【第三章 - 1】お父さんが殺された日
街の奥、れいりはある古びた家のドアを開ける。それと同時にガラガラと扉が音を立てた。
「いらっしゃいませ」
カウンターに居たのは老婦人一人だけ。れいりはカウンターに近づき、こう尋ねた。
「あの、今から二人で何日くらい宿泊できますか?」
老婦人は、カウンターから紙を取り出し、目を細めてそれを眺めた。
「ええーっと。三日間、少しお高い部屋なら貸し出すことができますが…」
「なら、そこでお願いします」
本来の宿泊日数は、約2週間を予定していたが、別に他の宿に泊まれば良いだけの話だ。
「あの…デゼルダ出身の方や在住の方は半額で宿泊出来るのですが…」
「では、私はデゼルダ出身なので。えーっと、身分証明書…」
甘猫は、帝国所属の証であるキーホルダーに魔力を込めた。すると、空中に文字が浮かび上がる。
〈帝国所属証明書〉
名前:甘猫(猫星 ルナ)
誕生日:寒忘の星三十一日
出身:グラツィア
属性:光♢3
魔力:632M
武器種:銃 槍 杖
それを見た老婦人は甘猫の方を見た。
「貴方、グラツィア出身なの…。あの時は、申し訳なかったね」
きっと、老婦人が言っているのはグラツィアとデゼルダが抱えたあの戦いの話だろう。
「いえいえ、市民にはなんの罪もありませんので…。そんな、謝らないでください」
「貴方は、本当に良い子なのね…」
れいりは、金貨3枚を支払い部屋の鍵を貰った。
宿の中は、外見とは裏腹にとても整備されていて、綺麗な場所だ。道中裏庭も見えた。
れいりが部屋の鍵を開けると、一旦そこに荷物を置いた。それから軽く背伸びをする。
「本当に、良い場所ですね…」
甘猫の言う通り、部屋はどちらかと言えば横長の造りになっていて、全体的に木でできている。
横長の造りになっているのは、ここから庭園が一望できるから。
リフレッシュに最適だ。
「れいり様、今日の待ち合わせは確か夜の7時でしたよね。確か、外で夜会食しながら話たいという要望があった気がします」
今の時間は昼の一時。ここから孤児院までは箒で30分くらいなのでまだ時間に余裕がある。
「じゃあ、早速温泉でも入るか」
れいりの提案に、甘猫はある疑問を抱く。
「私、温泉入ったことなくて…。どういう格好で入るんですか?」
「もちろん全裸で…」
甘猫は無理だと、顔を真っ赤にし、温泉に入ることを拒んでいた。
なので、れいりが楽しみにしていた海用に持ってきていた水着を着させた。
まさか、こんな風に役立つとは…。
「ふぅ、やっぱり女の子同士でも腑に落ちませんね。そもそも、なんでれいり様は平然と入っているのですか」
「そもそも、温泉にいるの私たちだけじゃん」
その時ーー温泉に入るための扉が「ガラガラ」と音を立てた。
それから逃げるように、甘猫はれいりの背後に逃げ込む。
「うぅー」
甘猫は恥ずかしそうに顔を隠した。
「ちょっと、いたずらしただけだよ。安心して?誰も来てないよ」
「そういうフェイントはヤメてくださいっ」
「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ」
安心した甘猫は先ほど自分の居た位置に戻る。
「そういえば、甘猫ってデゼルダ孤児院恨んで無いの?」
れいりは、ずっとこれが気になっていた。だって、甘猫はデゼルダ孤児院の戦いの被害者の一人だし、もしかしたらお母さんだって殺されているかもしれない。
れいりは、来なくても良いと遠回しに言っていたのだが、甘猫が「そうします」と言った素振りを見せることは一度も無かった。
「まぁ、そうですね…。れいり様やお姉様に会えたことには感謝してますし…これはこれで良いんじゃ無いかって思う時もあります。でも、少なからず恨んでいる部分はありますよ。もちろん今だって例外じゃ無い」
「別に、来なくたって良いんだよ?」
「いいえ。お気遣い感謝します。でも、私だけ助かっておいて他の子を助けないだなんて…そんなの私のプライドが許してくれません…」
真剣な表情で、甘猫は水面を見つめる。
「れいり様。私、本当は覚えてるんですよ。お父さんが殺された日の事…」
「えっ……」
甘猫は一瞬固まる。そして、頭の中が真っ白になった。
「あれは、まだ私が2歳ちょっとくらいの時でしょうか…。ですから、一部記憶が書き換わっているかもしれません」
それから甘猫は軽く息を吸った。
ある日、甘猫はお父さんと一緒に市場に来ていた。見るものはどれも新鮮で、それはとっても楽しい一日だった。
でも、その帰り道お父さんが攫われた。甘猫を一人置いて…。
幼いながら甘猫はは見捨てられたと思いその場で号泣した。
すると、近くに居た大人の人が近づいてきて、甘猫は無事保護されたのだ。
「きっと、あの場で泣かなかったら私も殺されてましたよ…。その後に聞こえてきた大声は、あの時の私には分かりませんでしたが、きっと殺されたのでしょう…。お金持ちではなかったので、動機は今でも分かりません」




