇者が、我が城へ何の用だ」


 アレスは笑顔を崩さない。


「魔王よ。停戦交渉だ。……その前に、ルカを返してほしい」


 来た。


 僕は心の中でそう呟いた。王都で不正請求が弾け、責任の所在が必要になった。なら、次に必要なのは“帳簿が読める口”だ。


「雇用条件を提示してください」


 僕が言うと、勇者は目を瞬いた。


「……雇用条件?」


「僕は魔王城に雇われています。引き抜くなら、契約が要ります」


 アレスの笑顔が少しだけ固まる。


「金なら払う」


「では、まず未払い請求書を清算してください。勇者遠征費の研磨費、補給費、宿代。すべてです」


 僕は王都の手紙を見せた。


 アレスの喉が鳴った。


「それは、違う。俺は……」


「“違う”なら、帳簿を出せますよね」


 黒狼部隊が、門の内側で静かに列を作る。


 リゼリアが笑った。


「勇者よ。契約を持って来い。さもなくば、帰れ」


 勇者は、初めて一歩引いた。


 英雄は剣では勝てる。

 だが契約では、勝てない。

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