【第二章 - 22】きっと、マカロンよりも美味しい食べ物は無いだろう
ある薄暗い部屋の中で、その美しい女性は目をさました。
「あれ、私は……一体何を……」
そこで、彼女は今までにあったことを全て思い出した。
三大賢者の一人、れいりという子に会い、嘘の任務に出向いたこと。例の石碑を見に行った所で、急に目の前が真っ白になり倒れてしまったこと。
しかし、一体ここは何処なのだろうか…。
見たことのない部屋である。
その時、彼女の頭に一瞬嫌な予感がよぎる。
もしかしたら、れいりは処刑されていて、自分はセイシストにとらわれているのかもしれないと。
起きあがろうと思っても体に上手く力が入らなくて、起き上がれない。
周りを見渡すと、サイドテーブルの上に一枚の手紙が置かれていた。
「目が覚めたら、これを読め。ですか……」
嫌な予感がしつつも、彼女はゆっくりとその紙を開いた。
『情報漏洩の罪でこれより処刑する』
ルミナの、予想通りのことが書かれていた。それもよりにもよって、皇族が書く様な文字だ。
しかし、文章はここで終わっていない。その文章からかなりスペースがあいた場所に文章が続いていた。
『っていうのは冗談で。
ここは、私の家だから安心して?もし、起き上がれなかったら隣に置いてあるベルを鳴らしてくれれば迎えにいくから』
その文章を読んで、ルミナは安堵する。
いや、それ以上の喜びだ、だって自分の顔には水が流れ落ちる感覚があるのだから。
隣を見ると、本当にそこにはベルが置いてあった。
『今、リビングでお茶会をしてるんだ。もし良かったらルミナも参加してよ。そこで、色々事情も話すからさ』
それから、ルミナは重い足をなんとか持ち上げて立ち上がった。
そして、窓を開けて深く深呼吸をする。
「前よりも、一段と寒くなりましたね。私は長い間眠っていたのでしょうか」
はしごを上り、その部屋をでると左の方から笑い声が聞こえてきた。きっと、そこがリビングなのだろう。と、ルミナは歩き始める。
そして、扉を開けるとそこにいた人たちが全員ルミナの方を見つめた。
その中にはもちろんれいりも……。
それから、れいりはルミナに詰め寄ってきておもいっきり抱きしめた。
「お久しぶり、ルミナ」
それに答えるように、ルミナはれいりをおもいっきり抱きしめ返した。
そして、ルミナの目からは思わず涙が出る。
「お久しぶりです」
* * *
「えーっと、一番奥にいるのがエリーナで、そこから右が私のお父さんアイルーで、エリーナの左側にいるのがお母さんシュタン。その左が私の席で、その隣はルミナの席。一番手前にいるのがクローマで、その右にいるのがお姉ちゃんのノアね」
そう紹介すると、ルミナはスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をする。
「皆さん、初めまして。いや、れいり様のご家族とは顔見知りでしたね?ルミナと申します」
「よろしくな、ルミナ殿」
「あろうことか、まさかエリーナ様がいらっしゃるとは…お久しぶりですね」
ルミナは目を見開いて言う。
「まぁな。……そこの、ノアと意気投合してしまってな。ちゃっかりお茶会にも参加させてもらったのだ。そういえば、貴様どこかで会ったことはあったか?」
「はい。昔、シュタン様のメイドが私に入れ替わった時に、最初の行事にだけ付いて行ったんです。まぁ、覚えてないのも当然だと思いますよ……。初めて会ったのは貴方がまだ六歳の時でしたから」
それから、ルミナとれいりは椅子へと着席した。
そして、ルミナのティーカップにお母さんの紅茶理論のたっぷりつまった、紅茶がそそがれる。
その味は、どこか懐かしさを感じる渋みの強いルミナの大好きな紅茶の味だった。
「ありがとうございます。まだ、私の好みを覚えてらっしゃるなんて」
