【第一章 - 5】教皇
セイシスト教会それは、初代三大賢者セイシスト・リオンを神として崇め信仰する組織。
その組織は今や帝国全体を支配できる程の権力を持ち合わせていた。
れいりが案内されたのはセイシスト教会の教皇が居る、大聖堂の最上階。
「れいり様、こちらです」
ルミナが静かに扉を開けると、淡い光が差し込んだ。ステンドグラスを通して屈折した七色の光が、大理石の床に揺れている。
空間は異様なほど静かだった。息を飲めば、その音さえ聞こえそうなほどに。
玉座に座るのは、予想していた老いた教皇とは程遠い若き男。
長い白銀の髪をゆるく結び、薄手の聖衣をまとっており、肌は雪のように白く、整った顔立ちはまるで少女のように中性的。
細い唇が、静かに、優しく微笑んでいる。
その姿を見た途端、れいりは息を呑んだ。
そのとき、教皇が口を開く。
「…虹の魔を纏う者、ようこそセイシスト教会へ」
静かでよく通る声だった。優しいが、なぜか人を測るような冷たさを孕んでいるように感じる。
「はい。初めまして。心虹れいりです」
「知っていますよ」
そして、教皇は立ち上がることなく、まるで空気の流れすら支配するような静けさで続けた。
「あなたは三大賢者ですからね、その名はもう広く知れ渡っています」
そう笑う教祖の目にれいりは、違和感を覚え、思わず背筋を伸ばす。
ーー目が合った時だった。彼の目は確かに笑っているはずなのに、目に光がなくどこまでも底が見えない…そんな目をしていた。
それに、れいりは違和感を覚える。
そう思った時だったー玉座の下に何かが見えた。
ーー赤。
白い床石の隅、淡く乾いたような痕。
れいりが見ていると、後ろの神官の一人が、慌ててその前に立ちふさがった。
「どうか、ご安心ください」
教皇の声が、れいりの思考を遮った。微笑んだまま、教皇は手袋をはめた右手を胸に当てて、ゆっくりと言う。
「私はあなたを祝福します。れいり様、あなたはこの世界における変革者です。どうか、自らの光を恐れぬように」
「…ありがとうございます」
れいりは戸惑いながらも頭を下げた。どこか、背筋が冷たくなっていた。
背を向けて出口へ向かおうとしたその時、再び教皇の声が背後から届いた。
「れいり殿」
「…はい」
振り返ると、教皇は立ち上がっていた。
光を受けたその姿は神のように美しく、そして…どこか、儚いほどに危うかった。
「あなたは、いずれ世界を守る柱となるでしょう」
「ーーだからこそ、折れてはなりません。何があっても……」
れいりはその言葉の意味を問いかえすことはできなかった。でも、ただ静かに、胸のなかに得体の知れない寒気が芽生えるのを感じていた。
れいりは重たい扉が閉まる音を背中で聞きながら、まるで光から闇へと出たような感覚に襲われた。)
足元の感覚がふわふわと頼りなく心だけが妙に浮いている。
ロビーで待っていたルミナは、れいりの姿を見てホッとしたように笑った。
「おかえりなさいませれいり様。どうでしたか、教皇陛下は…?」
「…うん。優しやさしそうな人だった」
れいりはそう答えながらも、自分の言葉に自信がなかった。
ルミナは一瞬だけ微笑みを崩し、目を伏せる。
「それは…よかったです」
でも、その言葉の裏に、わずかに震えるルミナの右手があったことに、れいりは気づかない。
それから、ルミナは顔をを上げれいりに微笑みかけた。
「それでは、セイシスト教会の宿泊棟までご案内いたしますね。今日は長旅でお疲れでしょうから、今夜はゆっくりお休みください」
「私って、今日も泊まりなの?」
「では、どうやって帰るおつもりなのですか?」
確かに、ルミナの言う通り家までは箒で飛んでも一日はかかるし、テレポートを使おうにもそもそも魔力消費量に対してワープできる範囲ではない。
「確かに…」




