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転身物語(ある田舎における)  作者: 入江晶
3. あるカラオケボックスの一室
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3-5. その町を見下ろす

 言い終えると、彼女は黙って、ストローに口をつけた。そうやって閉じられているときの方が、つやつやした唇は魅力的に見えた。この一年の間にどうやってそれが使われてきたのかは、考えないようにしておく。


 ――このニュース見た?

 ――さあ……見てないと思いますけど。


 私の差し出した携帯電話に表示させていたニュースを、律儀に、画面に指を滑らせて一渡り目を通してから、彼女は答えた。我ながら、退屈なものを見せてしまったとは思う。地方新聞の有料のネット記事という、誰が読んでいるんだろうと思うような代物。なぜ私が読めるかと言うと、家でその新聞を取っていて、その契約に付いているからだ。私の意思、あるいは両親の意思でもないけれど。長年それにこだわった祖父母は二年ほど前に二人とも死んだ。おかげで私は解放されて、天下晴れてこの町を離れられる。今ではそんな出来事も、ただ懐かしいだけだった。

 それはともかく、私が見せたのはこんな記事だった。


「<桜まつりに花曇り? 大口協賛企業撤退か 個人協賛に活路>

 4月1日、伊手須市で毎年恒例の『伊手須桜まつり』が開幕する。県内外から多数の来場者が見込まれるが、先行きには暗雲が漂っている。長年に渡り大口協賛を続けてきた企業が、来年以降の撤退を検討していることが分かった。これに対して桜まつりを主催する実行委は、個人からの協賛を拡大していく方針を示している。

 桜まつりの来場者数は近年の落ち込みから回復傾向にあるが、財政面ではひっ迫している。地元に密着した行事として発展してきた歴史から、小規模な企業による協賛が多くを占めていたが、倒産や経営環境の悪化による撤退が急増しているという。その結果、大口の協賛企業の存在感が増しているが、少数の協賛先への依存には懸念もある。このため、実行委では桜まつりの持続可能性を模索しており、個人協賛の拡大もその一環だ。

 実行委の関係者は、『一社から、来年の協賛を取りやめたいという話がすでに来ている。昔からの協賛企業だし、地元の優良企業と思っていたから、まさに青天の霹靂だ。金額が大きく、代わりを見つけるのは容易ではない。催しの規模や内容の変更が必要になるかもしれない。これからも地元の人や観光客に愛される祭りとして継続するため、クラウドファンディング(CF)やふるさと納税などの手法も活用した、個人の協賛を増やしていくことも検討していく』と語った。」


 釈然としないという感じの彼女の表情(予想通り)を見ながら、私は言った。


 ――この会社ねえ、うちがかなり融資してるところの子会社なんだよ。ああ、融資してた、かな。もう金額が大きすぎて、増やせないくらいになっちゃってるから。表向きはね。この会社も、親会社の方も、調子が悪いみたいで、だからこういう協賛もやめようとしてるんだよねぇ。かなりお金を出してたところだから、お祭りを運営してる側にとっては大ごとってわけ。

 ――ふうん……じゃあ、どうなるんですか?

 ――そろそろヤバくなるよ。この辺じゃ大きい会社で、うち以外からも融資を受けてるからさ。こうやって経営が悪くなってきたって分かったら、いろいろと見る目が厳しくなるからね。変なところからお金が入ってるってことも、そのうちバレるんじゃない? そうなったら、いろんなところに話が飛び火しちゃって、お祭りもどうなるか分かんないよね。


 聞き終えた彼女は、きょとんとして目をぱちくりとさせた。私が、ニヤニヤしながら他人事のようにこんな話をしたのが、意外だったのだろうか? 別にその表情が原因だったわけではないけれど、私は思わずため息をついてから、もう一度、彼女のぱっちりとした目を見て、言った。たぶん言うべきではなかったことを。特に、大人の私から、子供の彼女に対しては。なぜならそこには、諦めという、彼女が、おそらくもっとも嫌っているものが含まれていたからだ。

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