【第二章 - 9】脱獄者の足跡を辿るべく
「無事に、帝国所属になった甘猫を祝して、乾杯」
お父さんがそう言うと、それにつられてれいり達も「乾杯」と言う。
「そんなに、祝わなくてもいいですのに……」
「何を言っているのですか、帝国所属になれるのは十万人に一人なんですよ?逆に祝わない方がおかしいですよ」
と、なんだか、聞き覚えのある声がした。
声のする方を見ると、本当に覚えのある人だった。
「なんで、クローマがここにいるの?」
「いやー、ルミナスタウンでしばらく職を探してたのですが、セイシスト教会に連行されそうになったり散々でしたよ……。そのおかげかお金がなくなり、ここ最近ご飯が食べれてないのでお邪魔しているというわけです」
この言動を聞く限り、今回のクローマは本人で間違いなさそうだ。一応この間の件に関しても少し話しておくべきだろう。
「クローマ、後で私の部屋来てくれる?少し話したいことがあって」
「え、僕何かされるんですか?」
「大丈夫。説教とかじゃないから安心して」
すると、耳元で誰かが囁く。
いや、直接的ではないので、魔法からだろうか、何か聞かれたくない話といえば。お母さんが知らない話くらいだろう。
「少し、困ったことが起きててね。その話、僕も参加させてくれないかい?話す場所は僕の部屋で、お母さんのことははぐらかすんだよ?」
何故、そこまでしてお母さんにばらしたくないのかはよく分からないが、一旦その要件には興味があったので、お父さんにアイコンタクトをした。
甘猫は、お母さんと一緒にいさせた方が良いだろう、そっちの方が怪しまれずに済む気がする。
それから、れいり達はパーティーを楽しみ、れいりは美味しいご飯を食べつくし、ご満悦な顔をしている。
「れいり様、本当に良く食べますね」
「まぁね。毒入りも好きだけど、こういう系統の料理も好きだから。いつも食べ過ぎちゃう。毒は別腹的な?」
それから、話すふりをして、甘猫に現在の状況を伝えると、無事分かってくれたような反応を見せたので問題ないだろう。
これからも立場上、こういう情報を漏らさないための技術は必ず必要になってくるので、技術を少しずつ教えていった方が良いだろうか。
少し食器を片づけてから、廊下に出たクローマにれいりは、事情がありお父さんの部屋に行くことを伝える。
ーーそして、お父さんの部屋に着くと、魔法で勝手にドアが開いた。
もう、お父さんは部屋に戻っていたのだろう。
この家で、甘猫の次に片付けが出来るお父さんは、そこまで部屋は散らかっていない。来客がゆったりくつろげるスペースもあり、なかなか悪くない部屋だ。
「好きな所に座ってくれ」
そう言って、お父さんは下の方に目線をやる。
低い高さのソファーにクッション、別に床に座っても良い。自由気ままなお父さんにピッタリの部屋である。
れいりは、ソファーに腰を下ろし、クローマは膝を組んで床に座った。
「今回、れいりを呼んだのは他でもない、少し困ったことが起きててね…。その件に関してはクローマ君。君にも巻き込まれているんだよ」
「へ?僕、何かしましたっけ。また、何か余計な一言を?」
お父さんは軽く息を吸ってから、申し訳なさそうに言う。
「いや、今回の君は被害者だ。お詫びとして、しばらく僕らの家に泊まっていくと良いよ。いや、君はしばらく外にはでない方がいいだろう」
「いや、それはありがたいんですが。外に出てはいけないとは一体…」
「実は、プロソポンに逃げられたんだ…」
れいりは、その言葉を聞いた瞬間時が止まる。その一方で、クローマは何が起きているのか分からないまま困った様子を見せていた。
「一旦、クローマには今までの話を知ってもらう必要があるね」
そう言って、お父さんは今の状況を簡潔にクローマに伝えた。セイシスト教会のプロソポンという男が、クローマに擬態していたということ。
そういえば、その後プロソポンは一度甘猫の手によって逃がされたものの、もう一度帝国の手によって捉えられたらしい。
もちろん。れいりはこれまでの事実を甘猫から詳しく聞いている。
「それが、問題なんだ。実は、プロソポンへの取り調べのために、とある牢屋の城に閉じ込められてたんだけど、夜中仲間の助けで逃げられちゃってね。それで、そこからが問題なんだ。その、プロソポン達は真正面から兵を倒していって逃げていったみたいでね。それで、プロソポンの仲間らしき人の特徴がクローマに似ているんだ」
「つまり、そのクローマが街で見つかったら最悪処刑の可能性もあると…」
「そういうことだ。でも、安心してくれ。僕は、少なくとも君じゃないと信じている、君の親戚とは縁があってね。魔力も完全にデータと一致しているから問題ないだろう」
そう言った瞬間ーー。
部屋の扉が開く。
「それは、かなり厄介な問題ですね」
「甘猫?あれ、お母さんの見張は大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫ですよ。お母様ならお酒でベロベロになっていたので、ベッドに寝かしつけに行きましたから」
