【第二章 - 12】皇后 ルーチェ・レナーテ
会場の方へ戻ったれいりと甘猫は、先ほどまではなかった異様な空気を感じ取る。
そして、れいりは甘猫の背後へと隠れた。
「れいり様、体格差が大きすぎて頭隠してまさに尻隠さずです」
「いや、見えてても後ろに隠れることに意味があるの!」
異様な空気と言っても、別に何か事件があったとかそう言う雰囲気ではなくて、どちらかといえば引き締まった感じだ。
ただ、のんびりと生きてるれいりにとってこの雰囲気はかなりの苦痛を感じるものなのである。
「甘猫、一旦廊下に出よう」
この雰囲気に怖気付き耐えきれなくなったれいりは甘猫にそう伝えた結果、一旦廊下で休息を取ることとなった。
「れいり様、あの状況にはいつか慣れなければいけないのですよ。これからも、ああいう雰囲気に遭遇することは何度もあるはずです」
「いや、それは分かってるんだけど……。でも……」
もじもじしているれいりを見て、甘猫はため息を吐いた。
すると、廊下のテーブルでワインを飲んでいたある女性がいきなり近づいてくる。それを見て怯えるれいりをよそにして、女性を見た甘猫は目を見開いた。
「こんにちは」
「あの、そのー。えーっと、こんにちは!」
「あらあら、そんなに緊張しなくても良いのよ?」
「いや、そんなことを言われても……」
「それもそうよね。だって、私だって緊張しているもの」
ワインを持ったまま、れいりの隣に座った女性は甘猫の方を見る。
「貴方は、れいり賢者のメイドさん?だわよね」
「はい。ですが、何か御用が?」
いつもより、どこか戸惑った様子の甘猫をみて、女性は微笑む。
「その様子だと、私の正体はとっくに見破られているようね……」
「はい、猫は嗅覚が敏感ですから。昔、会ったことがあるので、匂いは覚えています」
「もちろん。覚えてるわよ?帝国魔法研究会連合会発表式、セイシスト教会代表としてきたのがまさか、シスター養成所の子だったなんて!って当時は凄く驚いたもの」
話に付いていけず、困っているれいりを見た甘猫は説明する。
「私がこないだ、飛び級したって話しましたよね。その時に開発した魔法が帝国魔法研究会連合会発表式っていうイベントに出されたんですよ」
「それで、この女性と何の関係があるの?」
「この方は、皇后のルーチェ・レナーテ様でございますよ」
その言葉にれいりは一瞬時が止まる。
そして、皇后に向かって土下座をした。
「まっことに申し訳ございません。本当に申し訳ございません、どうか首を切るのだけはお許しください!」
それを聞いたルーチェは爆笑する。
「ふっ、うふふ。貴方、本当に面白いのね。何を言っているのよ、三大賢者は皇帝の次の地位なのよ?私は貴方よりも下の地位なのに土下座までしてくるなんて…。この子は、三大賢者としてとても良い子なのね…」
「でも、何か、私なんて下の下ですから!なんか、ごめんなさい!ルーチェ・レナーテ皇后様」
「ルーチェで良いわ?まぁ、まずは顔をお上げなさい」
言われるがままに顔を上げ、一旦椅子へと座ったれいりはまだ、頭の中で現実逃避をしていた。
(本当にごめんなさい!あれ、うん。うん、ごめんなさい)
「そうよ、本来の目的を忘れていたわね」
そう言って、ルーチェはれいりの肩に手を載せる。
「そんなに緊張しなくていいのよ。って言いに来るつもりだったのだけれど、貴方も、貴方のメイドさんも優秀なものだからすっかり忘れていたわ」
「ルーチェ様が直々に慰めにきてくれたんですか?」
「そうよ。ほら、肩の力を抜いて。あれは、ただの雰囲気、だってエンペラーなのに威厳がなかったら帝国の頂点として、人をまとめ上げられないでしょ?だからああやって雰囲気を作っているのよ。それに、まだ来てい無いけれど、実は皇帝って裏ではもっと優しいくておっちょこちょいな人なのよ?」
そう言って、クスッと笑ったルーチェを見て、なんだかれいりも自然と力が抜ける。
「そこのメイドちゃんも。ほら、深呼吸して?緊張しているのでしょ?だから、さっきもれいりちゃんに少しきつい態度をとってしまった。違うかしら?」
「まぁ、確かにそうかもしれませんね。ありがとうございます」
甘猫が頭を下げると、ルーチェは「いえいえ」と控え目に手を振る。
「というか、何故ルーチェ様がここに…。しかも、変装までして…」
「それは、えーっと、あの……。エリーナが何かしでかしてないかな、と思って」
まぁ、心配する気持ちは分からなくもない。
結局、ルーチェの話を聞いていると、完全にれいりの予想通り。少し気の強いタイプだから、態度で誤解されることが多いそうだ。
「でも、あの子は優しい子だったよ。ちょっと態度は大きいけれど、私みたいな人にも丁寧に色々やってくれるし…」
「そうだったの?エリーナが貴方を連れて行くとき、貴方みたいなほんわかしてるタイプと波長が合うのか不安だったのよ」
「え、見てたの?なんかもっとほんわか感を隠してれば良かった!」
衝撃の事実に、動揺を隠しきれないれいりを見てルーチェはクスッと笑う。
「貴方は、ほんわかしてた方が良いわよ。重たい空気が和むもの」
それから、ルーチェは用事があると、椅子を立ち上がり廊下の奥の方へと進んでいった。
ルーチェの言葉になんだか勇気がでたれいりは、甘猫の背後に隠れながら会場へと戻った。
「れいり様。いつまで、私の肩に掴まっているのですか……」
「だって……。良いでしょ?ね?」
「まぁ、別に嫌なわけではないですけど…」




