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楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第二章 ミラグロス帝国

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【第二章 - 21】顔見知りの名医

 作戦会議室には、前と少しだけ違う所があった。

 それは、机の上にとある魔道具が置かれていたからだ。


 見た目は、占いに使われる水晶みたいで、用途は嘘を見破る為のもの。

 対象者が真実を言うと青い光が放たれ、対象者が嘘をつくと、水晶から青い光が点滅するといった仕組みだ。


 会議室の重い扉が閉まった瞬間、部屋の空気が一気に重くなる。

 そして、エリーナは低い声でれいりに「そこに座れ」と言った。


 れいりは言われたままに、椅子に腰を下ろすとエリーナは一番奥の席に座り肘を付き目線をやや下の方へとやる。

「カーロから話は聞いた…。…どういうことなのか説明しろ。甘猫は何処にいる」


 その言葉に、れいりは特に何の返事もしなかった。

「何か言ったらどうだ」

 エリーナは怒ったままだ。


「存じ上げません……」

 震えた様な困った様な声でれいりがそう言うと、水晶はもちろん青い光を放った。勿論、点滅などしない。


 水晶をみたエリーナは、何処か安心したような表情を浮かべる。

「れいり殿、無礼なことをしてしまい申し訳なかった」

「いえ、別に……」


「そうか、じゃあ貴様は何も知らないんだな。甘猫がプロソポンを逃した件について。しかし、何故お前はここにいるのだ?」

「セシリアが、あそこに甘猫は居ないからって、それで付いて言ったら宮殿に着いたんだよね」


「何で、貴様は普通に馬と会話しているのだ?」

「こっちが聞きたい未解決問題ですよ」

 そう言うと、また水晶は青い光を放った。それを見て、エリーナはため息を吐く。


 それから、エリーナは水晶の魔力供給を止めれいりの方を見た。

「それで、甘猫は何処にいるんですか?」


「我も、知らぬ。そもそも、何故逃げたのかもな…。カーロに事情を聞いて見ても良いが…あまり事情は変わらないと思うぞ。ほら、貴様例えば甘猫の知り合いとかしらないのか?

 」

 甘猫の知り合いといえば、あまり数は限られてくるが……。

 そもそも、そんな人いたのか?と、最近の話を思い出しているとすごく距離の近い人物を思い出した。


「お姉さん!」

「えっと……お姉さん?甘猫には生き別れの姉がいるのか?」


「いや、ちょっと違うんだけど……。こないだ甘猫にお姉さんの話を聞いたんだけど、肝心の誰なのか聞くの忘れちゃって……。でも、家にセイシスト教会の関係者なら…。今は、魔力中毒症状で寝てるんだけど」


