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転身物語(ある田舎における)  作者: 入江晶
2. あるホテルの一室
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2-5, バラし

 私はもう一度、今度は少し顔を近づけて、もっとじっくりと見てみた。不気味な写真だという感想しか持てなかった。アプリで加工し過ぎだったので。その反省は今のメイクに生かしている(この人の前にいるとき以外での)。裸だというのも、もうこの相手とはそんなことを恥ずかしがったり嫌悪したりするような関係ではなかったから、まるで何も感じなかった。


 ――いつまで持ってるんですか、こんな写真。


 だから、思わず漏れたこの言葉は、私にとって、その写真についての、本当に正直な感想だった。


 ――消す約束なんてしたかな? 君の名前も、学校の名前も、ちゃんと読めるんだから、大学進学を控えた君にとっては、相当都合の悪いものじゃないのか?


 聞きながら、一回目に会った後にすぐ消すって話をしたような、履歴にも残ってるんじゃないのかなあ、などと私は考えていた。そしてやたらと芝居がかった調子でその人は言い終えて、ついでに、高校と女の子の名前を告げた。私はついに、そこで軽く吹き出す。

 言葉での反応はなかった。それでも、その人が顔を引きつらせ、当てが外れたことに呆然としているのが、はっきりと分かった。

 私はこみ上げる笑いと、退屈に代わって高揚しつつある気持ちを感じながら、脇に置いていた鞄の中を探った。目当ての物を探し当てると、それを取り出し、他の物に紛れて静かに佇んでいる、黒い柄、折りたたまれた刃をくわえ込んだその姿を確認した。最終兵器ってわけ。

 自分が今から、危険な場面に相対することになるのだと分かっていた。あるいはもうすでに、そういう状況に入り込んでいるのだと。そんな意識をするまでもなく、鼓動が早まっていたし、胸の下、みぞおちのあたりが冷たくなっていた。しかし私が感じていたのは、不安のようなものではなく、何というか、果たし合いにでも臨むような気分だった。実際目の前にいる人は、相手にとって不足は……まあ、あるけど。

 私はぐずぐずと、踏ん切りがつかなかったというよりはあえてもったいぶって、鞄から取り出したものをその人の目の前に差し出した。ゆっくりとその人が顔を近づけて、間にあったベッドに倒れ込みそうにまでなったとき、私はそれを手前に引き戻した。

 それは学生証だった。あの写真に写り込んでいたもの、そのものだ。表面に指を這わせると、すぐ目の前で、驚愕しているというかほとんど恐怖しているようなその人の表情を引き起こした原因を、はっきりと感じ取ることができる。


 ――カメラ通すと、自然に見えますよねえ。


 こんなふうに気持ちよく言葉を発したのは初めてだった。まるで犯罪を暴く探偵にでもなった気分。私の立場としては、むしろ逆なのだけど。だから、種明かしをする手品師とでも言うべきか。

 もうその人が取り落としてしまった携帯電話に表示されていた写真では、今実際に私の手の中にある学生証とは違って、写真や、名前を印刷したテープみたいなテプラとかいうらしいが重ねて貼り付けられているようには見えなかった。それが分かっていたから、私はあんな写真を送ったというわけ。

 相変わらず目を見開き、口も半開きで、顔を引きつらせたその人の返答も待たず、私は続けた。


 ――あ、これはある人にもらったんです。だから本物ですよ、学校の名前とかは。私の本当のはこっちですけど。制服も、上は似てるんですよねえ。


 私はもう一枚のカードを手に持っていた。あまり手を伸ばしてその人に近づけたりはせず、そして名前を隠すように指を置きながら。いくら調子に乗っていても、そうやって警戒できるくらいの冷静さは残っていた。

 手の中にあるそのカードは、特に使ったことがない。身分証として扱ってくれる店を見たことがないし。そこにいるのは三年前の私で、化粧も覚えていないからひどい写真になっている。しかしそれでも、あの裸の写真よりは、今の私に似ている気がした。とにかくそれが今、ようやく役に立っている。私が誰かを証明するものが、あの写真、この愕然としているおっさんの携帯電話の画面に表示されている写真が私のものであることを反証してくれるというのは、なかなか面白い構図だった。ついでに、ここまでうまくハマるというのも、あまりにも面白過ぎる。仕掛け自体の雑さのおかげで、なおさら。

 とはいえ、向こうが飛びかかって来たりするのを警戒し続けてはいたのだけど、幸いそんなことにはならなかった。ホラー映画にでも使えそうなあの表情のまま、固まっていただけだった。私は役目を終えた二枚のカードを鞄の中に戻し、改めて、最終兵器の位置を確かめ、その黒い柄を取り出しやすい場所に置き換えた。しかし、もう出番は無いのだろうと、ほとんど確信してもいた。

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