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楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第二章 ミラグロス帝国

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【第二章 - 間章5】彗星の魔術師

 ーー2日後。

 決闘裁判の日、会場には多くの人が集まっていた。カテリーナも例外ではない。

 一番前の席に座って「ルミナー」と泣きながら応援してきていて……。

 その時、向かい側から人影が見えた。


 その人が、はっきり見える様になった時、民衆がざわつき始める。

『彗星の魔術師』彼が、ルミナの親を殺した。なのに、皆に好かれているだなんて、ルミナは歯を噛み締め睨みつける。


「まぁまぁ、そんなに威嚇しなくても。ね?最後くらい、楽しく終わろう」

 その言葉さえ、どこか憎く感じた。

 決闘の合図が鳴った時、先に動いたのはもちろん『彗星の魔術師』の方だった。

 何とか、防御結界で防ぎ切れたが、このスピードだとかなりの力技で押し切る以外方法が見当たらない。


 ルミナは防御結界を張りつつ、『彗星の魔術師』に攻撃を当てようと頑張るが、あっけなく交わされてしまう。

 ついに、ルミナは押し切られて地面に倒れ込んでしまった。


 こんな所で終わってしまうのだろうか。まだ何も出来ていないのに、こんな無力なのに…。

『彗星の魔術師』は手を高く上げる。

 すると、ルミナの上に大きな魔法陣が浮かび上がり、そこから流星群と呼ばれたあの魔法がルミナに向かって降りそそごうとしてきた。


 でも、ルミナはもう魔力が少なく結界が張れないのでもう勝ち目が無い。ーーその時だった。誰かが防御結界を貼った、その前には見覚えのある人の姿。ルミナは目を見開いた。そして、あの『彗星の魔術師』に向かって魔法を打った。


『彗星の魔術師』の周りに浮かび上がった無数の剣は『彗星の魔術師』を突き刺す。

 周りにいた者は次々に叫び始める。それと同時に、ルミナを非難した。

『彗星の魔術師』の最後は、驚いた様な残念そうな、申し訳なさそうなそんな顔だった。


 ルミナの死に際をみたかったというのに、最後はあんな顔をするのか…。とても腹がたった、だって『彗星の魔術師』によってカテリーナは殺されたのだ。

 自分ではなく、カテリーナが。何故無関係な子が最後、こんな姿で死ななければならないのだろうか。


 ルミナの目からは大量の涙が溢れ、そこらじゅうはびしょ濡れになっていた。

 それから、ルミナは何度も何度もカテリーナに回復魔法を施す。『彗星の魔術師』の魔力を奪い取ってもなお。


 * * *


 結局、カテリーナは生き返らなかった。『彗星の魔術師』に勝ったルミナは、無罪となり無事釈放された。

 でも、ルミナはあの騒動で皆から怖がられている。釈放されてからの方が辛い。身を隠しながらルミナは何とか生計を切り立て、毎日教会に通った。


 人にはどうやったって、何とも出来ないことが沢山ある。

 だから、ルミナはセイシスト教会に正式に入ったのだ。それから、毎日修行をし、シスターを目指した。


 その途中で探偵を雇い『彗星の魔術師』について調査させた。

 でもーーその結果はそんなに良い物ではない。

『彗星の魔術師』の自宅から一冊の日記が見つかったのだ。


「10月4日

 彗星が見える時期になった。

 明日は、決闘裁判の日だ。もしかしたらこれが最後の日記になる可能性だってある。あの子は、まだ幼い、なるべく殺したくはないんだ。


 他の三大賢者は口を揃えて、殺しに行くと言っていたけれど、僕はあの子を何とか生かしてあげたいと思う。

 もし、その子がこの日記を読んでいるのなら、今すぐこの本を閉じて欲しい。




 大丈夫かな?

 僕はその子を追い詰めたら、流星魔法を撃つ。それで、その子の近くに防御結界を貼って見えなくなった隙を狙って、変装魔法を使ったその子に似た死体をすり替えて、死んだことにしようと思う。上手くいったら、僕の家で引き取るよ。


 それで、その子には幸せな生活をさせてあげたいんだ。」

 ルミナは罪悪感に押し寄せられた。あの人が言っていたことは全て嘘だった。ルミナはその後も何か手がかりがないかと『彗星の魔術師』の調査を依頼したが、結果はどれもルミナの親について記載されているものはなかった。


 だから感情に動かされる人間は嫌いなんだ。だから、自分が大嫌いなんだ。

 ルミナは少しでも何かしたいと思った。でも、『彗星の魔術師』の親族はもう居ない。彼もまた、ルミナと同じく孤児だった。


 だから、ルミナは彼を忘れない、そしてあの日のことを忘れない様に。『彗星の魔術師』と同じように、髪を白髪に変え、目は青色に変えた。

「彗星の魔術師様に似ておられますね」と言われるたび、ルミナの心は荒み、あの日のことを思い出す。これなら、一生地獄を味わえるだろう。


 初めて甘猫を見た時、ルミナは自分と似ていると思った。

 でも、ルミナみたいに感情が無いわけでは無い。きっとカテリーナの様な優しい誰かに救われたんだろう。


 ルミナは、少し安心した。それから七猫に近づき顔を覗き込む「あれ?驚かないんですね…ここにいつまで経っても神の元へと行かないしぶといひねくれものが居ると聞いたのですが…それってもしかして貴方のことですか?」


 それから、甘猫には色々なことを教えた。七猫には辛い思いをしてほしく無いと思ったからだ。

「良い?七猫ちゃん。信頼っていうのは積み上げていくものなの、感情が沸かなくたって、嘘でもいいから笑って誤魔化せば良いんだよ?きっと、それは本当になっていって、いつか本当に笑える日がくるから、ね?」


 甘猫は、魔導書を聞きながらあまり興味がなさそうに「うん」とだけ返事をした。

「お姉さん、かなり良いこと言ったとおもうんだけどな」

 れいりの家に忍び込ませたのはルミナだ。


 信頼を勝ち取るのに一番手っ取り早いのは泣くこと。ルミナはこうやって知識だけで生きてきた。

 だから甘猫にはそれを早く教えた。

 まだ小さい頃なら何度でもやり直せるし、救いようがある。


「ねぇ、七猫」

「どうかしましたか?」

「マカロンを焼かない?」


「いきなりどうして……」

 その質問に、ルミナは笑って答えた。

「なんか、懐かしくなっちゃって……」


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