【第二章 - 25】狡猾な魔術師
翌朝ーー?。
れいりは、眩しい光に照らされ目を覚ます。
それを避ける様にうつ伏せになりもう一度寝ようとした所で、本日2回目のアラームリングがなった。
それを、魔法で止めるとれいりはうつ伏せになっていた体をなんとか起こしベットの上で正座になってから大きく息を吸う。
2回目ということは、今は大体朝の10時くらいだろう。まぁ、れいりにしてはなかなかに早く起きられたのではなかろうか……。
それにしても、今日はいつもより良い目覚めなきがする。
れいりはあくびをしてから指をヒュイっとやり空中に時計を出現させた。
「え…。」
そこに表示されたのは「3:05」
大寝坊からの大遅刻である。
つまり、れいりはアラームリングがなっていることに気づかないまま呑気に5時間も寝ていたということだ。
れいりは慌てて服に着替えて上からローブを羽織る。
それから箒と『特製死灯蜜ジャム」を塗ったパンを口に咥え、牛乳を持ってから急いで家から飛び出した。
今日は前々から決まっていた『新年三大賢者会議』の日だというのに……。
お母さんは今日、雑用に回されているため『三大賢者会議』は欠席らしい。
つまり、お母さんは朝から早く出かけ、お父さんは今日から遠方のギルドへの出張、クローマは良くわからない。お姉ちゃんも良くわからない。甘猫が居ない。
れいりは、頭の中で次から次へと言い訳を考え始める。
そんなことをしている間に、箒のスピードを限界まで上げたせいか、すぐにルミナスタウンに到着した。
中央のお城の前に降り立ったれいりは、最後の一口を食べ終えてから会議室へと廊下を急足で向かい、意を決して扉を勢い良く押し開けた。
「こここここっ、こんにちはっ!」
息を切らし、裏返った声で私に叫んだのは、他でもない一番奥の席にいた三大賢者の一人、リフレイトだった。
彼は『人間アレルギー』と聞いていたので、この会議は特に何も喋らないものになるのではないかと思っていたれいりにとってはとても予想外だ。
それから、れいりはぺこりと一礼だけして、素早く椅子に着席した。
「はじめまして、ではないですけど。改めて、リフレイトと言います。以後お見知り置きを」
リフレイトはそう言って、胸に手を当てる。
灯光の夜時とは打って変わった姿にれいりは放心状態になる。それから、いくつか瞬きを繰り返し、やっと自我を取り戻した。
「あぁ。驚かせてしまうつもりはなかったんです。ただ、僕は知っての通り人間が苦手ですので、外ではなるべく人との接触を避けるためにああいった態度を取っているのですよ。でも、三大賢者くらいは頑張ろうと思って」
意を決したその姿をみて、れいりは感銘を受ける。
「それにしても…。三大賢者会議って一体何をやるんですか?」
「そうですね。シュタンさんは雑用に回されガチなので殆ど出席しないんですよ。今までは、シュレリファさんが取り仕切っていたんです」
シュレリファとは、れいりの前の三大賢者であり、れいりはシュレリファの枠を勝ち取り三大賢者になった。
かなり恩恵の深い人物であり、実は仲が良いのだとか……。
「まぁ、あの人はリーダー性が高い方ですからね」
「お知り合いなのですか?」
「うん。三大賢者の試験の時にシュレリファさんが直々に会場に来てて、そこで少し喋ったら魔術の話で意気投合しちゃって……」
それを聞いたリフレイトはクスッと微笑んだ。
「あんなマニアックな方と意気投合するとは、きっとれいりさんも面白い方なのですね」
シュレリファの異名は『冷徹なスナイパー』
確かに、遠距離射撃を得意とするという理由もあるが……どちらかといえば魔術においてマジョリティーが到底見つけられない視点を、一発で見抜く。という理由の方が大きい。
そのため、話はとても面白くフレンドリーな人なのだが、なかなか魔術において話の会う人がいなかった。
だから、彼女は三大賢者になったのではないかとまで言われている。
「それにしても、れいり様もメイドさんが居ないんですね。もしかして、僕と同じで教養試験ダメだったんですか?」
