監査官補佐は、勇者の領収書で黙り込む
グレンは優秀な監査官だった。
優秀すぎるから、黙り込んだ。
勇者パーティの領収書を見た瞬間、彼のペンが止まったのだ。
「研磨費、三倍。輸送費、二重計上。補給費、魔王領通過分まで王国側へ請求」
僕は一枚ずつ並べる。
「勇者本人が不正をしたとは限りません。ですが、武具ギルドが勇者の名前で請求を膨らませている」
リゼリアが腕を組む。
「つまり、勇者は看板か」
「高い看板です」
その時、門番が走ってきた。
「勇者一行が来ました!」
会議室の空気が固まる。
グレンが立ち上がった。
「呼んでいない」
「呼ばれる前に来るから勇者なんでしょう」
僕は帳簿を閉じなかった。
勇者レギスは、泥だらけで部屋に入ってきた。以前のような眩しい鎧ではない。傷だらけの外套、疲れた目。
「ルカ」
「勇者様。監査中です」
「分かっている。だから来た」
彼は鞄から領収書の束を出した。
「武具ギルドから、追加請求が来た。魔王城再建に協力するなら、勇者認定を取り消すと脅された」
グレンの目が鋭くなる。
僕は息を吐いた。
戦争で得をする者は、停戦を嫌う。
そして停戦を望む者を、裏切り者と呼ぶ。
「では、勇者様」
僕は新しい紙を差し出した。
「証言として記録します。剣ではなく、領収書で戦ってください」
勇者は苦い顔で笑った。
「お前に追放されたみたいな気分だ」
「先に追放したのはそちらです」
リゼリアが小さく吹き出した。
監査官補佐グレンは、ようやくペンを動かした。
その音は、剣を抜く音より静かで、ずっと重かった。
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