【第三章 - 8】マジカルカードゲーム
ーーある地下室。
れいりと少女は向き合って座っていた。
「本日のお紅茶はノーベル・ハニーとなっております」
甘猫はトレーから紅茶を取り、それぞれ机の上に紅茶を置く。
すると、少女は俯いたまま吐き捨てるように呟いた。
「メイドがいるだなんて……随分とえらい方なのですね」
れいりは、自分が三大賢者であることを知らないとは……と内心驚いた。でも、別に怒ることも無い。本来対等にこうあるべきだと思っているから。
「それで、貴方のお名前は?」
「本当は知っているんですよね?」
「何でそう思うの……」
「貴方がセイシスト教会から雇われている人だからです」
「残念だけどそれは間違ってるよ」
れいりはティーカップを手に取り優雅に紅茶を口につける。それを机に置いた時ーー机が大きく揺れた。
それは少女が机を叩いたから。その光景を前にれいりは目を見開く。
「だから、何で白状しないんだ!僕は貴方によく似た人を……孤児院で見たことが……」
少女は怒り任せにそう言った。
すると、甘猫が少女を止めるように手をかざす。すると、少女は手を震わせたまま黙り込んだ。
「れいり様に手を出すのはお辞めください」
「それで、その人ってどんな人だったの?」
れいりの質問に少女は苛立ちを抑えきれなかったのか、机を横に薙ぎ倒した。
「れいり様……」
甘猫は真剣な表情でれいりを見る。
れいりはこの場に置いて優しさを見せてはいけないことを知っている。でも、だからといって厳しくするのも間違っている。
では、どうすれば良いのか。それはただ一つ。
自分が少女よりも圧倒的な存在であることを証明するまでだ。
「じゃあ分かったよ。私にマジカルカードゲームで勝ったら教えてあげる。でも、君が負けたら私がセイシスト教会と関わりがないことを認めること」
「マジカルカードゲーム……僕のこと舐めてるんです?」
「舐めてないよ、それに、そんなに自信があるんだったら、私に勝ってから言って」
ーーマジカルカードゲームとは。
ミラグロスならではのカードゲームであり、昔から親しまれているゲームの一つである。
ルールは簡単。カードに属性を左右しないカードオリジナルの魔法が書かれている。その魔法をすぐに理解し、すぐに使う。先に魔法を使った方が1ptを獲得。
これを15回行うのだ。
ちなみに、カードを引くのは審判の役目とする。
「じゃあ甘猫、審判はお願いね」
「かしこまりました」
言われるがまま、甘猫は棚に詰まったゲームコレクションからマジカルカードゲームを取ってくる。
「それでは安全に配慮する為、魔法戦競技場で行いましょう」
* * *
地下室の奥にある魔法戦競技場はコンクリートで出来ており、声がよく通る。
その中心に置かれた小さなテーブルの上には『マジカルカードゲーム』のカードといくつかの小物が並べられていた。
「ぜったい負けない」
「それはこっちのセリフです」
どうやら、少女の気合いは十分なようだ。
「両者、準備は宜しいですか?」
机の上に防御結界を貼り終えた甘猫はそう尋ねた。
「もちろん」
二人は声を揃えて言う。
「でしたら、この箱に付属していたコインがこの上に落ちたらスタートです」
そう言って甘猫はコインを片手で弾く。
それが机に落ちたと同時に、カードをめくった。
ー最初の魔法はどうやら、物と物を近づける魔法らしい。これは魔力が磁石のような働きをする性質を利用したものだろう。
物は机の上に置かれている宝石指定だと……。
と思ったのも束の間少女は「終わりました」と言った。それを見ると確かに、宝石同士はくっついている。
それに続いて、れいりも無事成功させた。
「勝者はれいり様ですね」
「は……?」
少女はそう言う。もちろん、れいりも同感である。
「貴方の魔法は不完全すぎたもので、あれはカードに記載されていた術式と同様とは呼べません」
「何ですかそれ……」
「では、説明して差し上げましょう。元の術式は14537x**21,*510だったのに比べ、貴方が今回使った術式は17534x**31,***501でした。これは星属性における重力操作魔法と合致していますね」
つまり、甘猫が言いたいのはこの少女がずるをしていたということ。一瞬で見抜くとは流石自分のメイド。
と、なんだかれいりは誇らしい気分になった。
「……っ」
その少女は悔しそうに舌打ちをした。
「では、気を取り直してーー」
それからは無事不正もなく15回戦目も終わり、ついに結果発表となった。
「それでは、少女さん6ptれいり様9ptでれいり様の勝利です」
思ったよりこの少女が手強くて一時は負けるかと思ったが、なんとか勝てた。
「まさか、僕が負けるだなんて……」
悔しそうに少女は言った。
「それじゃあ、私はセイシスト教会と関係ないということで……。さっきの部屋に戻ってお茶でも飲みながら色々話を聞かせて」
「……分かりました」
ーー地下室にて。
「じゃあ、質問させてもらおうか。でも、その前に、何かそっちから質問ある?」
「まぁ……。ここ何処なのか教えてもらっても……」
「ここはミラグロス帝国が持っている地下シェルターです。もしもの時の為にエリーナ様から使用許可と暗証番号を貰っていたのですよ」
少女の質問に甘猫はそう答える。
「エリーナ様って……あの、皇女ですか……では貴方は」
イーリス
「もちろん、セイシスト教会のものではなく帝国所属の者であり、私は三大賢者の『虹色の剣士』心虹 れいりだよ」
「すみません。僕「虹色の剣士」様を存じ上げていないのですが……」
「知ってた」
気まずそうにれいりは言う。
「それは大変ご無礼を……」
「それで、君の名前はなんていうの?」
「僕の名前……それは、こっちが聞きたいです」
まさかの、甘猫と同じパターンだった。
「でも、君が孤児院入ったのって最近なんだよね」
れいりの問いかけに少女は少し黙り込む。それから口を開いた。
「随分とお詳しいようで……でも、多分孤児院に入る時に名前を消されてるのだと思います」
「……それって」
「これはあくまでも僕の推測ですが、名前は大切な人と結びつける重要なコードです。孤児院に入れる際にこれは邪魔な存在となります。だから……」
何と悲惨な理由なのだろう。では、甘猫が自分の名前が分からなかったのも同じ理由なのだろうか。
「それで、そもそも僕に何の用なんです?」
「それは、貴方が今セレディア候補に選出されているからですよ」
甘猫は冷淡に言う。
「断ります」
「え、……」
れいりは驚きを隠せなかった。だって、セレディアという称号はとてつもない権力を手に入れられる上、一生お金に困らない。それに、常に宮殿に居る必要もなく、ただルミナスタウン近くに住んでれば良いだけ。
誰もが羨むセレディアという称号を断られるとは、誰も思っていなかっただろう。
すると、どこからかあくびをする音が聞こえてきた。
「ふぁ〜……私はもう寝る時間なので……」
少女は甘猫とれいりにそうとだけ伝え部屋の奥にある客室用部屋に向かう。
「この話の続きは明日でおねがいします……」
そして、眠そうに、少女はそのまま扉を閉めた。