「まぁ、はい。でも、今は個人契約でメイドを雇ってるんですよ。ですが、先日色々とあって失踪してしまったのです」
「そんなことあります?」
リフレイトは驚いた様子で言った。
「しかし、貴方のメイドさんはとても優秀だって帝国中で話題になってますよ。僕はかなり時流にうといのですが、最近どうしても買いたい新聞があって街まで出たんですよ。そしたら、甘猫という三大賢者のメイドがとんでもなく強いって」
そんな情報どこから流出したのか知らないが、雇い主としてはとても誇りに思う。ーしかし、リフレイトが言う話は思ったよりもメンタルに来るものだった。
「それが、れいりさんよりもメイドの方が魔力量が高いって噂が広まってるんですよ。僕は、信じてませんけれど。れいりさん、街中でその話題で話しかけられても気にしない方がいいですからね。これは、三大賢者が誰しも通る道なのですから」
一番恐ろしいのは、その噂が間違っていないという事実。
二番目に恐ろしいのは、三大賢者が誰しも通る道だということ。
なんだか胃がきりきりしてきて、れいりはそっとお腹を抑える。
その様子をみたリフレイトは心配した様子で「大丈夫ですか?」と聞いてきた。
それに、れいりは微笑みながら縦に首を振る。
「そういえば、れいりさんの異名が決まりつつあるみたいですよ」
異名とは、いずれ皆から呼ばれるいわゆるミドルネームのようなもので、大体三大賢者になってから1ヶ月くらいで名前の候補が上がって3ヶ月くらいで一番しっくりきた名が異名となる。
例えば、れいりのお母さんの異名は『掌握の魔女』基本的に家族とかメイドもしくは三大賢者同士以外なんかは普段この名前で呼ばれる。
「確か『虹色の剣士』とか『魔女の子』『卑怯な剣士』とか、変な噂でまともなものがないんですよね」
それはつまり、れいりはこれから100年ほど酷い名前で呼ばれることを意味する。
この名前に反論出来ないのは余計に胃が痛んでくるが「これは大問題だよ!」
「本当にそうですよね。もし良ければ僕も手を貸しますが…」
「そんな、別に大丈夫だよ」
引き下がるれいりにリフレイトは微笑みかけながら言った。
「いつも心虹家にはお世話になっていますから、何かの恩返しだとでも思えばいいのですよ」
そう言ったところで、リフレイトは少しため息を吐く。
「いや、嘘はいけませんね。エリーナ様からの伝言です『リフレイト殿。貴様はれいりに付き添いプロソポンを捉えろ』と、昨日手紙が送られてきたのです」
「別に一人でも大丈夫なのに…」
れいりはボソッと呟く。
「それからエリーナ様からの伝言にはこんなことも書かれてましたよ『れいりは知らない様だが、れいりの魔力量が圧倒的に少ないのは皆知っている。だからサポートとしてリフレイトを付けさせるのだ。何の問題もないな?』と」
れいりはそれを聞いて唖然とする。
「まぁ、予想通りの反応ですね…」
そう言いながらクスッと笑うリフレイトを見てれいりは何か違和感を覚えた。
「それって本当の話?」
「さぁ。でも、確かにエリーナ様から手紙が届いたのは確かですよ」
リフレイトは細長い指先で手紙の端を軽く叩いた。それから、滑らせるように机の上をスライドさせ、その手紙はれいりの目の前でピタリと止まった。
「リフレイト殿ーー」
れいりは、ざっくり全ての文に目を通したが、その中にれいりの魔力に関する記述はどこにもなかった。
「……異名通り、狡猾な人ですね」
吐き捨てるように言うと、リフレイトは悪びれる様子もなく机に肘をついた。
「それはどうも。……褒め言葉として受け取っておきましょう」
リフレイトの真の力ーそれはあらゆる『音』を瞬時に『数字』へと変換する以上な
声の震え、心臓の鼓動、そして体内を流れる魔力の波音までもが、彼にとっては誤魔化しようのない数値となって現れるのだ。
つまり、この男の前で嘘をつくことは、解答の書かれた答案用紙を広げて試験を受けるようなもの。
(…完全に、ハメられた)
れいりはなんだかもどかしい気持ちになる。