「それで、今聞いた感じの話だと。そのクローマ様に擬態している人はプロソポンである可能性が高いと……そういうわけですね」
「あぁ、真正面から突破したのも、クローマを犯人に仕立て上げるための作戦だろう。あっ、そういえば君の家系は皆んな口が緩かったね。絶対この話は絶対僕の奥さんに話しちゃだめだよ。念の為、魔法でもかけておく?」
口が緩い家系とは一体どんな家系なのだろうか……。
「はい、その方が良いと思います。しかし、何故お母様にバレない様にしなくてはいけないのですか?」
「え、それ聞いちゃう?あんま聞かない方が良いと思うよ。どうせ、これから知ることになるだろうから。まぁ、ヒントといえば旧名かな」
(あれ?お母さんの旧名って、何だったっけ)
それから、お父さんは約束通り、契約魔法をクローマにかける。
一般的な契約魔法は、契約をやぶった際にペナルティが発生する魔法である。
しかし、お父さんが今クローマにかけたのは、契約をやぶるのを未然に防ぐ方の魔術式だ。
* * *
ーー話しを終えたれいりは、甘猫と一緒に自分の部屋に帰った。
窓の方を見ると、外はすっかり暗くなっている。
「まぁ、プロソポンが逃げ出すのは想定内でした。あの人、勘と頭脳だけはずば抜けていますから」
それから、甘猫はれいりの隠し部屋の扉を開け、暖炉に火をつける。
そして、布団にくるまっていたれいりは、近くにあった本を、魔法で浮かび上がらせた。
「甘猫。その、本取って」
甘猫から本を受け取ったれいりは、手を使わずにまたもや魔法で本を開いた。
「プロソポン、西の方では演者みたいな意味を表す言葉なんだね」
「はい。ですが、それはコードネーム的なもので本名はサイザーと言うそうです。それが何か?」
「いや、別にただ気になっただけ。今は指名手配書も出されてるんだよね、多分次に見つかったら即死刑だけどさ、どう思う?甘猫」
「死刑にしても意味がないと思います。そもそも、この間会ったのはプロソポン本人ではなく、幻術魔法を使った幻でありクローン的存在。意識は本人と疎通されていますが、あれを殺したって根本が枯れなかったら意味がないですよ」
「え、甘猫って魔力見えないんじゃないの?」
「見えません。ですが、少しこつを掴めば分かるようになりますよ。少し、反応速度が下がるんですよ、神経の伝達に時間がかかるっていうか、本体からクローンまでの伝達に誤差が生まれるんです、まぁ本当に少しなので、相当反射速度が高くないとわかりませんけれどね」
つまり、根源が分からない限り解決が難しいということ。
「れいり様、プロソポンの魔力の波形を覚えていますか?あの、私には見えないので…」
魔力というのは、いわば戸籍の様なもの。
人それぞれ特徴があり、属性による色、魔力量、流れなどが存在する。
そういうのが、見えないのが多数派であり、帝国上では見える者は存在しないと書かれているが、鋭目や血筋などの関係でごく稀に見える人も存在する。
「一応覚えているけど、特に珍しい波形でもなかったし、あんまり役に立たない気がする」
「魔力が見えるの、何となく羨ましいです。しかし、最近思うんですけど、魔力見える人って意外と多数派なのでは?」
「いや、殆どいないよ。そもそも、いないことになってるんだから。鋭目とかも、ドラゴンだから、そもそも擬態してるだけで人類の種族じゃないし、奇跡的にそういう人が周りに多いだけ」
「そうなのですか。というか、話がずれてしまいましたね。それで、これはあくまでも私の推測なのですが、今度ルミナスタウンで開催されるお祭り「灯光の夜」に来る気がするんです」
何故、わざわざ人が多いお祭りに、出向くのか意味が分からないが、逆に興味は出る。
「プロソポンは、多分このチャンスを狙っています、それも少し面白いことが出来るからです。あの人はそういう人なのですよ、私は彼のそういう所大好きですが、まぁ、今回はちょっと話が違いますね」
甘猫は微笑んでそう言った。
「それで、話に戻りますが。多分、あのお祭りにはクローマを行かせるべきでしょう。そうすれば必ずあの人たちは来ます。だって、二人も同じ人がいたら、皆んな混乱するでしょう?つまり、クローマを生贄に使用作戦ですね」
「なんか、名前がぞっとするね」
「安心してください。クローマ様が殺されることはありません、少し細工をすれば問題ないのですよ。ですが、1番の問題はどうクローマを説得させるかですね」
れいりは、そこである問題に気がつく。
「ってことは、ルミナの件に関してはこの事件が解決するまで後回しってことか…」
「いいえ、プロソポンはルミナ様の事件に関与しているような気がするんです。これは、ただの勘ですけどね」
それから、何か心当たりがあるのだろうか、一瞬目を見開いてから甘猫は扉の方へと向かった。
「今日は、もう遅いですから。おやすみなさいれいり様」
「おやすみ。甘猫」
れいりがそう返事をすると、甘猫は一礼だけして、部屋を出て行った。
それかられいりは、ほっとため息を吐く。
「サイザーか、やっぱりどこかで聞いたことのある名前なんだよな」




