【第三章 - 15】ナディアの逃走劇
ーーその地獄は、これから起ころうとしているんだ。
『デゼルダ孤児院』
ナディアはいつも通り、友達と一緒に仲良くご飯を食べていた。
「そうそう……それで、私のお姉ちゃんが……」
笑顔で話しているナディア達の元にやってきたのは、セイシスト教会の先生であり、ナディアにとってみれば親のようなーーそんな優しい先生だった。
「何を話ているの?」
先生は微笑みかけてナディア達に尋ねた。
「あのね、お姉ちゃんが、寝不足になった時の話」
純粋な声で言うナディアに、先生は少し顔を顰めるも、続けて聞いた。
「ナディアさんは、双子なのよね」
「そうだよ!それでね、お姉ちゃん寝不足になると、ふらふらしてね、急にどこかに行っちゃうの。そしたら、街の外でどかーんってなって」
それを聞いた先生は少々苦笑いをした。
「あっはは……凄い、お姉ちゃんなんだね」
「それで、先生。どうしたの?」
普段、食事中に先生がやってくることなどそう無いので、ナディアも何か要件があることくらいは察していた。
「そうね……本当に申し訳ないけど、施設を移動しなくちゃなのよ」
「えっ!」
ナディアは驚きを隠せない様子だった。
「私、良い子にしてたよ?」
「そう、ナディアさんは良い子にしてた……でもね、セレディア候補になったでしょう?」
それに対して、ナディアは頷いた。
「だから、一旦セレディアを集めるために施設を移動しなくちゃならないのよ」
「えぇ〜」
「ごめんなさいね」
申し訳なさそうに先生は言った。
「それじゃあ、三日後にお迎えに来るからそれまでに、荷物をまとめて、友達ともしっかり喋っておきなさい」
そう言って、先生はスタスタと、早足でその場を後にした。
「ナディアちゃん、居なくなっちゃうの?」
と、恐る恐る友達は聞いてきた。この施設のムードメーカであった彼女がこの場を去ることは皆にとって悲しい事実なのだ。
「そうみたいだけど……でも、大丈夫。また戻ってくるよ!もし、オバケに襲われても大丈夫。お姉ちゃんが寝ぼけてどかーんとしてくれるから」
笑顔で言うナディアを見て、みんなどうやら安心したようだった。
ーー三日後。
大好きな施設の前には、たくさんの友達が押し寄せていた。それは皆同じ思い、ナディアを見送るためだった。
馬車の前に立っていた、ナディアと先生。そして、先生は笑顔で言った。
「ナディアさんはムードメーカーですね」
すると、悲しげに少女は聞いた。
「ねぇ、先生。やっぱり、ここに残っちゃだめ?」
そう言うナディアに先生は、肩に手を乗せて言った。
「大丈夫。これから、また友達を作れば良いじゃない」
「でも……」
少女の目からはじんわりと涙が出ていた。
「大丈夫よ」
「……先生のバカ!」
その瞬間、少女は目にも留まらぬ勢いで、出口へと走り出してしまった。
最初は、先生も追いかけたが、少女に離される一方で、どうすることも出来なくて、その場で止まった。
「なんて、運動神経なのかしら……」
そして、彼女の目の色が変わった。
自分の足に刻まれた紋様に触れて「少女をいますぐ捕まえて」とだけ言う。それから、暗闇の奥底へと消えていった。
その場から逃げ出したナディアが行き着いた先は、孤児院の真裏に位置していた。
ナディアの作戦は、このまま隠れ、夜になったらこっそり施設に戻ると言う甘い考えだった。
「ここなら……」
ナディアは木の上に登り、そこから周りを見渡した。ここからだったら、見晴らしも良く、職員も来れないだろうと思ったのだ。
でも、思ったよりも見つかったのは早かった。
すぐに数人の職員がやってきて、「降りてきなさい」と機械的に言い始めたのだ。
ナディアは恐怖を覚えた。
そして、元々は友達と離れたく無いという理由で逃げたのにも関わらず、いつの間にか怖い職員達から逃げる鬼ごっこのようなものへと発展したのだ。
ナディアは木から高くジャンプして屋根になんとか掴まった。
すると、職員達は焦って、木に登る。
でも、幸いなことに気は大人の重量に耐えられなかったのか、木の枝が折れ職員は床に尻もちをついた。
その後、何度も発砲を受けるも、ナディアはギリギリの所で回避する。
(運動神経だけには自信があるんだよね……)
ーーと思ったのも束の間。誰かによって発砲された麻酔銃がナディアに直撃した。
横に倒れた瞬間ーー見えたのは、ナディアを押さえつけた濃い紫色の髪をした謎の女性、ただ一人だけだった。




