魔王城の帳簿は、王印を怖がらない
王国監査院の使者を、魔王城の会議室へ案内した。
会議室と言っても、元は武器庫だ。壁にはまだ槍の跡があり、椅子は数が足りない。
それでも、机の上には帳簿が揃っている。
収入、支出、未払金、差し押さえ予定、停戦後の交易見込み。
監査官補佐グレンは、紙束を見て眉をひそめた。
「魔王城が、帳簿を開示するとは」
「隠すと赤字が増えます」
僕が答えると、リゼリアが隣で大きく頷いた。
「我が城は、隠すほど金がない」
黒狼部隊がしんみりした顔になる。
グレンは咳払いし、王印つきの命令書を置いた。
「本監査の目的は、魔王城財務の確認、およびルカ元監査官補佐の身柄確認だ」
「身柄確認なら、ここにいます。財務長官として」
「王国民が魔王城の財務を扱うことは、前例がない」
「魔王城が複式帳簿を採用したことも、たぶん前例がありません」
グレンのペンが止まった。
僕は第一帳簿を開く。
「監査は歓迎します。ただし、全部見てください。魔王城の赤字だけでなく、王国側の武具ギルド支出も」
「なぜ王国側が関係する」
「戦争は片方だけでは赤字になりません」
机の上に、研磨費の差額表を置いた。
グレンの顔色が変わる。
「これは、王都の監査院にも出ていない資料だ」
「だから、ここで見つけたことにしましょう」
魔王城の窓から、夕日が差した。
王印は怖くない。
怖いのは、王印が押されたまま見逃された赤字だ。
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