【第二章 - 間章2】戦争
一ー週間後。
「それではこれから貴様らを戦場へと派遣する」
嗄れた教官の声が冬の朝の裏庭に響いた。
昨日の配給は鶏肉のソテーに温かいスープ。いつもより格段に豪華な食事は、これから支払われる「命の対価」の前払いに過ぎない。
戦場、ゼラレリスはここから戦場までは徒歩で2日くらいの場所に位置する。
そこまでかかる場所でも無かった。
供給されるのは石の様に硬いパンと金属臭のする缶詰。
皆は不安で夜も寝れない様子。とても鬱陶しいことにカテリーナもルミナにくっついて離れられない。
不運なことに「カテリーナとルミナは一緒に行動するように」と教官から指示がだされてしまったのだ。
「そういえば、ルミナはなんで施設に入ってきたの?」
その質問にルミナは一切返事をしない。
「自分の口からは答えないんだ…。でも、私知ってるよ?ルミナがここへ来た理由。親が殺されたのに泣かなかった『奇妙な奴』だって噂。みんなから避けられてるもの」
それは初耳だったが、驚きはしなかった。感情の欠落を「異常」と定義するのは、統計学的に見て妥当な反応だ。
「本当は、悲しかったんでしょ?人って精神の限界を迎えると、誰でも感情が欠落するっていうし」
「そうなんですね」
ルミナは短く返し、そのまま瞼を閉じた。
2日後ーー。
ルミナは巨木の枝の上にいた。
眼下に広がるのは、白濁した霧と、その隙間に潜む殺意の気配。
この場で魔法が使えるのはルミナ一人。大体中級程度、少しなら上級魔法も扱えた。
この時代にはまだ詠唱というものが無かった。
だから、完璧に魔法のイメージが出来る者でないと魔法を扱うことはそう容易いことではなかったのだ。
木の上から見る景色は、孤児院の裏庭と比べものにならないほど殺伐としていた。
鼻につくのは土と、何か焦げたような匂い。そして、微かに混じる鉄の臭気。ルミナはこの匂いが血の匂いであることを瞬時に理解した。
「…うっ、嘘でしょ。本当に、ここにいるの?」
隣の枝に掴まっているカテリーナが、引きつった声で囁いた。ここまでの二日間、あれだけうるさいほど喋り続けていた彼女の口数は、この場所に到着した途端激減していた。
彼女の手が小刻みに震え、枝葉を揺らしている。その音が敵に見つかる原因になりかねないことすら、今の彼女は気づいていないようだ。
ルミナは望遠魔法を発動し、敵の様子を伺う。
大体この森にいる魔術師は20人程度、一つ先の森には五人の魔術師がいた。
ミラグロスの基礎戦闘方法は魔法であるため、ルミナ以外の全員が魔法が使えないのはかなり厳しい状況だ。
ルミナが戦場へ出ても、周りのサポートにまで手を回せるほどの余裕は無い。
一番良い案としては『遠隔魔法×追跡魔術』を駆使し、敵を倒すことだろう。
探知魔法は魔法陣を床に置く必要がある。それ故、魔力元を特定される可能性が高いので止めておいたほうが良いだろう。
ちょうどその時だったー。何かがドスっという音を立てると同時に、誰かの小さい悲鳴が聞こえたのだ。
ルミナが望遠魔法を解除し周りを見渡すと、さっきまで居たはずのカテリーナがそこに居なかったのだ。
きっと、カテリーナは木から落ちたのだろう。
考え事をしていたルミナでも気がついた。こんな静かな森の中でカテリーナが木から落ちたら誰でも気がつく。
予想通り、先ほど森の中に隠れていた魔術師がカテリーナでも認識出来るくらいの距離までやってきた。
それに怯えカテリーナは「ひっ…!」小さな悲鳴をあげ、バランスを崩す。
「チッ」
ルミナは小さく舌打ちすると、腰に刺してあった剣を抜き、木から飛び降りた。
(距離、約十五メートル。敵の数は四人。弓一人、魔法使い二人に剣一人)
人数不利を受けていたが、どれも初級魔術師程度の魔力量。
ルミナは、遠隔魔法で一人一人に魔力の塊を打ちつけた。
すると敵はあっさり倒れ、その後来た敵も同じ戦法で倒し切る。その後、ルミナは全員の心臓を突き刺し、その場から立ち去った。
それからというものルミナの活躍もありルミナとカテリーナを含め、ルミナと同じ戦場で戦った者達は全員生還できた。