「そうなのか。じゃあ、それを治せば良いんだな?」

「まぁ、うん。でも、それにはプロソポンを殺さないといけなくて…。呪いだし」


「安心しろ、任務に必要なことは何でもやってやるって言っただろ?その人の治療のお金と人材はこっちで手配する」

「良いの?」

「もちろんだ」


 * * *


 3日後ーー。

 灯光の夜、結局れいりはエリーナのおかげで無事に参加できて、とても良い思い出になった。


 それから、3日も経つと、流石に街の賑わいも減りつつあり、いつもの日常に戻ってきた感じがする。

 結局あの日から、甘猫が一回も帰ってくることはなく、今日は一人でルミナスタウンの上空を箒で飛行していた。


 じゃあ、何故ルミナスタウンの方へと来ているのかといえば「人材の確保が出来た。宮殿の前で待っていろ」と帝国の使者からエリーナの伝言を預かったからだ。


 れいりが、宮殿の入口に降り立つと、そこにはこの間の騎士「ホプリティス」が出迎えてくれた。

「お久しぶりですね。れいり様、エリーナ様がお待ちです」


 ポリプティスは膝を付き右手を胸元に当てる。

 それから、れいりをエリーナの元へと案内してくれた。


「久しいな、童」

 そういって、出迎えてくれたのはエリーナ。その隣には、エリーナが手配すると言っていた医者らしき人物が居た。


 れいりは、その人物を見て愕然とする。

「先生じゃないですか!お久しぶりですね」

「誰が先生ですか。いつも言っていたでしょ?私の名前は、ゼノ・グラッシュだって」


「もしかして、知り合いなのか?」

「はい。れいり様とはかなり古い仲なのですよ」


 この先生の名前は「ゼノ・グラッシュ」帝国でも指で数えられる人数しかいない名誉「帝国医学栄光賞」を授かった名医である。

 ついこの間見た夢に出てきた例の医者であり、れいりとはかなり古い仲なのだ。


「では、自己紹介は省くとしよう。ところで、今日は我にしては珍しく年始休暇を取っていてな。我も貴様に付いて行って良いだろうか」

「何も無いけど……」


「いや、何もなくない。貴様の家系には優秀な人材が沢山揃っているからな。それに、今日は貴様のお姉さんが帰ってきているのだろう?」


「まぁ、よく分からないですけど……来ても良いよ」

「その心遣いに感謝する」


 ーーお姉ちゃんのことといえば、2日お姉ちゃんから伝書鳩が届いていたのだ。

『れいりちゃんへ


 年が明け、日に日に寒さが増していく今日この頃。

 れいりは日に日にお布団から出れなくなっていることを存じ上げます。

 そんなこんなで、お姉ちゃんも日々カタツムリ化していっているのですが……年末くらいには実家に帰ろうかと思っています。

 やっぱり可愛い妹の顔も見ておきたいなって…。

 本当は灯光の夜に帰りたかったのですが、残念ながら研究に詰まってしまって、年末までに帰宅すると言う目標は今年も叶うことはありませんでした。

 多分、2日後のお昼に着くとおもうから楽しみにしておいてね?お姉ちゃん沢山おみやげ買ってくるから!

 心虹ノア(れいりのお姉ちゃん)より』


 エリーナと先生を連れて家に帰ると、お姉ちゃんが出迎えてくれた。

 そして、お姉ちゃんはれいりを力一杯抱きしめる。


「れいりちゃん!会いたかったよ〜」

「随分、仲の良い姉妹みたいだな」

 微笑ましい姉妹の様子に、エリーナはそう感想を述べた。


「こんにちは。エリーナ様」

 それから、お姉ちゃんはエリーナに向かってカーテシという敬礼をする。


「大丈夫だ。今日の我は休暇中だからな。敬礼などしなくても良い」

「あら、エリーナ様お気づきではないのですか?もし、貴方が仕事中だったらカーテシではなくきっと最敬礼をしていましたよ」


 本当は、カーテシーは貴族や目上の人に使うものらしいが、ミラグロス帝国ではいつの間にか少し丁寧な挨拶として広まっていた。だから、お姉ちゃんの言っていることは確かに間違いではないのだ。


「貴様、面白い奴だな。文通でもしないか?」

「ぜひぜひ、では帰り際に私の住所を書いた紙をお渡しますね」


「そんなことより、例の彼女は何処にいるのですか?」と、先生が口を挟む。

「ルミナなら、お母さんの医務室に…」


「私は……お母さんの部屋を見るとちょっと吐き気がするから、リビングに戻るね。そうだ!お茶を用意しておくわ?」

 お姉ちゃんは逃げるようにリビングの方へと走って行った。


 * * *


 医務室は、お母さんの隠し部屋にあり、お母さんの部屋からしか入ることが出来ない。

 だから、少々面倒臭いが部屋の中にあるハシゴを使って下まで降りなければならないのだ。


「あの子は、少々貴様のお母さんに似ているな……」

「まぁね。私はどちらかと言えばお父さん似なんだけどさ……」


「それは恐ろしいな」

 エリーナの発言にはちょっと引っかかるところがあった。

 別に、嫌とかそういうわけじゃなくて、エリーナがお父さんのことを如何にも知っているような発言をしていたからだ。


「この方が…。酷い魔力中毒症状です」

 ルミナを見た途端、先生は深刻そうな顔をする。


「それも、継続的な。完全に魔術で形成されているが、限りなく呪いに近いな」

「今は、魔力を吸う魔道具でこれ以上悪化しないようにしているんだけど…」


 それから、先生はルミナの額の上に魔法陣を浮かび上がらせた。

 次の瞬間、その魔法陣から淡い光が円状に解き放たれる。すると、さっきまでルミナにまとわりついていた濁った魔力が消えたのだ。


「案外こういうのもいけるんですね……」

「ちょっと待った。貴様、こいつに何をした」

 意味深な発言をした先生にエリーナは尋ねる。


「すみません。言い方が悪かったですね。即席で作った治癒魔法だったもので……」

 先生の話があまりにも難しすぎたので簡単に要約すると、とにかく、見たことのない症例だったので、即席で治癒魔法を作ってみたらしい。


 魔力と魔力が離れる性質を利用して、ルミナの中にある濁った魔力を魔力をつかって除外し、それを消すようにしたらしく……。

 一体どうやって、魔力を消したのかはれいりにも理解できない領域である。


「まぁ、とにかくお前は凄いんだな」

 そう言って、エリーナは少し足りない身長を背伸びして、なんとか先生の肩に手を乗せた。

「まぁ、凄いじゃ困りますよ。だから…」


「もう大丈夫だ!そんなことより、この子が起きるまでリビングででも茶菓子を頂かないか?れいりの姉様が用意すると言っていたではないか」

「それもそうですね……」


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