【第二章 - 14】大根を指して罪人と為す
ーー何故、こんなにも話が長いのだろう。右腕とはいえ、もう喋り始めてから15分だ。
まぁ、要約するとアトラス様は神に選ばれし存在だと、そう言いたいのだろう。
誰でもなれるからこそ言える話である。
アトラスは、確か前の皇帝と何らかのきっかけで仲良くなって、その戦略的思考の高さを認められ7つもの戦いを勝利に収めたのだとか。
そして、とにかくチェスが強いなどとか。
あまりの話の長さに、退屈したれいりは精一杯あくびを我慢していた。
もう、話始めて30分だろうか。
その瞬間ーー。
アトラスが、王座に肘をつき足を組む。
「黙れ、レグナスよ。ほら見ろ、あそこの少女。今にも死にそうな顔をしているではないか…」
そう言って、目線が向いたのは。
「わわ、私!」
「レグナス、場をわきまえろ。そもそも、先ほどから何故余よりも頭が高いのだ」
「申し訳ございません。皇帝」
そう言って、レグナスは膝を付き皇帝の方を見る。
「お前は一旦、ここから出て行け」
舌打ちして、扉の方を指で示した皇帝に怯え、急いで会場を後にするレグナス。
「そうだな、先ほどから死にそうな顔をしていたそこの、この場を取り仕切れ!」
何を言っているのかわけもわからずポカンとしているれいりをみて、甘猫はれいりの肩を揺さぶる。
「れいり様!貴方のことですよ?何してるんですか」
我に帰ったれいりは、人々からのとてつもない圧力を感じる。
ルーチェが言っていた様に、雰囲気なのかもしれないが、それでも怖いものは怖いのだ。
しかし、ここで待っていた方が事は大きくなってしまう。
緊張のあまり、れいりは手と足を同時に出しながら、帝王の前まで歩くことになったのである。
王座のすぐ隣についたれいりは、緊張のあまり無心になっていた。
「まず、余より頭を下げることだ」
怒り気味に言われたその言葉に従う様に、れいりは膝を付く。
「何をやっているのだ、そんな体勢じゃ場を取り仕切れぬ。そもそも、貴様先日、孤児院の職員を100人以上殺したと聞いている」
その言葉に、周りは騒然とする。
「いや、それは…!」
れいりが反論するよりも先に、アトラスが口を開く。
「黙れ!早く、こいつを摘み出せ」
アトラスが指示すると、周りにいた護衛兵達がれいりの腕を掴み、れいりは引きずられたまま、廊下へと出された。
(理不尽な…)
一体何が起きているのかわけもわからず連れて行かれたのは留置所、的な所だろうか。
牢屋というか、外は見えなくてコンクリートの外壁で覆われている。
その上、水漏れまでしていて……でも、居心地はなかなか悪くない。
私くらいなら余裕で脱出出来るがどうせなら、久しぶりに静かな個室でゆっくり魔導書でも読もうか。
収納魔法から、とある一冊の魔導書を取り出したれいりは、近くにあった布団にダイブし、ページをめくる。
~きっと使える!初心者向け娯楽魔導書~
この本はなかなかに良い、普段難しい魔導書ばかり読んでいると柔軟な発想がわいてこなくなるものだ。
たまには初心に帰りたいし、実用性の分からない面白い魔法が沢山あるのだ。
例えば「小さな光を出す魔法」という題名のページがあった。
1秒だけ、指先から一ミリ程度の光が出せるそうで…。やってみたが、何の実用性があるのかよく分からない。
そうやって、隙を潰していると、外の方からコンコンと鉄を叩く様なそんな音が聞こえ始めた。
最初は特に気にしていなかったのだが、途中からその音はどんどん大きくなってきて。
「ねl、これじゃあ~きっと使える!初心者向け娯楽魔導書~が読めないじゃん……誰?返事をして、今すぐその狂った頭を魔法で直してあげる」
れいりは、そう叫んだが別に返事は帰ってこなかった。
しかし、しばらくするとまた、同じ音が……。
れいりは魔法を使って扉を開ける。
廊下に出てみると、とある一つの部屋からとてつもなく大きい音がしたので、その扉をさっきと同じ方法で開けた。
「誰、さっきからうるさいんだけど」
そう言うと、中にいた人が振り返る。
「あぁ、覚えていないのですか…。まぁ、良いです。脱獄の手間が省けましたね」
微笑んでから、その男は姿を消す。
(やばい!追いかけないと…)
れいりは、即座に後ろを振り向く。
しかし、そこにも男の姿は居ない、しかしそこには誰もいなかったわけではなくて…。
「その必要はない」
そう言ったのは、エリーナ。
「さすがだな、貴様は本当に素直で良かった」
「どういうこと…。というか、エリーナは席外しちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫だ。なんせ、あいつは我の影武者だからな。最初からこれは作戦だ。理由は、まぁ色々あるが、あれはプロソポンが生み出した幻の一人だ。これが、プロソポンを呼び出させる為の作戦段階だな。一旦我に付いてこい。そこで説明する」




