【第三章 - 6】いっその事
「って、例の場所がここ?」
マジカルタウンの中央に位置する高級住宅街、その一角に家はあった。
「はい、そのようですね……とにかく、入ってみましょう」
甘猫はそう言って、扉の前に近づき、詠唱をした。
『フェラルーセ』
その紡がれた詠唱は、光となり、扉の方へ繋がる。それと同時に、扉から「カチ」という音がした。
「甘猫も、随分と魔法が上手くなったようで…」
れいりは、笑顔で言う。すると、甘猫は照れながら言った。
「いえいえ、れいり様のお陰ですよ……えっへへ」
* * *
部屋の中は、そこまで荒らされた形跡もなく、ちょっと変わった点といえば、少しお金持ちなくらいであった。
それから、二人は部屋をくまなく調べる。
もちろん、プライバシーに配慮するため棚の中などは開けたりしなかった。
「特に何もありませんね……何か、見つかりましたか?れいり様」
「こっちも特に…。でも、これ」
れいりが指差したのは、この家の家族写真らしきもの。
その中にはアフダルも居た。その隣に居たのは、まさにセレディアの予言通りの少女だった。
髪が紫色で、ロングヘア。そして、前髪にひし形に似たマークが付いている。
「この子が、そのアフダル様が言っていたお姉様のことでしょうか……」
「かもね」
れいりは、ボソッと返してから、後ろを振り返った。
「甘猫、襲撃だよ……。大事件」
その表情は形無しであった。震えすぎて、動けなくなっている。
でも、その一方で甘猫は平然を保っていた。
「れいり様……何してるんですか?しばらく戦わない間に腕が鈍ってます。本当、私って過保護すぎました」
「え、それってどういうこと?」
れいりは、絶望した顔で甘猫に尋ねた。
「一人で戦ってください。ってことです」
「い、いやだよ……」
れいりが、恐怖に震えながら甘猫を見つめていると、その敵はあっという間に家に入ってきた。その胸元には皆聖シスト教会の紋章であるブローチが付いていた。
「おまえら、何者だっ!」
返事をしないれいりをみかねて、甘猫が代わりに返事をする。
「こちら、三大賢者のれいり様です。いくら、セイシスト教会とはいえ、れいり様に手をだしたらどうなるか……分かっていますよね」
甘猫の発言に、先頭に居たリーダーらしき人は手を横に振り払う。すると、背後についていた者達は武器を捨て、最敬礼をした。
「心虹・れいり様。大変ご無礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「い、いえいえ……あはっは」
引きつった苦笑いするれいりをみ見て、リーダーらしき人は尋ねる。
「今ここは空き家でございまして、セイシスト教会が管理しています。ですので、ここから出ていただけると幸いでございます」
れいりは、言われるがまま甘猫を連れて、家の外に出た。
落ち込むれいりを見て、甘猫は必死に励まそうと声をかけた。
「さっきのは冗談ですって……それに、ほらセレディアと思われる子の顔も分かったんだから成果はあったじゃないですか」
「まぁね……」
しかし、一向に機嫌が治らないれいりをみかねて、甘猫は提案をした。
「もういっその事、このまま孤児院に突撃しませんか?」
その提案にれいりは頭がポカンとする。
「………」
「だって、顔が分かったのならさっさと捕まえた方が楽じゃないですか。エリーナ様から許可も貰ってますし」
「まぁ、それはそうなんだけど」
「それから、あの子達の親を探すんです」
「それは名案だよ甘猫」
れいりからそう言われたのが嬉しかったのか、甘猫は鼻を高くして言った。
「えっへへ。まぁ、れいり様の専属メイドですから」
* * *
ーー星が綺麗に見える、そんな日の夜。
それから、れいり達が孤児院に潜入したのはすぐの事だった。あの話をしてから、れいり達はすぐにデゼルダに戻ったのだから。
「大体、そのお姉ちゃん?……いやセレディア候補と思われるお姉さんの居場所には検討が付いています。れいり様、絶対に声を上げずに黙って私に付いてきてください」
今回の作戦はあまり物騒な物では無い。何故なら、後片付けが面倒臭いし、れいりが嫌だったから。
今までみたいに、職員を滅殺するとかではなく今回はあくまでも孤児の救出だ。
もし、職員が戦闘を望むのであればその時は気絶するくらいに……とれいり達は決めていた。なのにも関わらず……。甘猫が案内していた先ではもう既に幾つかの職員が芝生の上に倒れ伏せていたのだ。
甘猫はその職員に近づき揺さぶりながら声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
でも、職員は何の返答もしない。それから、甘猫はれいりの方を振り返った。
「もしかして、寝ちゃってるのでしょうか……」
そう言ったその時ーー甘猫の頭上に星のような物が降り注ぐ。甘猫はしゃがんだまま横に跳び、それを危機一髪で避けた。
「ひぇー……危なすぎますよ!」
「……貴方も、敵?」
ボソッと、誰かが呟く。よく目を凝らしてみると奥の方に痩せ細った少女が立っていた。それだけじゃない。
とてもよく、セレディアの特徴に似ていたのだ。甘猫もそれに気がついたのかれいりと目を合わせた。
「いいえ、私は貴方達を助けにきました」
甘猫は落ち着いた声で少女に返す。
「職員達は皆そう言う……」
少女は憎しみに満ちた声で、手を振りかざした。
ーーその時。先ほどと同じ様に甘猫とれいりの頭上に星が降り注ぐ。今回は、結界を張る余裕があったので問題無かったが、結界にヒビが入るとは……。
結界無しで当たったら致命傷になりかねない威力である。
「愉快な微風は、私を救ってくれます」
突然、穏やかな声で甘猫は言った。
でも、特に何かあったわけでもなく……、少女は攻撃を続けた。
「あれ……。おかしいですね。今のは、セイシスト教会本部孤児院でしか使われてない隠語なのでしょうか」
「隠語とやらはよく分からないけど何て言ったの?」
れいりは攻撃を交わしつつ甘猫に尋ねる。
「あまり不機嫌にならないでください。私たちは貴方の味方ですと……」
「違うでしょ。ちゃんと妹ちゃんの話をしないと」
「それもそうですね」
甘猫はどこか納得したような様子でそう返す。
「では、少しお待ちを」
甘猫がそう言うと、ふわっと地面を蹴り上げ、そのまま容易に少女を取り押さえた。
「ちょ……」
抵抗しようとする少女に向かって甘猫は感情の抜け落ちた顔で言った。
「人間不信になると、痛い目を見ますよ。特に、セイシスト教会の管理下に置かれている孤児院なんかでは」




