【第三章 - 16】転移魔術師
ーー次に目を開けた時、周りに広がっていた光景はナディアを絶望の底へと突き落とした。
狭い牢屋に入れられたその子達は皆、痩せ細っていて、服もボロボロ。その上に、目に光が宿っていなかったのだから。
* * *
一方で、れいり達の方はーー。1日開けたれいり達は既に、デゼルダ孤児院へ戻るための準備を始めていた。
アステールの予言によれば「六日間で僕の妹は死ぬ。そのタイムリミットまでにデゼルダ孤児院に戻らなければいけない」とのこと。
今回は、エリーナもついてくるとのことで……。
「大丈夫なの?」
普段かなりの多忙であるエリーナがついてくることなど、れいりにとっては不安で仕方が無かった。
「あぁ、留守はカーロに任せている。幸いにも今週は多忙ではなくてな」
それから、エリーナはメイドが用意した荷物を受け取る。
「それでは、もう出発するとするか。それにしても、童。アステールも付いてくるんだよな」
エリーナの質問に、れいりは首を縦に振る。
あんな寝不足なのにも関わらず、本人は「僕が行かなきゃダメなんです」と言っているのだ。
すると、後ろの扉がカチという音を立てて開いた。
そこに居たのは、甘猫とアステールの二人。
甘猫は微笑みながられいりを見るも、アステールの方は今にも死にそうな無惨な姿だった。
「大丈夫?死にそうだよ?」
驚きのあまり尋ねるれいりに、アステールは笑顔で答えた。
「へ、平気です……ちょっと、寝不足なだけなので」
「何時間寝たの?」
「3時間……」
「昨日のあの睡眠時間で?」
初めて会った日、何故少女があんなにも早く寝たのか……あれは、ただ単にかっこでもつけてたのだろうか。
「本当に話にならん」
「だ、大丈夫です。馬車の中で寝るので」
半分寝ているアステールを見て、エリーナは呆れたように言った。
「本当に何を言ってるんだか」
それは、今日は馬車に乗らないから。そもそも、ルミナスタウンからデゼルダまで通常一ヶ月はかかるのだ。
でも、少し高いお金を払えば、この間のように一瞬で移動することも不可能では無い。
この二つの選択肢、馬車で行きナディアを見捨てるか、大金を払うか。皇族であるエリーナの答えは最初から決まっていた。いや、迷うはずなどない。
「それで、この間の怪しいお店はさておき、今回は何処に大金を注ぎ込むです?」
「それは勿論。安全安心なお店だ」
そうして連れてこられたのは、同じく宮殿の中。そこで待っていた知的そうな男性はエリーナを見て微笑んで言った。
「お待ちしておりました」
「さて、紹介でもーーあれ、童は寝ているのか?」
確かに、甘猫の横を見ると、アステールは良く眠っていた。
「まぁ良い。彼は、宮殿専属の転移魔術師の一人レグナス・レイスだ」
その紹介と共にレイスは丁寧にお辞儀をした。
「お初にお目にかかれて光栄です。『虹色の剣士』様」
それに対して、れいりは愛想良く「こちらこそ」と言った。
それを見たエリーナは何処か満足げな顔をした。
「どうかしましたか?」
甘猫がそう尋ねると、エリーナは何事もなかったかのように手を振り払って「いや」と言った。
「それで、今回はデゼルダまで行きたいと……」
転移魔術師とはその名の通り、転移に特化した魔術師であり、高い地形把握能力を保持し、専門の大学院を卒業し、それから地理転移魔術師試験に無事合格しなければならない。
まさに、王道の専門職といったところ。そのなかでも、宮殿で雇われている転移魔術師はレベルが高く給料は年金貨300枚程度といった超高収入だとか。
「大丈夫か?」
不安気に尋ねるエリーナにレイスは「えぇ」と落ち着いた声で言った。
「そこの、眠っている方には契約上の理由で、起きて貰わないとならないのですが……」
申し訳なさそうに言うレイス。それを聞いた甘猫はアステールの方を一回ポンと叩いた。
「ふぁい……?」
「アステール様。起きてください、だそうです」
「エナドリ……ほしい……」
「体に悪いですね……。そんなんじゃ、後で寝れません」
「良いの……私はもう子供じゃ無いんだから……」
というアステールであるが、全然まだ子供である。
「エナドリは差し上げられませんが……まぁ、頑張って起きてください」