「もちろんよ。これぞ、紅茶理論その三自分の紅茶は自分のお好みに、お出しするお茶は、相手の性格や感情の疲れを見て淹れるべし。だわね」
それを聞いて、ルミナは思わず笑いをこぼした。
「それで、童ルミナに事情を話さなくても良いのか?」
「そういえばそうだね」
ルミナは、机の上に置いてあったピスタチオマカロンを手に取り、一口かじる。
それから、れいりは今まであったことをようやくしてルミナに伝えた。
* * *
最後のマカロンを食べ終えた後、ルミナは紅茶を口に含む。それから口を開いた。
「そうですか。やはり、あの子が来たのですね」
「あの子?」
「はい。その、甘猫という少女のことです。昔はよく七猫と呼ばれていましたが…」
それを聞いて、れいりの中にあった点と点が結びつく。
「もしかして、甘猫の言っていたお姉さんって、ルミナのことだったの?」
「はい。仰る通りです」
それから、ルミナはスコーンを手に取った。
「それにしても、貴様。よく食べるな」
「そうですか?自分でもセーブしているつもりなのですが…」
「だって、さっきまであったマカロンが全て無くなっているぞ?12個もあったのに……」
それを聞いたお母さんが「あら本当」と言って、キッチンから新しいマカロンを取ってきた。
「それで、プロソポンと甘猫の件について何か知っていることは無いのか?」
その疑問に、ルミナは少しだけ視線を落とす。
「知りません。ですが、プロソポンについてはあまり関わらない方が幸せだと思います。少なくとも私は、あの人が嫌いですから」
そう言って、ルミナはため息をついてから大きく深呼吸をした。
「でも、貴方達はプロソポンを殺すつもりなのでしょ?なら、手を貸してあげないこともありませんですが…」
「わかった。じゃあ、貴様が答えられそうな質問だ。そもそも、プロソポンと貴様は一体どういう関係か。そして、どういった人物なんだ?」
エリーナの率直な質問に、ルミナは説明し始める。
ーープロソポン通称サイザーは、セイシスト教会の関係者であり、本部施設長でもある彼は、ルミナを含む「特に優れた5人の孤児」を管理していたらしい。
「あの人は、人使いが荒いというか。気に入らなければ即座に捨て、気に入れば気味が悪いほど愛す。おまけに救いようのない女好きで…」
ルミナは嫌悪感を隠さず、吐き捨てるように言った。
「その上で『絶対的な権力者』なんですから。人間として、終わってますよ」
そして、ルミナはすぐに捨てられ、そこに甘猫が入ってきた。
それが、残念なことに、甘猫は凄く気に入られてしまい少々面倒なことになったらしい。
「多分、れいり様もプロソポンに気に入られる側の人間だと思います」
そして、何よりもプロソポンの一番やっかいなところは、魔法術式を書き換えられる所。
つまり、プロソポンの前では、どんな魔法も撃つことすら出来ないと言うことだ。
「まぁ、後はそうですね。勘ですよ、勘。本当に、神と喋ってるのかって思うくらい。でも、セイシスト教会の信者なのに、何故か神を駆使する魔法は使えないんですよね……」
神を駆使する魔法。それは、文字通り神の力を顕現させる禁忌の術式。その膨大な魔力量と引き換えに使える魔法はとんでもなく強い。
もし、膨大な魔力を手にすることが出来たなら、いつかはれいりも使ってみたいものだ。
「それにしてもプロソポンは本当に厄介な奴みたいだな…。手のつけようがない。そもそも一体何処にいるのかすら…」
「あの人なら、きっといつもの場所にいますよ」
ルミナは平然と言う。
「いつもの場所?」
エリーナは、ルミナに問いかけた。
「えぇ」
「それは何処だ?」
その問いに、ルミナは笑いかけて言う。
「聞くまでもないです。世界は思っているほど狭くて、想像してるよりかは遥かに広いものなのですよ」




